質問コーナー 過去のやりとり(1997年8月-12月)
質問
●1997/12/17 四条畷市の 中島修さんの血吸いバッタについての質問
●1997/12/7 東京都の岩井祐香子さんの博物館実習についての質問
●1997/10/29 東京都の金成元夫・いずみさんの花についての質問
●1997/9/16 京都市の中田兼介さんのタコやイカについての質問
●1997/9/16 堺市の浦野信孝さんのイタチについての質問
●1997/8/26 奈良市の中嶋江美理さんのツバメについての質問
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質問への回答
●1997/12/17 四条畷市の
中島修さんからの質問
バイト先で昆虫の話になったとき、血吸いバッタ(吸血動物?)というのがいるということを聞きました。 本当にいるのでしょうか?
また吸血性の昆虫類は蚊以外いないのですか?
【昆虫研究室の金沢学芸員と初宿学芸員の答え】
他の動物の体液を吸う昆虫は、アメンボ類、サシガメ類やタガメなどのようにたくさんいます。ところが、吸血性という用語は、ふつう「ヒトの血を吸う」という意味で使われていますので、吸血性の昆虫の種類数はかなり限られてきます。ほとんどのバッタはイネ科を中心とする草本の葉を食べ、一部は落ち葉やコケを食べます。狭い容器の中など密度の高い環境で飼育すると、共食いをすることはありますが、ヒトの血を吸うバッタは、日本だけでなく世界にも記録がないと思います。たぶんこの先も発見されることはないでしょう。
「血吸いバッタ」というのは、クビキリギス(キリギリス科)のことでしょう。ショウリョウバッタに一見似ており、口のまわりが赤っぽいので、そう呼ぶ人もいるようです。よく見れば、触角が長く、キリギリスの仲間だとすぐわかります。大阪付近では普通種で、成虫で越冬して、翌年の5月頃に鳴きます。なぜ口のまわりが赤いのかはわかりません。また、時々「ピンクのバッタ」や「赤色のバッタ」が見つかったと騒がれますが、クビキリギスの褐色型の極端な個体と思われます。このような体色も「血吸いバッタ」という呼び名の原因かもしれません。
ヒトの血を吸う蚊以外の昆虫は、ブユ類、ヌカカ類、ウシアブ類、サシバエ類(蚊も含めて、これら5群はハエの仲間)、ノミ類(ヒトノミなど)、トコジラミ類(ナンキンムシと呼ばれていたもので、カメムシの仲間)、シラミ類(アタマジラミなど)などけっこういます。昆虫ではありませんが、ダニ類(イエダニなど)にも吸血性の種類がかなりいます。
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●1997/12/7 東京都の岩井祐香子さんからの質問
大阪市立自然史博物館では学芸員資格を取るための博物館実習生を受け入れていますか?
【茂似太の答え】
博物館実習というのは、学芸員資格を取得するために必要な単位の一つです。たいていの場合、大学ではなく、博物館施設に行って実習を受けることになります。近頃学芸員の資格を取るコースを設ける大学が増えて、実習を受け入れてくれる博物館施設を見つけるのが難しくなっているようです。岩井さん以外からも、博物館実習についての質問をいただいていますので、「博物館実習生の受入れに関する運用方針」をホームページで公開することにしました。興味のある方はご覧になってください。
なお自然史博物館では、毎年ふつう8月と10-11月に博物館実習を受け入れています。でも年間通じて20人程度とあまり多くはありません。実習希望者があまり多くなると、お断りする場合も出てくると思いますので、あらかじめご了承ください。博物館実習の申し込みは大学の教務か教官を通じて行なってください。希望者は生物学または地学関係の単位をとっていることが必要です。
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●1997/10/29 東京都の金成元夫・いずみさんからの質問
Q1.花は世界中に何種類くらい有るの?
Q2.地球ができてどのくらい(何年前)から花はあるの?
その世界最初の花は何の花?
Q3.タネの無い花はどうやって増えるの(そんな花有るの)?
【植物研究室の岡本学芸員の答え】
花についてのご質問にお答えします。まず、ここで言う「花」とは「被子植物の花」に限っていることをお断りしておきます。モクレン、サクラ、チューリップなどの花らしい花をつけるものから、カシやイネなどの花が目立たないものまであります。マツやソテツなども「花が咲いた」と言われることがありますが、これらは裸子植物ですので含めていません。
> Q1.花は世界中に何種類くらい有るの?
