質問コーナー 過去のやりとり(2000年1月-3月)

寄せられた質問 ・ 質問への回答

質問

2000/3/30 千葉県の久藤さんの化石馬についての質問
2000/3/30 札幌市の鳥居亮一さんのマメシジミについての質問
2000/3/15 石川県の本多郁夫さんのケイリュウタチツボスミレについての質問
2000/3/14 横浜市の矢追義人さんのオオブタクサにつく虫についての質問
2000/3/14 大阪市旭区の吉村 亮さんの磯の生物の図鑑についての質問
2000/3/12 神奈川県のHN JOKERさんの貝の成長についての質問
2000/3/11 羽曳野市の武田さんのハチの巣の保存についての質問
2000/3/3 西宮市の飯田寿祥さんの謎の花の名前についての質問
2000/3/2 奈良県大和高田市の駒沢珠樹さんのサイの肋骨についての質問
2000/2/28 仙台市の板橋さんの観葉植物の白い虫についての質問
2000/2/23 交野市の中さんの謎の下顎骨についての質問
2000/2/22 神戸市の匿名希望さんの昆虫採集に使う薬品についての質問
2000/2/20 神奈川県の小林さんのイルカの脱皮についての質問
2000/2/15 神奈川県大和市の谷明以子さんの魚・甲殻類・昆虫の心臓・血液・脳についての質問
2000/2/7 北海道のPERONさんの蚊の糞についての質問
2000/1/26 東京都大田区の加納哲哉さんのカリウム植物についての質問
2000/1/23 名古屋の八巻さんのオカチョウジガイについての質問
2000/1/14 大阪市福島区の山本さんのカラスの行動についての質問
2000/1/12 豊中市の前田 享さんのオオカミとアシカについての質問


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質問への回答
2000/3/30 千葉県の久藤さんからの質問
 中高生を対象にした「馬の進化」についての小冊子をつくろうと思っています。そこで化石馬についていろいろ教えていただけないでしょうか。
 G・G・シンプソンの「馬と進化」という本には、馬の祖先といわれているヒラコテリウムは大きさは犬くらいで、弓状の背中、歯の特徴、足のひずめの数など、現在の馬とは全く似ておらず、ほとんどウサギのような外観をしていたとあります。また、「その化石は、ほとんど単一の歯や、顎、骨のかけらなど断片的なものであり、各部分の完全に近い骨格は極めて少なく、(1950年の時点で)復元された骨格はわずか4体に過ぎない。」と書いてありました。現在ではもっと多くの骨格が復元されているのでしょうか?
 またこれらの化石から、ヒラコテリウムを馬の祖先であると断定できるのはなぜでしょうか?はじめに化石を発見したオーウェンは、ハイラックスに似た動物だと思ったそうですが、ヒラコテリウムが馬以外の動物である可能性はないのでしょうか?アメリカの博物館にもメールで問い合わせたのですが、返事が返ってきません。いろいろ調べてもよくわかりませんので教えていただけたら感謝です。よろしくお願いします。

【樽野学芸員の答え】
 復元されたヒラコテリウムの数についてはわかりません。脊椎動物の化石(骨格)が,全身そろって発見されることはまれなことです。日本で最も多産する長鼻類はナウマンゾウです。その化石は数千個見つかっていますが、身体の各部の骨が比較的よくそろっているという程度の化石でも、3体しか見つかっていません。それらの中でも、本当にいいのは1体だけです。ということで、そんなに増えてはいないでしょう。
 ヒラコテリウムを現在のウマと直接比較しても、これがウマの祖先だという結論はでないのではないでしょう。それらの中間の形態を持った化石がたくさん知られているので、ヒラコテリウムとウマをつなぐことができる、というのが答えだと思います。
 オーウェンが最初研究したときには、まだその他の化石ウマのことがよくわかっていなかったので、ハイラックスに似た動物だという結論になったわけです。こういうことはよくあります。研究は知識の積み重ねですから、いきなり飛躍したすばらしい結論というわけにはいかないことが多々あります。今の知識ではヒラコテリウムはウマの祖先だとしか言いようがないでしょう。ただし、ヒラコテリウムは奇蹄類共通の祖先だといってもよいくらい原始的な形質を備えているとも言われています。

2000/3/30 札幌市の鳥居亮一さんからの質問
 グループで札幌市の公園の動植物調査をしています。昨年、札幌の湧水地でマメシジミを発見したのですが、日本全国でどれくらいの生息地があり、どのくらい種類があるのかもわかりません。インターネットでの検索をしたところ、琵琶湖、福井、群馬など何カ所かの生息地は出て来ました。サンプル採取もままならず、同定方法も研究されている方もわからないのですが、まず種類と分布だけでも知りたいのです。
 もし、そちらで確認されている事例があれば、生息環境を含めて、お教え願いたいと思います。どうぞ、よろしくお願い致します。

