イトヨの教材映像撮影プロジェクト Project for archiving the ethological education movies of a three-spined stickleback, Gasterosteus aculeatus

このプロジェクトについて

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イトヨ―動物行動学のモデル生物

動物行動学のモデル生物と言われるトゲウオ科魚類のイトヨ。イトヨは行動モジュールが明瞭で観察しやすく、ティンバーゲンによる様々な行動概念の確立に貢献しました。この功績でティンバーゲンは1973年のノーベル医学・生理学賞を受賞しています。彼の見いだした行動連鎖や鍵刺激の実験はほとんどの高校生物の教科書で紹介され、今なお世界中で研究されるこの魚は、動物行動学を学ぶ者にとってなじみ深く、かつ重要な生物といえます。

生物学を学ぶには、実物を観察することが最も効果的です。しかしながら、日本国内では今日、イトヨは各地のレッドリストに掲げられる絶滅危惧種であり、現実には間近で観察することは容易ではありません。

では、このような実物観察に替わる手段はあるのでしょうか。完全ではありませんが、その一つとして映像の活用が考えられます。

このプロジェクトについて

そこで、イトヨの野外での行動やティンバーゲンの実験を再現して撮影し、生物学の教材として使える映像を作成し、実際に教育現場で活用してもらえるよう、ウエブで公開しようという「イトヨの教材映像撮影プロジェクト」を立ち上げました。

このプロジェクトは、福井市自然史博物館の友の会会員により組織されました。福井県にも淡水型イトヨが大野市の湧水地にすんでいます。緯度的にみて世界で最も南で暮らすイトヨとして知られ、生息地の本願清水(ほんがんしょうず)は国の天然記念物に指定されています。本願清水にはイトヨの保全、調査研究、普及教育を目的とした「本願清水イトヨの里(http://www.itoyo.net/)」があります。ここは湧水地に隣接して半地下構造になっており、野生状態のイトヨをガラス越しに観察できる「観察窓」という、ティンバーゲンが見たらきっと泣いて喜ぶに違いない(?)すばらしい設備があります。本願清水は個体数密度が高く、水温の周年変動が小さいために繁殖期間が比較的長い(3月〜9月)ということもあり、撮影に適した場所といえます。

今回はイトヨの里と大野市教育委員会の協力を得て、主にこの観察窓を使ってイトヨの行動を撮影しました。また、再現実験などはイトヨの里内の研究室の飼育水槽で行いました。
観察窓で撮影

撮影から公開まで

このプロジェクトは2005年の4月から6月にかけて活動し、9歳から69歳までの約12名の方が参加しました。各自にデジタルビデオカメラを配付し、特定の個体に張り付いて追跡するという行動調査の手法でひたすらカメラを回し、個体の行動を記録しました。この映像をパソコンに取り込み、行動モジュールや興味深い事象をカットして編集し、動画ファイルに仕上げました。

また、イトヨのオスの闘争行動が婚姻色である赤い色によって解発される鍵刺激の実験などを再現するチームは、実際に提示模型を作って実験を再現し、映像を撮影しました。

親子で撮影
作成された動画ファイルをウエブで公開するインターフェイスとして、今回は「動物行動の映像データベース(
http://www.momo-p.com/)」を活用します。このデータベースは動物の行動を収録したデジタル映像のオンラインデータベースで、日本動物行動学会の支援のもと、学会会員有志で組織する「MOMOプロジェクト」が管理・運営しています。収録映像はすべて無償で閲覧でき、教育・研究目的であれば無償で二次利用も認める、というポリシーで運営されています。今回作成した30本の動画ファイルは、すべてこのデータベースに登録しました。このデータベースでは各映像に解説文をつけます。解説文は実際に教育現場で映像を活用してもらうためにも必要な情報です。今回撮影に参加されたみなさんには、自分の撮影した映像につける解説文も書いていただきました。


ここで使われているアイコンはTinbergen (1948)より引用しました。
最終更新:2005年5月19日