種類を大きくとるか、小さくとるかで変わりますが、被子植物の種類数は約25万種と言われています。園芸品種は含んでいません。
> Q2.地球ができてどのくらい(何年前)から花はあるの? その世界最初の花は何の花?
被子植物がいつ、どんな植物から進化して生まれてきたかは、よく分かっていません。確実に被子植物であると考えられている化石は、白亜紀初期(約1億3千万年前)の花粉化石です。その時点で、20種類ほどの花粉化石が知られています。
被子植物の化石は、中生代白亜紀にいきなり、ある程度の多様性をもって現れるので、最初の花がどんなだったかを推定するのは難しい問題ですが、センリョウの仲間、モクレンの仲間、クスノキの仲間などは、ごく初期からあったことが分かっています。プラタナスの仲間もたいへん古くからあったことが分かっています。
> Q3.タネの無い花はどうやって増えるの(そんな花有るの)?
自然の状態ではタネのない花が、いつまでも存続することは困難でしょう。しかし、人間のまわりにはタネのない花は結構あります。 球根でふえるヒガンバナ(中国にはタネのできる2倍体の系統があります)、株分けでふやしているバナナ(野生のバナナにはタネがあります)などは分かりやすい例です。
園芸植物では、バラやチューリップなど多年性のものは、八重咲きになって種子ができなくなっても、接き木や挿し木、株分けなどで増やすことができます。
一年草のストックなどは、八重咲きになりやすい系統の種子を蒔いてつくります。八重咲きのストックの花壇を注意して見ると、同じ色の一重の株が混じっていることがあるのに気付かれると思います。その株のタネを蒔くと、高い頻度で八重咲きの株が出てきます。八重咲きの株には、雄しべも雌しべも無いので種子はできません。
最近はあまり見かけませんが、「タネ無しスイカ」もタネのない花の一例です。これは、薬品処理をして人工的に4倍体のスイカをつくり、これと2倍体のスイカを掛け合わせて3倍体の種子を得ます。発芽した株は3倍体なので種子はできません。こうして,種子はできないが果実だけは大きく発達するようになったのが「タネ無しスイカ」です。
【茂似太の注釈】
植物にはまるで素人ですが、自然状態にもタネのない花がたくさんあって、いつまでも存続している例を思いつきました。それはつまり雄花です。雄花にはタネはできませんよねー、岡本さん。
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●1997/9/16 京都市の中田兼介さんからの質問
イカやタコが貝の仲間だって事を人に信じてもらうためにはどう教えたらいいんでしょうか?
【動物研究室の山西学芸員の答え】
おっしゃっている「貝の仲間」とは「軟体動物」のことですね。軟体動物には,腹足類(巻貝),ツノガイ類,二枚貝類,ヒザラガイ類,頭足類などのサブグループがあり、イカやタコは頭足類に属しています。ご存じのように軟体動物のほとんどのグループは貝殻を持っています。頭足類でも、オウムガイや絶滅したアンモナイトは立派な貝殻をもっています。では、なぜイカやタコには貝殻がないのでしょう?
貝殻はもともと外敵から身を守るために発達した器官ですが、筋肉系がよく発達し、高度な運動能力を獲得したイカやタコにとっては、もはや貝殻で身を守る必要がなくなり、かえってじゃまになるので退化させてしまったと考えられます。
ところで、イカやタコの胴体(イカではリングの部分)は外套膜という器官ですが、これは軟体動物に特有の器官で、貝殻をもった軟体動物では、貝殻の裏打ちをするという重要な役割を果たしています。じつは、外套膜を持っているということが、何よりもイカやタコが軟体動物であることの証明なのです。
ちなみに、「貝」とは自ら分泌してつくった石灰質の殻を持つ動物のことで、必ずしも軟体動物に限りません。節足動物のフジツボや、腕足動物のシャミセンガイなども、そのような意味ではれっきとした「貝」なのです。逆に、腹足類(巻貝)の中にも、ウミウシやナメクジのように貝殻を持たないものもたくさんいます。
【茂似太の注釈】
この答えでイカやタコが、巻き貝や二枚貝と同じ軟体動物だと納得してもらえるでしょうか? 納得できない!という方、あるいはもっといい答えを知っているという方はmonitor@omnh.jpまでお知らせください。それにしてもフジツボも「貝」と言ってもいいとは知りませんでした。カメの甲羅も「貝」と言ってもいいのかな?