【石井久夫学芸員の答え】
 私はまだマメシジミを採集したことがなく、具体的な例を紹介することができません。取りあえず知っている文献を紹介します。
 一番基本的と思われるものとして、
◎Mori, S. (1938) Classification of Japanese Pisidium. Memoirs of the College of Science, Kyoto Imperial University, Ser.B, Vol.14, No.2: 254-278, Pls.7-11.
 さらに、この文献をつまみ食いして和名をのせた(つけた?)文献に、
◎波部忠重(1973)17 軟体動物 Mollusca. 上野益三編「川村多実二原著日本淡水生物学」: 309-341. (株)図鑑の北隆館.
 古いデータですが、とくにMori(1938)は当時の生息地(北海道の記録が多い。今はいなくなっているところが多いかも知れない)、分類の目安などが載っているので、日本のマメシジミ類を調べる上では必読の文献だと思います。

2000/3/15 石川県の本多郁夫さんからの質問
 突然ですが、お尋ねしたいことがありますので、よろしくお願いいたします。私どものグループで、石川県の絶滅危惧植物のリストを作成中なのですが、その中にケイリュウタチツボスミレを取り入れたいと考えています。そこで、学名を知りたいのです。日本のスミレ(いがりまさし著)によれば、Viola grypoceras A. Gray var. ripensis Yamada et Okamotoとして、発表される予定とありますが、正式にはどのように発表されたのでしょうか。お教えいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。 

【岡本学芸員の答え】
 ケイリュウタチツボスミレの学名は、
Viola grypoceras A. Gray var. ripensis N. Yamada et Okamoto
となっています。東海地方では絶滅が心配されるような植物ではないのですが、日本海側では少ないようですね。

【monitorの補足】
 ケイリュウタチツボスミレを記載したのは、上で答えてる岡本学芸員です。記載論文は、当館の研究報告No.50(1996年)に載っています。

2000/3/14 横浜市の矢追義人さんからの質問
 私の住んでいる横浜市の矢上川、早渕川などの河原に、2年ほど前からコゲラがやってきてオオブタクサの茎をつついているのが目撃されるようになりました。茎を開けてみると体長1センチあまりの黄色い幼虫がたくさん見つかりました。コゲラはこれを好んで食べているようです。写真は2月1日に撮影したものですが、現在まだ幼虫のまま越冬しています。
 この虫の正体を教えてください。ブタクサハムシとはどうも違うような気がします。


【金沢学芸員の答え】
 写真を見ましたが、ブタクサハムシではなく、おそらくハマキガ類の幼虫と思われます。近縁のブタクサに虫コブをつくるスギヒメハマキという種類が知られていますが、写真を見る限り、虫コブを作ってはいませんね。
 小蛾類は未記載種がたくさんあり、幼虫を送っていただいても同定できません。飼育して成虫を羽化させてください。幼虫のいるオオブタクサを鉢植えにして、それにネットをかぶせておきます。幼虫で越冬する種類はだいたい6月頃に羽化すると思います。成虫が羽化したら、ハネの鱗粉が落ちないうちに、アンモニアなどで完全に殺し、三角紙などに包んでこちらに送って下さい。ハネの鱗粉が残っている成虫が数個体あれば、なんとか同定できるでしょう。本当は胸部に微針を刺して、ポリフォームの台にマウントしてもらうのが、もっともいいのですが、そこまでやってもらうのは難しいでしょう。

【monitorの補足】
 矢追さんからは、成虫を羽化させてみます。との返事をいただきました。種名がわかったら、また報告します。コゲラの写真も送っていただいたので紹介しておきます。コゲラのこのような行動が他の地域でも見られるのか、気になるところです。


【monitorの追記】
 2000/8/3、矢追さんから無事成虫が羽化して、スギヒメハマキであることが確認されたことをお知らせいただきました。
2000/3/14 大阪市旭区の吉村 亮さんからの質問
 磯遊びの生物検索にはどのような図鑑がよいでしょうか?
教えてくださいませ。

【山西学芸員の答え】
 大阪市立自然史博物館で発行している以下の3冊が一番コンパクトで、役に立ちます。
・ミニガイドNo.11 大阪湾の磯の貝(500円)
・ミニガイドNo.14 大阪湾の磯の甲殻類(300円)
・ミニガイドNo.15 大阪湾の磯の動物−イソギンチャク・ウミウシ・ゴカイ・ヒトデ・ウニ・魚など(500円)
 いずれも博物館の普及センターで販売しています。通信販売については、
こちらを参照して下さい。

