SF関係の本の紹介(1998年上半期分)
【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
●「たんぽぽ娘」風見潤編、1980年、集英社コバルト文庫、280円、ISBNなし
19980621 ★★
とっくに絶版で、古本屋で探していたけど見つけられませんでした。偶然、大阪市の図書館で見つけ、借りました。海外ロマンチックSF傑作選2ということで、SF仕立てで、恋愛を語った話が8編入っています。
ロバート・F・ヤング、マリオン・ジマー・ブラッドリィ、ブラッドベリ、ケイト・ウィルヘルム、ゼナ・ヘンダースン、ジュディス・メリルと、ラインナップはとても豪華。ブラッドベリ以外は、あまり翻訳されていない作家なので、そういう意味でも貴重な短編集です。
星がたくさんついているのは、恋愛小説が好きだからです。
●「終末のプロメテウス」(上・下)ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン、1998年、ハヤカワ文庫SF、(上)780円(下)780円、(上)ISBN4-15-011233-9(下)ISBN4-15-011234-7
19980619 ★
サンフランシスコ湾でタンカーが沈没し、大量の重油が流出する。それの解決策として、原油をたべる微生物がサンフランシスコ湾にまかれる。この微生物が、流出した重油だけでなく、大部分の石油製品も分解してしまい、文明が崩壊の危機にさらされるという話です。
問題の微生物は、小説中では”一部の環状炭化水素と同時に、長いポリマーに含まれる八つの炭素の連鎖を分解する”んだそうです。それならどうして石油製品だけを分解するのかな、というのはあちこちの書評でも書かれていること。上巻の278ページに書かれているように、”人間の体内の短連鎖の炭化水素も餌”になって、人間が崩壊した方がおもしろかったのに。
上巻は、バイオハザードによる文明崩壊が描かれていておもしろかった。でも、下巻は、文明崩壊後の世界を描いているだけで、もはやバイオハザードは関係なくて、ありがち。それなりにおもしろく読めるけど。
●「神の鉄槌」アーサー・C・クラーク、1998年、ハヤカワ文庫SF、600円、ISBN4-15-011235-5
19980608 ☆
映画「ディープインパクト」の原案になったんだそうです。地球に向かってやってくる小惑星が発見され、地球衝突を避けようとする話です。なんかありがちな話。
●「恐怖のかたち」大原まり子、1995年、朝日ソノラマ文庫、540円、ISBN4-257-76757-X
19980520 ☆
大原まり子は好きなSF作家やけど、この本はホラー短編集。9編収録されている。解説にも書かれているけど、ネタ割れも多いし、SF的に読むとあんまりインパクトがない。
●「ホーカス・ポーカス」カート・ヴォネガット、1998年、ハヤカワ文庫SF、780円、ISBN4-15-011227-4
19980519 ★
SFではありません。ベトナム帰りの刑務所長(?)が、例によって過去を皮肉たっぷりに回想するという小説。ヴォネガットが好きな人は、いつものヴォネガット節を楽しめます。何人もの人を殺した殺人犯に対して、自分はベトナムでもっと多くの人を殺してきたけど、自分の場合は政府の指示があった点が違う、などと考えるあたりがお気に入り。
SF的なガジェットとしては、グリオTMがある。一種のシミュレーションソフトで、ある人についての情報(人種、教育、経済状況、犯罪歴、職業などなど)を入力すると、その人のその後の人生を示してくれる。その結果には偶然性も加味されていて、同じ情報を入力しても毎回違った結果が得られることもあるらしい。人種が白人(ヒスパニックは除く)以外だと、必ず刑務所に入れられるらしいが・・・。グリオTMだけをネタにして、ディックみたいなSFが書けそうな。
●「伝説の船」ジョディ・リン・ナイ、1998年、創元SF文庫、860円、ISBN4-488-68309-6
19980515 ☆
「歌う船」シリーズの大5弾。もとはアン・マキャフリーの作品だが、第2弾から若手と合作するようになり、第5弾からは若手に任してしまったらしい。偉い先生はすることが違うねえ。
先天的な身体傷害のため機械的な補助がなければ生きてゆけない人が、宇宙船の頭脳として自由を手にして活躍するシリーズ。それぞれのサイボーグ宇宙船とは、手足となるべく人間がコンビを組むことになっている。このサイボーグ宇宙船と人間の絆が、このシリーズの重要な要素だったと思う。でもこの第5弾では、地球人が異星人を助けて大活躍するだけになっている。単なるスペースオペラになっているのが不満。
●「魔法の猫」J・ダン&G・ドゾワ編、1998年、扶桑社ミステリー、700円、ISBN4-594-02438-6
19980509 ★★