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●1997/9/16 堺市の浦野信孝さんからの質問
先日、奈良県法隆寺産のイタチを入手し、骨格標本を作製したのですが、イタチかチョウセンイタチか判断に迷っております。雄の若い個体(骨化の状態より)で、測定データは次の通りです。体重380g、尾長135mm、頭胴長256mm、後肢長60mm。東海大学出版会の「日本の哺乳類」に掲載されている測定値から考えるとイタチのような気がするのですが、これらの頭骨での区別点はあるのでしょうか?
【茂似太の注釈】
当館には残念ながら、現生哺乳類の専門家がいません。しかたがないので、化石哺乳類の専門家の樽野学芸員と、哺乳類担当(本当は鳥類が専門)の和田学芸員に相談しながら答えてもらいました。
【樽野学芸員と和田学芸員の答え】
尾率(尾長/頭胴長)が50%を越えているので(つまり尾が長め)、計測値だけで考えると、チョウセンイタチの可能性が高いと思います。毛皮があれば判断の参考になるかもしれません。頭骨の形態に関しては、イタチとチョウセンイタチでどれだけ違いがあるかよくわかりません。実物を見れば、当館の標本と比較することで判断できるかもしれません。もしイタチ類の形態に詳しい方がいれば、monitor@omnh.jpまでお知らせください。
●1997/8/26 奈良市の中嶋江美理さんからの質問
Q1.ツバメの寿命は何年ですか?
Q2.ツバメのペアはずっとかわりませんか?
Q3.1931年、寒波のためにウィーンから、ベニスまで、汽車と飛行機で、運んだツバメは、日本のツバメと同じ種類ですか?
Q4.「フィールドガイド日本の野鳥」にのっているツバメの分布図より広い範囲の分布図はありませんか?
【動物研究室の和田学芸員の答え】
以下の答えは、もっぱら「Handbook of the Birds of Europe, the Middle East
and North Africa」という本を参考にさせていただきました。日本でツバメを個体識別して寿命やつがい関係を調べた例を知らないのですが、もし知っている方がいたら教えて下さい。
> Q1.ツバメの寿命は何年ですか?
研究によって少しずつ違うのですが、一年間の平均死亡率は60-70%くらいです。とくに生まれて一年目の死亡率が80%前後ときわめて高いようです。単純に計算すると、平均寿命は1.5年くらいになります。もっとも野外で15年11カ月生きた例もあるそうです。野外では、捕食者に食べられて死んだり、食物が足らなくて餓死したりと、いろいろな理由でツバメは死にます。ここにあげた数字は、そのようないろいろな理由で死んだ結果なので、捕食者がいなくて食物も充分ある環境で飼えばもっとみんな長生きするものと思います。
> Q2.ツバメのペアはずっとかわりませんか?
ペアの相手はしばしばかわり、ある研究によれば115ペアのうち、次の年も同じペアで繁殖したのは13ペア(11.3%)だけだったそうです。ただし同じ年の間に何度か繁殖を繰り返す場合は、つがいの相手は通常かわらないようです。
> Q3.1931年、寒波のためにウィーンから、ベニスまで、汽車と飛行機で、運んだツバメは、日本のツバメと同じ種類ですか?
この話はよく知りません。知っている方がいたら教えて下さい。ちなみにウィーン辺りではツバメ、ショウドウツバメ、イワツバメの3種のツバメの仲間(3種とも日本にもいる種類)が繁殖しています。
> Q4.「フィールドガイド日本の野鳥」にのっているツバメの分布図より広い範
囲の分布図はありませんか?
あります。あすなろ書房が出している「みる野鳥記2 ツバメのなかまたち」という本(定価1500円、ISBN4-7515-1642-6)や、朝日新聞社が出した「動物たちの地球31」などに世界中での分布図が載っています。英語の本でよかったら博物館には、他にもいくつかあります。