2000/3/12 神奈川県のHN JOKERさんからの質問
 貝類の成長について教えて下さい。一体どうやって貝は成長して行くのでしょうか?出生は、以前のLOGより理解できたのですが、その成長は一体・・・
 どうやって大きくなるのか、またその期間はどのくらいなのか? 例えば、年間でどのくらいの成長をするのですか? 貝殻って何で出来ているのか? 当然、中身よりも殻の方が先に大きくなるんですよね?
 貝を食べていて、素朴な疑問に気がつきました、是非教えて下さい宜しくお願いいたします。

【石井久夫学芸員の答え】
 二枚貝類でも腹足類(巻貝)でも、筋肉や内蔵をつつんでいる外套膜の先端にある上皮細胞(ホタテガイやアワビのひもとよばれる部分)から、一番表面の有機質の膜(殻皮)や貝殻のもととなる成分を含んだ体液を分泌し、炭酸カルシウムの微細な結晶(アラレ石や方解石)を沈着させて貝殻を大きくしていきます。したがって“いれもの”の貝殻をつくりながら“中身”も大きくなっていくわけです。二枚貝の場合は二枚のからがあわさっている側から縁のほうへと、巻貝の場合はとがっている部分から“中身”が出入りする口の部分へと成長していきます。
 人間の骨などは、つくられたあとも吸収されてあたらしい骨がつくられているようですが、貝の場合は、溶かされたりしないかぎり、つくられはじめからの殻がのこっているので、年輪のように年齢の推定ができることがあります。
 大きくなるスピードは種ごとに違います。アサリなどは良く見ると貝殻の成長が止まる時期とどんどん進む時期が読みとれます。市販のアサリで3、4年から5、6年でしょうか。牡蛎(マガキ)などは1、2年で出荷されるほど大きくなります。中には数10年さらに100年以上生きて長さが10cm程度という二枚貝も知られています。
 アサリなどの貝殻の表面をみていると、いろいろおもしろいことが推定できます。潮干狩でとれたアサリの中には、“事故”で貝殻が欠けたあと、修復するのにエネルギーを使うために他の所の成長がにぶくなっていると考えられるようなものもありますから、実物で確かめて下さい。なおアコヤガイなどの養殖真珠は、上皮細胞の一部と核となる玉をくっつけて外套膜の中に移植手術をして、丸く貝殻をつくらせているわけです。

2000/3/11 羽曳野市の武田さんからの質問
 山梨県に住んでいる友人が、子供達に見せてあげて、とすずめばちの巣を届けてくれました。直径35センチほどです。珍しいので、家に置いておくより、子供達の通う小学校に持っていった方がよいのではないかと、話しています。でも、少し触ってみると、もろいようです。つや消しのニスでも吹き付けようか、など考えています。保存方法教えて頂けると助かります。

【松本学芸員の答え】
 スズメバチあるいはアシナガバチの巣の扱いについてですが、これらの巣は木から削りとった繊維でできていますので、割ともろく、扱いに注意が必要です。また巣そのものや巣に付着した有機物を食べる虫が発生することもあり、保存にも気を使います。
 お尋ねのように小学校にもっていって、みんなで見るのが目的であれば、段ボールに緩衝材(クッション)を入れてそのままもっていけばいいと思います。みんなで巣の外皮(外の覆い)をとって(ハサミで簡単に切れます)、巣の中のようすを見てみたりすると外から眺めるよりずっと面白いと思います。
 巣を分解せずに、あるいは一部だけ分解したあとで保存する場合には、ニスを吹き付けることもありますが色などは多少異なってしまいます。
 博物館などで保存する場合は、まず薬品による薫蒸や低温処理で巣に隠れている虫を全部殺してから、段ボール箱に防虫剤と緩衝材を入れて保存します。

2000/3/3 西宮市の飯田寿祥さんからの質問
 以前に「何が咲くかお楽しみ」という種の袋を貰ったので蒔いておいたら、下のような花が咲きました。色々図鑑など調べたのですが、何の花か判りません。もし簡単に教えて頂けるものならお教え願えませんか。
 小さな花で直径1−2センチくらい、草丈もプランターに蒔いたまま放っておいたせいか、せいぜい10センチくらいです。宜しくお願いします。


【岡本学芸員の答え】
 実物でないので細かい特徴まで比較して断定することはできないのですが、恐らくムラサキナズナAubrietia(オーブリエティア)と呼ばれるものでしょう。この属は、地中海地方から小アジアに約20種があるアブラナ科植物で、ロックガーデンや石垣用にたくさんの園芸品種が育成されているそうです。

2000/3/2 奈良県大和高田市の駒沢珠樹さんからの質問
 サイの肋骨を見る機会があったのですが。ヒトや普通の哺乳類は脊椎の真ん中あたりまでしか肋骨がありませんよね。でもサイは骨盤の近くまで肋骨があるんですよ。哺乳類型爬虫類の肋骨に似てる様に思うんですが。サイは原始的な特徴を残しているんでしょうか?