ネコが出てくる短編を17編集めたアンソロジー。SF、ホラー、ファンタジーの中から、ネコがプロットに重要な役割を果たすものだけが選ばれている。またネコ型異星人やネコ型ロボットははずされている(アプロやドラえもんはダメというわけ)。選ばれた短編の著者は、フリッツ・ライバー、コードウェイナー・スミス、アーシュラ・K・ル・グイン、ジーン・ウルフ、ジョン・クロウリー。これだけの名前がそろえば読むしかない。他の短編集やアンソロジーにも入ってる有名なのも多いが、新訳も多い。
もちろん「跳躍者の時空」と「竜と鼠のゲーム」はおもしろかったし、全体にはずれは少ない。初めて読んだので気に入ったのは、「猫は知っている」と「猫の子」。やっぱり動物の言葉はわからん方が、暮らしやすそうやねえ。
●「戦闘機甲兵団レギオン」(上・下)ウィリアム・C・ディーツ、1998年、ハヤカワ文庫SF、(上)640円(下)640円、(上)ISBN4-15-011228-2(下)ISBN4-15-011229-0
19980504 ☆
銀河系に広がった人類帝国に、謎の異星人が攻めてきます。辺境の惑星が次々と破壊されていってるのに、帝国の中心である地球では、攻撃に出ようとする一派と、地球周辺の守りを固めようとする一派が権力闘争を繰り広げています。結局、主戦派が異星人と戦って勝つ、というお話です。べつに宇宙を舞台に繰り広げる話やないでしょう。
侵略してくるフダサ人も、惑星アルジェロンに棲むナー族も妙に人間くさい(あとがきは何を考えてるんやろ?)。ナー族にいたっては、人間と混血までできるらしい。
●「スロー・リバー」ニコラ・グリフィス、1998年、ハヤカワ文庫SF、840円、ISBN4-1-011225-8
19980427 ★
下水などの廃物処理が、リサイクルシステムとして、大きな産業になっている近未来の世界。リサイクルに使われる細菌などの特許によって大金持ちになった一族のお嬢さんが主人公。誘拐されて、脱出して、アウトローと暮らして。リサイクル成金ならでは帝王学で得た知識を活かして、下水処理で働き、大活躍する。といったお話です。その中で、誘拐事件の謎や、一族(というより家族)の秘密が明らかになります。カットバックで挿入される主人公の家族のいろんな発言が、最後に重要な意味を持ちます。
下水を細菌や菌類、藻類などに処理させて、増殖した藻類などは動物に食わせて、最終的には魚や貝など人間が利用できるものを生産する、というリサイクルシステムが出てきます。再生産物から得られる利益でこのリサイクルシステムが運営できているのかな、とふと思ってしまいました。
本筋とは全然関係ないけど、この近未来の社会でどうして金持ちの髪の色だけが灰色なのか、という点についての説明(74-76ページ)は、まさにハンディキャップ理論。ザハヴィが喜びそう。
●「地球最後の日」フィリップ・ワイリー&エドウィン・バーマー、1998年、創元SF文庫、620円、ISBN4-488-71001-8
19980416 ☆
小学校の図書室で借りて読んだあの「地球さいごの日」の完訳版です。懐かしいなあ。これを懐かしがると、年がばれてしまうけど・・・。アシモフやハインライン、ハミルトンと並んで、一番最初に読んだSFの一つです。
中身は、放浪惑星が衝突して地球が滅びるので、一部の人たちだけロケットで脱出すると言う話です。タイトルを見て懐かしいと思う人だけ読めばいいと思います。他の人は映画を見に行きましょう。
●「ライズ民間警察機構」フィリップ・K・ディック、1998年、創元SF文庫、720円、ISBN4-488-69615-5
19980415 ★
サンリオSF文庫から出た「テレポートされざる者」の”完全版”と謳ってあります。「テレポートされざる者」は読んでいるので、買わんとこかと思っていたら、えらく中身が変わっているというので、読んでみました。あいにく「テレポートされざる者」は手元になく、中身もうろ覚えなので、解説を読んでどこが変わったかようやくわかりました。異本がたくさんあって、どれが本物かわからんこと自体が、ディックの小説の内容にあまりにもはまっています。
ディックらしい現実感の崩壊が楽しめる一冊です。ディックファンなら是非読みましょう。ただし緻密な小説が好きな人には向きません。過去・現在・未来のすべてが書いてあり、つねに改訂されているドクターブラッドの本が、とくにお勧め(読んだ人にしかわからんやろうけど)。
●「古書狩り」横田順彌、1997年、ジャストシステム、1600円、ISBN4-88309-436-7
19980404 ★
古書ミステリー小説集と帯には書いてある。確かに古書に関わるミステリーが9編収められているのだが、そこはもともとSF作家の著者のことなので、タイムトラベルやパラレルワールドは出てくるし、宇宙人までやってくる。だからSFとして取り上げることができます。
古書マニアの生態はとてもおもしろい。そこここに古書コレクターである著者自身が見え隠れする。でもSFとして評価するという建て前を守ると、星一つでしょう。ところで本当に特定の本の全刷を集めている人なんているのかなあ?
