43巻(1997)12月号


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ギガントカプルス ギガンテウス

 北海道の旅館にあったギガントカプルス・ギガンテウスの化石

上の写真は,北海道で泊まった旅館の玄関口にあった化石です.たいへんみごとなので,写真をとらせてもらいました.旅館の人にうかがうと,道路工事にきているお客さんが,現場で見つけ,おみやげにするために置いてあるということです.その北海道の人はホタテガイの化石だと言っていたそうですが,ホタテガイの特徴である耳という部分がないので,私は,大型のカキのなかまだろう,と言ってしまいました.さすが北海道のカキは大きい?! ホタテガイもカキも二枚貝類です.でも,化石には二枚の貝がらがつながる部分がなく,すなおに見れば,笠形の貝でした(図1).


図1:ホタテガイ,カキのなかま,笠形の貝のちがい.


 貝がらをもつ軟体動物には,単板綱,多板綱(ヒザラガイのなかま),腹足綱(巻貝),二枚貝綱,掘足綱(ツノガイのなかま),頭足綱(オウムガイやアンモナイトのなかま)があります.笠形の貝といえば,巻貝か単板綱ですが,単純な形なので,貝がらだけで何のなかまか判定するのはむつかしいです.大阪湾の磯にいる笠形の巻貝でも,マツバガイやアオガイなど,多くは前鰓亜綱原始腹足目ツタノハガイ科ですが,カラマツガイは有肺亜綱で,図鑑でもずっと離れたページにのっています.

 写真の貝は,白亜紀後期(およそ一億年前)の,ギガントカプルス・ギガンテウスという巻貝でした.この種は,はじめツタノハガイ科にされ,後の研究で,前鰓亜綱中腹足目カツラガイ科とされました.二枚貝のイノセラムスにぴったりくっついた状態の化石が研究されて,今のカツラガイと似た生活をしていると考えられ,それ(古生態)が,新しい分類の理由のひとつになりました.カツラガイのなかまは小さな貝が多く,第2展示室にある上町層のヨコヤマカセンチドリ(カプルス・ヨコヤマイ)も1cmにみたない小さな貝ですが,白亜紀のこの貝は40cmにもなるので,巨大な・巨大カプルス(キャップぼうし)という意味のすごい名前がつけられたのでしょう.

 表紙写真の化石を,博物館の標本にほしいと願ったのですが,持ち主と会えませんでした.しかし,道路工事現場近くの土砂とり場で,大きなアンモナイトと,不完全ながらたくさんのギガントカプルス・ギガンテウスの化石を採集できました(図2).


図2:採集したギガントカプルス・ギガンテウスの化石.表面の装飾がさまざまなのも,この種の特徴.

石井久夫(博物館学芸員)


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