【樽野学芸員の答え】
 自然史博物館で保管している骨を調べてみました。「胸椎(肋骨が付いている)の数+腰椎の数」を示すと、クロサイでは19+4となり、ニホンジカ;13+6やヒト12+5とくらべると、胸椎の数が多いようです。サイより胸椎の数が多いのは、ゾウの仲間でアジアゾウが20個、アフリカ象が19個だそうです。たしかに爬虫類の方が古い体制を残しており、肋骨の数が多いのはそれと似た形ではあります。それを「祖先から形があまり変わっていない」ということで、原始的ということができるかもしれません。
 この論理で行くと、ヒトの指の数は5本あるので原始的ということになります。しかし、肋骨の数=胸椎の数/腰椎の数というのは、その動物の生活とかなり深く結びついています。つまりそれぞれ大変適応的な姿であるといえます。サイの場合、肋骨は数が多いだけでなくその1本1本が頑丈で、胸郭だけでなく腹腔の側面まで守る役目を果たしているようです。
 参考図書;神谷敏郎著「骨の動物誌」東京大学出版会2400円(税抜き)

2000/2/28 仙台市の板橋さんからの質問
 観葉植物の土についている虫についてぜひ質問させてください。
 室内に「テーブルヤシ」をおいて二年目です。この冬になって気がついたのですが、鉢に水をやり、土に十分な水がたまると、土の表面を跳ねている無数の白い虫がいます。よく見ると鉢の受け皿に落ちてくる水の表面にも浮いており、その水の上でも跳ねていてビックリしました。体長一ミリ程度で細長いです。ダニの一種とかでしょうか? 室内に広がったり、人間に害を及ぼすなど影響はあるのでしょうか?

【松本学芸員の答え】
 可能性が最も高いのはトビムシではないでしょうか。たいていの昆虫図鑑ならば最初のほうのページにのっています。
 トビムシの仲間は、一般的には落葉層や腐植層に多い土壌生物で、分解者として重要な役割を果たします。中には池などの水面上や湿地等で発生する種もいるようです。おそらく鉢の中の土あるいは腐植質のものから発生しているのでしょう。
 人間に対して直接の害(刺すとか、血を吸うとか)はありませんが、あまり大量に発生すると死骸がハウスダストとしてはたらいてしまう可能性はあります。

2000/2/23 交野市の中さんからの質問
 写真の動物の下顎の骨2点が、どんな動物なのか教えてください。鹿のような動物ではないかと推測いたしましたが、不明な点も多く、特定ができませんでした。よろしくお願いします。

 採集時期:1987年頃
 採集場所:交野市東倉治の源氏池と免除川の中間点の堤付近。30〜40cm程の深さの土中より発見された

【樽野学芸員の答え】
 問題の骨は、シカの下顎骨で間違いないと思います。

【monitorの補足】
 地元の方の話によると、交野市でのシカの生息情報は珍しいそうです。また交野市をはじめ生駒北部のシカの由来や生息状況には謎が多いようです。もし生駒北部のシカの生息情報をお持ちでしたら、ぜひお知らせを。

2000/2/22 神戸市の匿名希望さんからの質問
 子供と共に昆虫観察・採取を始めようと考えています。採取・標本作製時に、薬品の使用を考えています。薬品の最終処分の良い方法(簡便で安全な方法)を教えてください。
 使用薬品の種類としては、酢酸エチル・石炭酸・薬用アルコール・アセトンを考えています。アセトンの場合、用途から考えて使用後も汚れたアセトンが残ってしまうと思われます。しかし、引火性の高い薬品ですので、自然放散というわけにも行かないと考えています。(他の薬品もそうですが)となると、どの様にみなさまは処分されているのでしょうか?

