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博物館で学ぶ、大阪の自然

 大阪の自然誌展示室、ナウマンホール、第一展示室と第二展示室の前半は、大阪の自然を理解してもらうのに良い展示となっています。

 大阪の自然の成り立ちを考えていく上で、地球の上での位置は大きな意味を持っています。日本列島は、太平洋岸の季節風の影響を強く受ける位置にあります。これは、過去200万年の間、繰り返し訪れた氷期と、氷期の間の温かい時代(間氷期)により、気候や海岸線が大きく変わり大きな影響を受ける場所だということです。

 寒い時代には陸上の氷河が大きく発達するため界面が低下し、大阪湾は広い陸地になり、大阪は内陸になります。温かい時代には逆に、今の平野部の場所にまで海が拡大します。
さらにこれらに加えて季節風が変わることで気温や降雨量が大きく変わります。

 ナウマンゾウが生きていた時代の自然、縄文時代に食べていたドングリを育んだ森、第二展示室の冒頭にある平野の地下に埋もれたクジラの骨(河内湾の時代)や寒い時代の湿地植生など、各時代の自然はこうした気候や海岸線が大きく変動しているなかで、みんな現在の自然につながってくるパズルのピースです。温かい時代の生き物、寒い時代の生き物が大阪の様々な場所にそれぞれに生き残って多様な自然を形成しているのです。

 もう一つ、大阪の自然を考える上で、重要なのは人間活動の影響の大きさです。奈良、大阪、京都は古代から近代まで「みやこ」が置かれ続け、その後も含めて中心都市であり続けました。この間、周辺の農村も、住民のための食料や薪、炭を生産するだけでなく、都市のための生産を担ってきたわけです。このために、野山も河川も人の手が加わり、深い森ではなく明るい草地や浅い水辺の多い、「里山」の自然が1500年以上にもわたり形成されてきました。もちろん、この間にも様々な変化があったわけですが、人の手が関わり続けた期間の長さは大阪を特徴づける景観や生物相につながっています。

 高層化が進んだ現在の都市部にも、なにも生物がいないというわけではありません。海外からの移入生物も多く、一方でクマゼミのように元からいた生物のなかにも数を増やす生き物がいます。都市の生き物の中には、世界中の都市に広がる移入生物もいるいっぽうで、都市ごとに異なる部分もあります。クマゼミが大音量でなく大阪の夏は世界の中でも個性ある姿かもしれません。

 こうした都市の自然は都市に住む人、特に子どもにとっては最も身近な自然でもあり、ちょっと興味を持ってながめることで、新しい発見や学びも多いのではないでしょうか。