●「こちら異星人対策局」ゴードン・R・ディクスン、1998年、ハヤカワ文庫SF、680円、ISBN4-15-011224-X
19980328 ☆
いろんな宇宙人がたくさんでてきます。地球人夫婦が、宇宙人達を相手に大活躍します。1990年代に書かれたSFとは思えません。1950年代に書かれたと聞いても信じるでしょう。
2時間弱で読めました。それなりに楽しく読めます。時間つぶしにはなりますが、読む価値はほとんどないと思います。
●「タイム・シップ」(上・下)スティーヴン・バクスター、1998年、ハヤカワ文庫SF、(上)680円(下)680円、(上)ISBN4-15-011221-5(下)ISBN4-15-011222-3
19980324 ★
ウェルズの「タイム・マシン」の続編として書かれており、話は「タイム・マシン」の直後から始まる。クラークがオリジナルよりすばらしい続編と絶賛したとか。もちろん「タイム・マシン」よりは現代的でおもしろいけど、オリジナルほどインパクトがあるわけではない。
ダイソン球殻、軌道エレヴェーター、機械知性、ナノマシン、もちろんタイムマシンにパラレル・ワールド、と物理学的(?)アイデアはたくさんでてくる。でも第6部に描かれていることを除けば、とくに目新しくもないし・・・。全部で7部から成っているが、第4部の大部分と、第2部と第3部は不要やと思う。
おもしろいなと思ったのは、未来に50万年行くとすごい未来に行ったかのようで、人類や地球がどのように変化しているのか想像もできないが、過去に50万年行ってもたいして地球は変わっていないということ(もちろんHomo
sapiensはいないけど。いなかったよな?)。恐竜に会うには、その100倍以上の時間を遡らなければならない。地学屋さんには当たり前やろうけど。
●「ホーリー・ファイアー」ブルース・スターリング、1998年、アスペクト、2600円、ISBN4-89366-957-5
19980311 ★★
ストーリーはどうでもいい。主人公がアメリカからヨーロッパに渡り遍歴を続けながら、世界を紹介していってくれる。盛りだくさんでちょっと疲れるけど、おもしろい。
21世紀末、21世紀前半の伝染病の大流行をくぐりぬけて、ものすごーく医療技術が発達した時代が舞台。とくに医療技術の発達はそのスピードを増し続けている。一年ごとに高齢者の余命が約1ヶ月ずつ増えており、その内に余命の増加率が一年に一年以上になると考えられている。もし本当にそうなったら、人々は実質的に不死といってもいい状態になる。そうなると高齢者達による支配が永遠に続くことになる。そんなに単純に医療技術の進歩を予測できるとは思えないけど、この前提が、ある意味での終末を予感した世界を描くことを可能にしていて、よかった。
もう一つおもしろかったのは、この時代の(体制側の)価値観。お金ではなく福祉と健康が最優先になっていて、福祉ボランティア的な活動と、健康につながるような生活態度がポイントとして評価され、ポイントが高いとより高度な医療が受けられるという仕組みができている。その結果、自分や他人の健康にプラスになる行動をとる人ほど長生きができることになる。というわけで長期的に見れば、不健康な生活をおくる人は、早死にということもあって徐々に駆逐され、健康な人たちが増えていくことになります。”お金ではなく健康が一番”という価値観(あるいはミーム)が、まさに選択によって個体群内に広がって行くシステムです。こういった選択が働く枠組みである社会システムがどうやってできたのかは、あんまりよくわかりませんでしたが・・・。
●「ライトジーンの遺産」神林長平、1997年、朝日ソノラマ、1800円、ISBN4-257-79026-1
19980305 ★★
身体の一部が突然機能しなくなる”臓器崩壊”が蔓延している世界。人は崩壊した臓器を人工臓器に置き換えて何とか生き続けている。発達した人工臓器の製造技術の中で、ライトジーン社はついに人造人間までも創り出した。その人造人間はなぜかテレパシーなどの超能力を持っていた。その後、人工臓器の総合メーカーライトジーン社は、人体のそれぞれのパーツのみをつくるいくつもの人工臓器会社に解体された。というのが、話の状況説明で、ライトジーン社につくられた人造人間が主人公。