【松本学芸員の答え】
 酢酸エチルはおそらく毒ビンなどに入れて使用するのだと思います。その場合、しばらく使って、あまり効かなくなったら、つぎ足すというという使い方でしょうから、酢酸エチルそのものを処分することはあまりないです。酢酸エチルをしみこませていた脱脂綿やティッシュを交換するときは、しばらくの間室外に放置してやれば、酢酸エチルはほとんど空気中に飛ばされると思います。揮発しやすく、あまり人体に影響のないとされている酢酸エチルのことですから、人や動物がさわらないように気をつけさえすれば問題はないでしょう。
 薬用アルコールは何をお使いでしょうか?通常の昆虫の採集では(主に液浸標本作製用)はエタノール(エチルアルコール)を使います。これも個人的に使う量ならそのまま流しても大丈夫でしょう。燃料用等にメタノール(メチルアルコール)も売られていますが、こちらは有害な上に液浸標本には向きませんので、昆虫の標本作りには普通使いません。
 石炭酸は使ったことがありませんし、処理の仕方も分かりません。
 アセトンは油ぬき、特にトンボや甲虫の処理に使うのだと思いますが、これは非常に処理に困ります。私も大学にいた頃しか使ったことがなく(廃液は業者の回収がありました)、個人的に使用した場合の上手い処理の仕方は思い浮かびません。
 アセトンを使わなくても、トンボの色をうまく残すためには密閉できる容器にシリカゲルと一緒に入れて、はやく乾燥させる(これがポイント)方法もあります。

2000/2/20 神奈川県の小林さんからの質問
 私は今、人の皮膚に関する調べ物をしているのですが、その途中で、脱皮の仕組みにも興味を持ち、いくつか質問をさせていただきます。
・ ヘビやトカゲは脱皮しますが、どうして人の皮膚細胞のように、個々の細胞ではがれないのですか? どのような仕組みで角質同士がくっついたまま一枚の皮としてはがれるのでしょうか
・ 何かのテレビ番組(確かたけしの万物創世記)で、いるかが皮膚の汚れを取るために脱皮をすると聞いた記憶があるのですが、そのような記述がなかなか見つかりません。また、いるか以外の哺乳類の中にも、脱皮するものはいるのでしょうか?

【樽野学芸員と和田学芸員の答え】
 爬虫類の表皮では、ケラチンを含んで死滅した細胞が角質層を作っています。この角質層の外側の一部が剥がれ落ちるのが、脱皮です。ヘビ類の脱皮殻は通常全身の皮がひっついていますが、トカゲ類やヤモリ類ではバラバラに剥がれます。ヘビ類で全身の皮がひっついて剥がれるのは、
 1.全身の皮がほぼ同時に剥がれる(剥がれる時期が部分ごとに異なれば、バラバラにならざるを得ません)
 2.剥がれる皮が丈夫
という理由が考えられると思います。人間においても、日焼けなどの結果、広い範囲の皮が同時に剥がれるときは、”脱皮”らしくなります。

 ご質問のイルカはシロイルカ(ベルーガ)だと思います。シロイルカは夏に浅瀬に集まって子育てをします。同時に脱皮もします。シロイルカの体表は、普段は名前の通り白色ですが、脱皮前には皮膚が黄色くなります。脱皮は浅い河口の海水より温かい水が流れ込むところで、海底の砂に体をこすりつけて行なわれます。
  シロイルカについて書かれている本としては、
・「ナショナルジオグラフィック日本語版創刊前特別号」(1995年3月):脱皮のことはわずかにふれられているだけです。
・「クジラ・イルカ大図鑑」(平凡社):こちらも簡単に書いてあるだけです。

 「生物学辞典 第4版」(岩波書店)によると、ヘビやカエルが皮膚を更新することだけでなく、哺乳類の換毛や鳥類の換羽も一種の脱皮と見なせるとのことです。したがってイルカも含めてすべての哺乳類が脱皮すると言っていいでしょう。
 古い表皮がまとまって剥がれるという意味では、シロイルカ以外のクジラ類(少なくとも一部は)も、同様の脱皮をするはずですが、くわしい記述は見つけられませんでした。

【monitorの補足】
 シロイルカ以外のクジラ類の”脱皮”について記述してある資料を御存知でしたら、ぜひお知らせを。センザンコウやアルマジロなど、鱗を持つ哺乳類の”脱皮”についても興味があるところですね。どうなるんでしょう?

