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Argonauta 1: 6-8 (1999)


京都海洋生物談話会・発表内容Abstract抜粋 その1 1993−1996


1993.8.29 「ヒバリガイモドキ帯におけるアクキガイ類の種間関係」 阿部直哉

1.タイドプール中のヒバリガイモドキ帯には6種のアクキガイ類が生息し、その生息密度は15匹/2500cm2に達する。
2.シマレイシガイダマシとレイシガイダマシモドキは穿孔型の捕食者で、他個体の開けた餌に集まることはほとんどない。
3.イボニシはこじ開け型捕食者であると同時に、他個体の開けた餌にもしばしば集まり、餌を強奪する。
4.ヒメヨウラクガイとレイシガイダマシは、自らが捕食することはほとんどなく、もっぱら他個体のこ開けた餌に依存する。ヒメヨウラクガイは餌を強奪することは少なく、餌の殻が開いた状態で共同摂食したり、餌の食い残しをあさることが多いようだ。
5.シマレイシガイダマシは閉殻筋を最後まで残すことで、ヒメヨウラクガイによる餌の横取りを防いでいるように見える。しかしシマレイシガイダマシが単独で餌を最後まで食い尽くすことはほとんどない。


1996.5.19 アクキガイ科の繁殖生態−幼生の発生様式と卵数・卵サイズ 山本智子

肉食性腹足類アクキガイ科について、幼生の発生様式と棲息環境や卵数・卵サイズとの関係について従来の知見を整理し、発表者が対象としているレイシガイダマシモドキ(Muricodrupa fusca)の繁殖生態上の特徴(直達発生・大卵少産)を、主な生息場所であるタイドプールの環境との関連で説明することを試みた。


1996.5.19 巻貝類の繁殖生態と生活史 遊佐陽一

前鰓類は、軟体動物門に含まれる全種数のおよそ40%を占める軟体動物門中最大の亜綱であり、海洋・陸水・陸上の様々な環境に住んでいる。このため彼らの繁殖生態も実に多様である。ここでは、前鰓類の繁殖生態と初期生活史を、主として中腹足目を中心に概観した。その結果、陸水・陸上域への進出は、単為生殖および幼少期の縮小(直達発生・卵胎生)と関連していることがわかった。また、寄生生活は、雄性先熟的雌雄同体や雄が小さい性的二型と密接に関連していた。また、前鰓類の中でしばしば見られる特徴として、配偶子の二型(精子の二型及び栄養卵)と巨大な精胞がある。これらの繁殖戦略の意義については不明なものが多い。


1996.5.19 「周参見町、里野海岸の生物相−なぜ例外的に豊富なのか」 大垣俊一

周参見町里野海岸は、全般的に生物相の貧弱な枯木灘海岸にあって、例外的に豊富な生物相を有することで知られている。クジャクガイ、オハグロガキ、オオヘビ、ミジンムカデガイ、ヒバリガイモドキなどが密集群落を形成し、他の生物も多い。枯木灘海岸は、西隣の田辺湾周辺域に比べ、海岸線が直線的で内湾環境に乏しく、潮間帯のプラットフォームの発達も悪い。しかし里野には局部的に内湾環境が存在し、プラットフォームもよく発達している。こうしたことが両者の生物相のコントラストに反映していると思われる。発表においてはさらに、田辺湾周辺に分布する田辺層と、枯木灘海岸を構成する牟婁層の地層の性質に触れ、プラットフォームの形成要因にも言及しながら、田辺湾から枯木灘に至る海岸生物相の変遷を、地形学的に読み解くことを試みる。


1996.7.14 ベトナム・台湾−東亜亜熱帯の潮間帯動物 和田恵次

1995年11月−12月にベトナム北部沿岸で、また1996年3月には台湾南部沿岸で、潮間帯動物の調査を行ったので概略を報告する。ベトナムでは、Haiphongの町を流れるCam River の河口域で、河口から干潮域最上流部までのスナガニ類・イワガニ類の分布調査とスナガニ科チゴガニ属の1種Ilyoplax ningpoensisのなわばり行動の調査を行った。同河口域からは、スナガニ科20種、イワガニ科8種が確認され、下流域ほど種数が増大した。構成種は、日本を含む温帯域まで分布する種、台湾・中国南部・ベトナム北部の亜熱帯域に分布が限られる種、そして亜熱帯域から熱帯域までに分布する種が、それぞれ似た比率で認められた。I. ningpoensisのなわばり行動には、日本産のチゴガニと同じく、aggressive dash・aggressive wave・fightingに加え、バリケード構築と巣穴ふさぎが認められた。台湾では、南部西岸の町TungshihにあるPotzu River河口域において、チゴガニ属の2種I. formosensisI. tansuiensisのなわばり行動を調査するとともに、台北のTansui、台東のDulan Bay、さらに台湾本島の南東に位置する小島Lanyuにて、潮間帯動物を視察した。I. formosensisは、I. ningpoensisに近縁でありながら、バリケード構築も巣穴ふさぎも行わないこと、一方I. tansuiensisでは、バリケード構築は見られなかったが、巣穴ふさぎは頻繁に見られることがわかった。今回の調査により、新たに4種のスナガニ類(いずれもオサガニ属)が台湾より記録された。台湾からこれまで記録されたスナガニ科は、全部で25種になるが、そのうち、温帯域まで分布するものが9種、亜熱帯域に分布が限られるものが4種で、これらはいずれも台湾西岸からの記録種であり、一方亜熱帯域から熱帯域にまで分布するものが12種知られ、そのうち8種までが台湾南端部及び東岸からの記録種である。


1996.7.14 ムラサキイガイの和名について 大垣俊一

いわゆる「ムラサキイガイ」の和名としては、現在”ムラサキイガイ”と“チレニアイガイ”の二つが使われている。1930年代にヨーロッパから日本に移入したとされる本種は、従来Mytilus edulis、ムラサキイガイと呼ばれてきたが、移入したのは北欧型のM. edulisではなく南欧型のM. galloprovincialisであることが判明して以来、和名の混乱が始まった。報告では、本種の研究史と学名、和名使用の経緯をたどり、二つの和名それぞれが持つ問題点を検討する。いずれを選択するかの判断の中に、研究者各自の立場と、和名、学名に対する考え方が反映するであろう。

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