主人公は、警察の下働きなどをして生計をたててて、ウイスキーを飲むのが大好きなアウトロー。連作短編集になっていて、腕、心臓、眼、皮膚、骨、声、卵(?)に関する事件に関わっていく。超能力を使って正義の味方を気取るってわけではなく、むしろ盛んに超能力の不便さやあいまいさを説明してくれる。
とくに心臓、眼、皮膚なんかの章では、人間にとってその臓器がどんな意味を持っているかを見せてくれるところがおもしろい。別役実の「〜づくし」なんかの本を読んでいるような感じ。
●「タイム・リーパー」大原まり子、1998年、ハヤカワ文庫SF、720円、ISBN4-15-030595-1
19980225 ★
タイムトラベルのできる超能力者を、タイムパトロールと未来の秘密警察が争奪戦を繰り広げる話と入ったところ。主人公が未来に行って、自分より年上の自分の娘と恋をして、過去に戻って子どもをつくる、などとタイムトラベル物ならではの展開があって楽しめる。何よりも垣間みせてくれる遠未来の地球とそこに住む人類(?)の様子や、タイムトラベラーの活動によって歴史がほどけて再編成されるイメージはとても魅力的。
でも最初に主人公がタイムトラベルしたのを、未来(?)でタイムパトロールが探知する場面では、なぜその時にしか探知できなかったのか(もっと前に探知できるはずやろ!)は疑問に思ったけど・・・。タイムパトロールの本部にとっての”現在”がいつなのか、どうやってタイムパトロールは限りなくあるはずの仕事をこなすスケジュールを決めているのかは、ついになぞのままでした。
●「蒲生邸事件」宮部みゆき、1996年、毎日新聞社、1650円、ISBN4-620-10551-1
19980216 ★
タイムトラベルのできる超能力者に、火事の中からタイムトラベルによって救い出された主人公は、二・二六事件のまっただ中の日本を経験することになる。そこで事件にも遭遇する。事件の真相自体はどうということはないし、SF的にも目新しいアイデアはない。
過去にタイムトラベルした者が、未来の情報をもとに、過去の人々のさまざまな行動や選択を批判することを、登場人物達はかなり強烈に非難している。”・・・それは抜け駆けだ。その時代その時代を手探りできている人たちを、高所から見おろす行為だ。やっていいことじゃない。”ということは、タイムパトロールって最低な機関ってことやね。
●「ブレイン・ヴァレー」(上・下)瀬名秀明、1997年、角川書店、(上)1400円(下)1400円、(上)ISBN4-04-873060-6(下)ISBN4-04-873079-7
19980105 ★
「パラサイト・イヴ」で有名になった著者の第二作。「パラサイト・イヴ」よりは、はるかにSFらしくなっている。科学的な成果やアイデアを、SFのアイデアに持ち込もうとしているのやろうけど、ちょっと科学にこだわりすぎかなという感じ。
UFOを呼ぶ謎の巫女が住む辺鄙な村にたてられた”ブレインテック”という脳の研究所が舞台。脳内の伝達物質から霊長類の手話修得、コンピューター内での人工生命、果ては臨死体験まで、さまざまな角度から人間の脳の研究が紹介される。著者の専門分野に近いんやろうけど、かなり勉強して書かれていると思う。上巻は、こうした蘊蓄が並べられ、同時に謎めいた雰囲気が作られているだけといっても過言ではない。下巻辺りから、科学とオカルトが結びつき、現実感が失われてゆき、SFっぽくなってくる。
SF的アイデアとして、あんまり目新しいものはないのだけど、”神”の生存戦略は少しおもしろかった。ヒトの脳は”神”にとっての宿主であり、”神”が自身のコピーを増やすためには、信者を増やす必要がある。そのために”神”は、宗教間の争いを起こしたり、奇蹟を起こしたりする。ここまでは、神の概念というミームについて考察していると言ってもいいだろう。でも「”神”が生まれるためにヒトは創られた」とまで言い出すと、完全にオカルトにまで飛んでしまっている。ヒトが生まれる前、”神”はどこにいたと言うんやろ?