2000/2/15 神奈川県大和市の谷明以子さんからの質問
 「カニミソってカニのなんだか知ってるか?」と会社の先輩に言われて、自分で調べてみて疑問を持ちました。魚類、カニ・エビ、昆虫に、1)心臓、2)血管・血液(あれば色も)、3)脳はあるのでしょうか? 「ぜんぶあるらしい」のですがそれでよいのでしょうか。とくに心臓や血液は哺乳類のものとつくりがちがうようで、よくわかりません。

【波戸岡学芸員の答え】
 魚類の心臓と脳について(格好はことなりますが、基本的には他の脊椎動物と同じです。ここでは硬骨魚類について一般的なことを書きます)、
 心臓:場所は、胸びれの腹側、”のど”の下で左右のいわゆる”かま”ぶつかりあうところの少し後ろの方にある囲心腔(いしんこう)という部屋にあります。つくりは、一心房一心室で、後ろからこの順番にならんでいますが、心房のすぐ後ろにはからだ全体から集まってきた静脈血があつまる静脈洞という部屋があり、また心室のすぐ前には動脈洞という心室に起源があるといわれる小部屋があります。血液は尾から頭の方向に流れています。心臓全体は三角錐が横になったような感じです。余談ですが、マグロ類やサバ類など、活発に泳ぐサバ科の魚の心臓は、比較的大きく、食べるとおいしいです(焼き肉の”はつ”です)。
 血液の循環:静脈洞>心房>心室>動脈球>>(腹大動脈)>>鰓(腹側から背側に血液は流れ、ガス交換がおこなわれる)>>(背骨の下の背大動脈で全身に、また内臓動脈で内臓になど)>>筋肉や内臓>>(各種静脈)>>静脈洞。二心房二心室の哺乳類では、酸素にとむ動脈血が左心房、左心室を流れますが、魚類では心臓の中を動脈血は流れません。
 血液:他の脊椎動物と同じで、血漿と血球(赤血球、リンパ球ないし白血球、血小板)からなります。血球はひ臓でつくられます。
 脳:場所は、もちろん頭蓋骨のなかにあります。なお、頭蓋骨は眼の後のすこし背中側にあります。つくりは、前後に長い器官で、終脳(嗅覚など)、間脳(視床下部といわれるところがある、代謝の調節など)、中脳(視覚など)、小脳(姿勢の維持など)、延髄(各種感覚、運動など)からなります。格好は魚種によってかなり異なります。

【山西学芸員の答え】
 椎野季雄著、中山書店「動物系統分類学」7(上)p.38、甲殻類の総説から、カニ・エビについて、
 血管系:他の節足動物と同じく開放系で、心臓から出る動脈は定形の壁を有し、長短距離走行の後、毛細管に分岐し、血管壁を失う。血液は器官および組織間隙を流れて酸素を与え、しかる後、特定の腔所、すなわち何等の壁なく、ただ一定の経路をたどる血とう(sinus)に集まり、鰓に流入して再び動脈血となり、ついには囲心腔に達し、心臓壁の開口、心門を経て弛緩期の間に心臓に還る。心臓は腸管上にあり、もとは伸張した空腔で、常に呼吸器の存在する体部に見出され、体節ごとに配列した心門の対を有する。
 酸素と栄養の配布の役目をもつ血液は多くは無色透明、ときに赤色(hemoglobin)または青色hemocyanin)を呈することがある。

【松本学芸員の答え】
 昆虫に関してです。
 心臓:昆虫では背管と呼ばれるものが、ほ乳類などの心臓にあたる働きをしています。これは昆虫の背中側を頭部から腹部に続く管状の器官で膜によって他の部分と分離されています。この管は通常腹部の2節目以降の節状(枝豆を上から見たような)になった部分と、それより前のまっすぐな部分からなります。昆虫の血液はこの管の節になった部分の小さな隙間から吸い上げられ、管を通って頭部に運ばれますが、この運動は節の部分に付着している筋肉の働きによって起きると考えられています。
 血液:器官や細胞の間を満たしている液体を血液と呼ぶのならあります。ほ乳類のように末梢部分まで細い血管があるわけではありません。血液は血しょう、血リンパ、遊離細胞、血球などからなるやや粘性のある液体です。通常は透明ですが、含まれる色素によっコハク色や黄色や緑などの色をもつ場合があり、その傾向は幼虫で特に強いようです。
 脳:あります。

【monitorの補足】
 カニ・エビと昆虫では、心臓と血液に関しては答えてるけど、脳についてはあまり答えてませんので、補足します。カニ・エビと昆虫はともに節足動物に属していて、いずれも頭部背側に脳を持っています。さらにくわしくは、山西学芸員が紹介している本をご参照下さい。
 ところでカニミソってカニの何か知ってますか? 知らない人はせひ質問して下さい。

