SF関係の本の紹介(2006年下半期分)
【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
●「マーダー・アイアン 絶対鋼鉄」タタツシンイチ、徳間書店、2006年6月、ISBN4-19-862182-9、1900円+税
20061227 ★
第7回日本SF新人賞受賞作。最強を誇り、ハリウッド映画を通じて世界的スターでもあるアメリカのサイボーグ部隊が、日本で好き勝手にふるまう話。かと思ったら…、てな展開。
9人のサイボーグ戦士が出てくるといえば、思い出すのはもちろんアレ。死神の彼女が死ぬ過去のエピソードは完全と言っていいくらい同じだし。ブラックゴーストという言葉まで出てくる。すっごく感じの悪いサイボーグ戦士なので、パロディとはいえ、元ネタ作者から訴えられてもおかしくないような…。と思いつつ、あとがきを読んだら、故元ネタ作者に捧げているような。
たくさんのサイボーグが出てくるあたりは、X-MANなどを思い出させる。捨てられた旧市街の上に、空中楼閣の新東京ができているのは(妙に神秘的な部分があるのも)、「シャングリ・ラ」などを思い出させる。とにかく、いろんな作品のモザイクのような感じの作品。
登場人物の過去のエピソードを盛んに混ぜ込むが、登場人物は薄っぺらいまま。ストーリーの無理が多い。だいたいアンドロイドの紹介に失敗した、というのから最後への展開が理解できない。もっとちゃんとその場でプレゼンしろよ、って感じ。あと、鉄、鉄と言い過ぎ。
●「元気なぼくらの元気なおもちゃ」ウィル・セルフ、河出書房新社、2006年5月、ISBN4-309-62189-9、1900円+税
20061220 ☆
奇想コレクションの一冊。8編を収めた短編集。そのうち、多少なりともSFと呼べそうなのは、「虫の園」「ヨーロッパに捧げる物語」「愛情と共感」3編のみってところ。とはいえ、「虫の園」は虫と話ができるようになった男を中心としたホラー。「ヨーロッパに捧げる物語」は、イギリスとドイツを結んだ不思議な話。「愛情と共感」は他者との関わりについての寓話。いずれもSF色は強くない。残るは、ドラッグ小説風な作品が多い。
●「マルドゥック・ヴェロシティ」(1〜3)冲方丁、ハヤカワ書房JA、2006年11月、(1)ISBN4-15-030869-1(2)ISBN4-15-030870-5(3)ISBN4-15-030871-3、(1)860円+税(2)860円+税(3)860円+税
20061219 ★
「マルドゥック・スクランブル」の前日譚。「09」設立のエピソード、そしてボイルドの真実がわかる。事件の黒幕を探すミステリ風の展開をするが、ほぼ予想の範囲内の結末。最後に明かされるシザーズの秘密が唯一のSF的な読みどころかもしれない。
●「ラギッド・ガール」飛浩隆、早川書房、2006年10月、ISBN4-15-208767-6、1600円+税
20061127 ★★
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●「ゴールデン・エイジ1 幻覚のラビリンス」ジョン・C・ライト、ハヤカワ文庫SF、2006年10月、ISBN4-15-011585-0、1000円+税
20061118 ★
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●「天涯の砦」小川一水、早川書房、2006年8月、ISBN4-15-208753-6、1500円+税
20061113 ★
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●「月光とアムネジア」牧野修、ハヤカワ文庫JA、2006年8月、ISBN4-15-030859-4、600円+税
20061030 ★
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●「遺す言葉、その他の短編」アイリーン・ガン、早川書房、2006年9月、ISBN4-15-208760-9、1800円+税
20061030 ★
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●「移動都市」フィリップ・リーヴ、創元SF文庫、2006年9月、ISBN4-488-72301-2、940円+税
20061029 ☆
世界規模の戦争後で、環境が激変した未来の地球。ヨーロッパは、車輪をつけた都市が動き回り、互いを食い合う奇妙な世界となっていた。テクノロジーの進歩はとまり、過去の技術を発掘して利用している。結果として、19世紀末風の奇妙雰囲気がただよう。そうした移動都市の一つロンドンを中心に、過去の事件と、テクノロジーの暴走のてん末が描かれる。
都市が動き回って、互いを食い合う「都市ダーウィニズム」というわけのわからない思想。それに対抗する反移動都市同盟。空を飛ぶ飛行船達に、その空飛ぶ母港「エアヘイブン」。なんとなく目新しく、ちょっとひかれる設定はある。が、SF的にはどうということもない。空中シーンが多いし、古びたテクノロジーは雰囲気があるから、ジブリアニメにはお薦めかも。
しかし、中身は薄っぺらい。御都合主義すぎる展開。都合が悪い登場人物はどんどん死ぬだけ。とくに最後の方になるとひどい。なんでもかんでも自己犠牲シーンを入れたら感動呼ぶとでも思っているのか? というわけで、安っぽい感動ストーリーが好きな人だけが読めばいいかと。
●「アークエンジェル・プロトコル」ライダ・モアハウス、ハヤカワ文庫SF、2006年9月、ISBN4-15-011581-8、940円+税
20061003 ★
実質的に宗教国家となっている未来のアメリカ合衆国。人々はネットにリンクして生活しており、一部の社会的落伍者のみが、ネットから閉め出されている。主人公は、ある事件でネットへの接続を経たれた元警官の女探偵。ネットに出没する天使の謎を、現実にあらわれた天使と一緒に解明するといった感じの話。