2000/2/7 北海道のPERONさんからの質問
 つまらない質問で恐縮ですが、蚊は糞をするのか、するとしたらどんなものなのか、どこでどのようにするのかなど、教えてください。
 「蚊に糞を引っ掛けられたようなもの」という表現をしたところ、「蚊は糞をするのか、引っ掛けるのか」とやたらと細かいことを言われてしまいました。聞かれたからにはちゃんと答えたいのですが、どこにも答えとなるような記載がなくて困っています。
 本当につまらない質問ですいません。でも、教えてください。

【松本学芸員の答え】
 聞いたことのない面白い表現なので、どういう由来なのか、またどんなときに使うのがしっくりくるのか私も知りところです。
 それはさておき、双翅目(ハエ・カの仲間)の成虫の排泄物としてまず思い浮かんだのは、ハナアブのなかまを手づかみする際に腹部の先端から出てくる黄色いベタッとした粘度の高い液体です。ハナアブの成虫は花粉を食べており、そのなかの必要な栄養分を吸収したあとのカスがそういう形で排出されると考えられます(手でつかんだ場合はただその刺激に反応して排出されているのか、忌避物質として排出されているのか分かりませんが)。排泄物はしばらくすると乾いて固まります。これではあまり引っ掛けられるといったかんじではありませんね。
 残念ながらカが糞をするのは見たことがありませんし、それに関する記述も見あたりませんので、何とも答えようがありません。しかし血を吸ったカが必要な養分を吸収して、不必要な成分を排出することは考えられます。腹部の先から水のような液体がポツッと排出される様子を思い浮かべても(あくまで想像ですが)あまり違和感はありません。

【茂似太のコメント】
 残念ながら、またもや当館の学芸員には蚊が糞をするのかわかる人はいませんでした。もし蚊が糞をするのか御存知の方(とくに見たゾ!ってゆう方)がおられたら、monitor@omnh.jpまでお知らせください。

2000/1/26 東京都大田区の加納哲哉さんからの質問
 今、カリウム植物(potassium plant)に関して調べています。サトウダイコンとかジャガイモなどが含まれ、普通の植物に比べて著しくカリウムを多く含む種類である、と百科事典に簡単な記述があるのを見ました。
また、いくつかの文献に、ニューギニアの原住民が、ツリフネソウImpatiens Balaminaceae やCoixgigantea Kaenig ex Rob(和名は書いてありませんでした)などの草を焼いて、その灰を底に穴のあいたヒョウタンに詰めてから水を注ぎ、出てきた水(なめると僅かにショッパイらしい)を今度は熱して蒸発させ塩にする、という習俗が記録されています。その塩の成分分析では、カリウムが50%以上を占めていたと報告されています(ナトリウムはほとんど含まれていない)。ちなみに、現地の住民は、原料となった植物を「塩の草」と呼んでいたそうです。
そこで以下のことを教えて下さい。
1:上述のニューギニアの植物はカリウム植物という種類にあたるのでしょうか。
2:カリウム植物には主にどのような種類があり、どのような地域に分布しているのでしょうか。
3:カリウム植物について詳しく知りたいのですが、文献なり論文(英文でも結構です)をご教示下さい。

【佐久間学芸員の答え】
 大変申し訳ありませんが、「カリウム植物」という言葉の定義を知りません。たしかに指摘のような内容で岩波「生物学辞典」にもでています。主に栄養学の分野で言うのでしょうか。農業試験場などにお問い合わせいただいた方がいいかも知れません。
 分類学的な単位ではありませんので、どのような地域にというのは全くバラバラになると思います。
 植物学関係の論文集よりは食物栄養学系統の本の方が参考になるでしょう。しかし、私たちのの専門外となってしまうため適切な文献を提示することができません。

追伸、カリウムに関係ないとは思いますが、ヌルデは「塩の木」と呼ばれます。守山弘「自然を守るとはどう言うことか」(農文協)に詳しくのっています。

【岡本学芸員のコメント】
 Coixgigantea Kaenig ex Robは、多分Coix gigantea Koen. ex Roxb.のことでしょう。ジュズダマの仲間です。

【茂似太のコメント】
 残念ながら、当館の学芸員にはカリウム植物がわかる人はいませんでした。もし詳しいことを御存知の方がおられたら、monitor@omnh.jpまでお知らせください。

2000/1/23 名古屋の八巻さんからの質問
 名古屋市でヒメボタルの保護活動を細々と行っています。年々個体数が減少し、行政に保護を要求するだけでは生息地そのものの維持ができない段階になってきました。
 そこで、ヒメボタルとその餌となるオカチョウジガイ、ベッコウマイマイの養殖が私たちの緊急の課題となってきています。それらは生息地にいることは分かっているのですが、ホタルそのものが数十匹程度しかいないところで幼虫の採取や餌となる貝の採取をすることは、ホタルそのものの息の根を止めることにもなりかねず危険すぎて出来ません。
 そこで、オカチョウジガイ、ベッコウマイマイ等ヒメボタルの餌となる陸生貝の採取法を教えてください。他の場所で採取し養殖したいのです。落ち葉や石の下などどこでもいるはずなのですが、実際に探してみるとなかなか見つかりません。
 またそれらの採取法、飼育法を記述した文献をご紹介くださると助かります。

【山西学芸員の答え】
 外来のトクサオカチョウジガイなら身近なところに生息しており、充分ヒメボタルの餌になるそうです。当館のまわりの植木鉢の下(オカダンゴムシがいるような場所)にも、トクサオカチョウジガイはいますから、さがせば見つかる可能性は高いと思います。ごくふつうにいるので、わざわざ飼育する必要もないと思います。

2000/1/14 大阪市福島区の山本さんからの質問
 会社の敷地内にある手洗い場(そこは屋外)で石鹸がおいてあります。なんの変哲もない普通の石鹸ですが夜、帰る前に手を洗うときは石鹸はあるのですが朝になるとなくなっています。そんなことが5日間連続で起こりました。原因はカラスがくわえて持っていってしまうのですが、何故カラスはこんな行動をするのでしょうか。石鹸が毎日なくなって困っています。なにかいい方法がありませんか。ちなみに私の家の裏は雑木林で去年の12月頃からきまって2羽がつがいとなって巣をつくりけたたましい鳴き方をして威嚇するのですか゛会社のカラスも巣作りとなにか関係していてこんな行動をとるのでしょうか。会社のカラスがいるところは巣を作るような草木の生えた環境ではなく都会の真中です。

【和田学芸員の答え】
 カラスがなぜ石鹸を持っていくのか正確なところはわかりません。カラスは、気に入った物を持っていってため込んでみたりと、人間からはよくわからない行動をします。また成分から考えると、石鹸を食べる可能性も否定できません。対策としては、カラスが持っていけるような形で、石鹸を屋外に置いておかないようにするしかないと思います。
 カラスは都心部でも巣をつくって繁殖しています。樹がなければ、高圧線の鉄塔やビルの屋上の看板など、いろんな場所に巣をつくります。しかし12月から1月はじめは、まだカラスの巣づくりには早い季節です。この行動は巣づくりとはおそらく関係ないと思います。

2000/1/12 豊中市の前田 享さんからの質問
 質問があります。オオカミとコヨーテの違いはどこでしょうか?
もうひとつ、アシカとオットセイはどこが違うのでしょうか?
また動物園にアシカはいても、オットセイはいないのは、何か理由があるんでしょうか。

【和田学芸員の答え】
 オオカミ(ユーラシア大陸から北米にかけて広く分布するタイリクオオカミCanis lupusとします)もコヨーテ(Canis latrans)も共にイヌ属(Canis)に属するとても近縁な種です。ただしイヌ属をさらに細かく分けると、オオカミはイヌと共にイヌ亜属(Canis)に含まれるのに対して、コヨーテはジャッカルとともにジャッカル亜属(Thos)に含まれます。外部形態の違いは、
 1.コヨーテはオオカミよりも、耳がより大きく鼻先がとがっている(オオカミの鼻面は太く、角張っている)
 2.犬歯は、オオカミの方がコヨーテよりも太くて短い
 3.横から見ると、オオカミの方が尾の付け根が持ち上がり気味
 4.走るとき、オオカミは尾をあげるが、コヨーテはあげない
以上の記述は、「世界の動物分類と飼育2.食肉類」(東京動物園協会)を参考にしました。

 アシカ(Zalophus californianus)とオットセイ(Callorhinus ursinus)は、トドと共に、アシカ科に属しますが、属が違います。外部形態の違いは、
 1.アシカはオットセイよりも、鼻先がとがっている(オットセイは鼻先が短く、丸い頭)
 2.オットセイは、アシカよりも耳がきわめて小さく、尾も短い(オットセイの尾はほとんど見えない)
以上の記述は、「鯨類・鰭脚類」(西脇昌治著、東京大学出版会)を参考にしました。

 動物園やサーカスで「オットセイの芸」をしているのは、ほとんどアシカです。また動物園や水族館で飼われているのも、圧倒的にアシカが多いのは事実でしょう。これはアシカの方が、慣れやすく飼いやすいからだと思われます。しかしオットセイがまったく飼われていないわけではありません。

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