世界中に神出鬼没の凄腕のハッカー、ネット天使に刃向かうテロ集団、ネット上にしか姿を現さない大統領候補、いろんな人間の姿であらわれる大天使たちにサタン。いろんな登場人物たちに、主人公は翻弄されまくって行く中で、ストーリーは展開する。
宗教国家となった合衆国(いまの合衆国の傾向からすると妙にリアル?)やネット社会への皮肉な視点はおもしろいものの、全体としてさほどおもしろいSFではなく。ましてやミステリとしては底が浅い。どうしてこれがアメリカ私立探偵作家クラブ賞受賞なのか謎。
●「ニュートンズ・ウェイク」ケン・マクラウド、ハヤカワ文庫SF、2006年8月、ISBN4-15-011575-3、920円+税
20060925 ☆
一種のワームホールネットワークによって、はるか遠方まで、歩いて出かけることができる未来。人類は、銀河系中にが拡がり、4つの勢力にわかれて、対抗しあっていた。ワークホールネットワークを通じて、新たな惑星が発見され、発見とともにそこに眠っていた戦闘マシンが活動を開始する。やがて、事態は多くの人類を巻き込んだ大問題に発展。といった感じのストーリー。
たくさんのSFガジェットに、今どきのSFっぽい用語がちりばめられている。でもまあ、そうした物をたくさん放り込んで、グジャグジャ混ぜたからと言って、面白いSFになるとは限らないという1例。まず小説として、ある程度の水準に達しておいてほしいところ。複雑なプロットを考えるのはいいけど、あちこちで尻切れとんぼのまま放り出すし。仮想現実と死者の復活のあたりをもう少しうまく扱えば、面白くなったかもしれないと思った。
●「メモリー」(上・下)ロイス・マクマスター・ビジョルド、創元SF文庫、2006年7月、(上)ISBN4-488-69812-3(下)ISBN4-488-69813-1、(上)980円+税(下)980円+税
20060924 ★
ヴォルコシガン・シリーズの1冊。お馬鹿な判断ミスで、すべてを失ったマイルズが、前後して起きた大事件を解決して、新たな地位を得る話。
前半は、失敗したマイルズがうじうじしているだけの話。やがて事件に取り組むのだが、ミステリ仕立てなれど、ミステリとしてはあまりに単純。犯人の目星は、少なくとも読者にはすぐについてしまう。それでも、楽しく読めるのだから、さすがはビジョルド。
ついでに、今回は3組のカップルがめでたく成立。たいへんおめでたい1冊なれど、マイルズの最後の決断には、今までのシリーズファンは納得できないかも。いずれにしても、マイルズにとっての一大転機の一冊。
●「シンギュラリティ・スカイ」チャールズ・ストロス、ハヤカワ文庫SF、2006年6月、ISBN4-15-011567-2、940円+税
20060911 ★★
エシャトンによって、人類が宇宙中に強制的にばらまかれた未来。新共和国の植民惑星が、フェスティバルという謎の存在の来襲を受ける。それに立ち向かうために艦隊を送りだす新共和国。エシャトンが禁じる因果律侵犯を、新共和国が犯すのを阻止しようとする一派。植民惑星では、フェスティバルを利用して革命が進行。果たして、因果律が侵犯されて、エシャトンの報復を招いてしまうのか? フェスティバルの正体は? みたいな感じで話は展開していく。
と、読めばわかるように、物語の設定がややこしい。よくわからないまま半ばまで読んで、あんまり面白くないな〜、と思っていた。ところが、なぜか後半に入るととたんに面白くなってきた。設定が理解できてきたからかもしれない。閉息状況にある新共和国から飛び出したからかもしれない。フェスティバルの正体が徐々にわかってきたからかもしれないし、楽しいガジェットが色々出てきたからかも知れない。とにかく、前半をがまんすれば、後半はかなり面白い。がんばれ〜。
とくに気に入ったのは、このフレーズ。「××は、自己複製する情報ネットワークだ。」 それってまさに生物のことやん。そのネットワークを利用する様々な居候たちも、魅力たっぷり。
●「冬至草」石黒達昌、早川書房、2006年6月、ISBN4-15-208735-8、1600円+税
20060907 ★
ハヤカワSFシリーズJコレクションの1冊。SFのようなSFでないような短編が6編収められている。
「希望ホヤ」と「冬至草」は、SF色が強い。どちらも架空の生物を、医学よりの立場の主人公が追い求める話。医者であり医学研究者でもある著者らしい雰囲気が出ている。とくに「冬至草」の方は、研究者が書いたエッセイ風になっている。研究者のエッセイ風といえば、「デ・ム−ア事件」もそんな感じ。こちらは、医学的なテーマなので、著者のより得意な分野か。
「月の…」はファンタジー。「目をとじるまでの短い間」は田舎の医者の悲哀を描いたとでもいうか。そして「アブサルティに関する評伝」は、研究者にとってはホラーなのかもしれない。いずれにせよ、この3編はSFではないとするのが普通か。「アブサルティに関する評伝」はある意味SFなんだけど…。
評価が低めなのは、全体的なSF色の薄さと、こんな感じの小説なら自分でも書けそうな気がしたから。いやいや短い妄想程度なら、すでに書いていると言っていいかも。
●「第九の日」瀬名秀明、光文社、2006年6月、ISBN4-334-92499-9、1700円+税
20060813 ★★
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●「ティンカー」ウェン・スペンサー、ハヤカワ文庫SF、2006年7月、ISBN4-15-011572-9、940円+税
20060731 ★
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●「グリュフォンの卵」マイクル・スワンウィック、ハヤカワ文庫SF、2006年4月、ISBN4-15-011558-3、900円+税
20060711 ★★
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●「コラプシウム」ウィル・マッカーシイ、ハヤカワ文庫SF、2006年3月、ISBN4-15-011554-0、1000円+税
20060707 ★★
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