自然史関係の本の紹介(2001年分)
【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
●「Birds in Europe: Their Conservation
Status」Graham M. Tucker & Melanie F. Heath、1994年、Bird Life
International、ISBN0-946888-29-9
2001/9/29 ★★
ヨーロッパの鳥のレッドデータブック。保護上の配慮が必要な全種について、それぞれの国での個体数とその増減傾向がことごとく載っている。さらにDistribution
and population trends、Ecology、Threats、Conservation measuresが解説されている。
日本との共通種が多いので、日本に生息する種の世界での生息状況の一端を知る上で便利。アジアでも同様の本を出版して欲しいところ。せめて日本だけでもなんとかできないのかな?
●「Threatened Birds
of the World」Bird Life International、2001年、Lynx Editions、ISBN0-946888-39-6
2001/9/29 ★★★
最新の世界の鳥のレッドデータブック。IUCN新基準の説明に始まり、その結果選定された世界の絶滅危惧種がリスアップされている。1963年、1988年、1994年と出版されてきた世界の鳥のレッドデータブックの最新版。
掲載されている種は、絶滅危険度が高い順に、EWが3種、CRが182種、ENが321種、VUが680種の合計12種が絶滅の危険性あり掲載されている。これは世界の鳥9797種の12%にものぼる。その99%が、人間の活動によって絶滅の危機にあるとされる。全体を見渡すと、いかに熱帯林に生息する鳥が危機にあるかがよくわかる。さらに低いものの絶滅の危険性が指摘された種が、CDが3種、NTが723種など掲載されている。
CR、EN、VUの絶滅危険度の上位3段階に選定された種については、カラーの図と一緒に、分布図、分布面積、推定個体数、生息場所、絶滅危険原因が示される。さらにIdentification、Range
and Population、Ecology、Threats、Conservation、Targets、Referencesと詳しい解説が付いている。とにかくよくこれだけの情報を集めたなと感心する。
もちろん必ずしも世界の鳥の情報を完璧に集めているわけではない。日本の鳥に関しても気になる点は多い。こういった点は、世界各地から情報をどんどん送り込む努力が必要なんだろうなと思う。じゃあ日本の鳥で掲載されているのには、どんな種があるかというと、国ごとのリストも載っているので、これは簡単。ちなみにトキはすでに日本からは絶滅、と正しく評価しています。
CR(Critical):ノグチゲラ、オオトラツグミ
EN(Endangered):ミゾゴイ、コウノトリ、クロツラヘラサギ、サカツラガン、タンチョウ、ヤンバルクイナ、カラフトアオアシシギ、シマフクロウ
VU(Vulnerable):アホウドリ、クロアシアホウドリ、カラシラサギ、トモエガモ、アカハジロ、コウライアイサ、オオワシ、マナヅル、ナベヅル、シマクイナ、アマミヤマシギ、ヘラシギ、ズグロカモメ、カンムリウミスズメ、ヤイロチョウ、アカコッコ、ウチヤマセンニュウ、イイジマムシクイ、オオセッカ、メグロ、ノジコ、ルリカケス
NT(Near Threatened):クロトキ、オジロワシ、ヤマドリ、ホウロクシギ、シベリアオオハシシギ、カラスバト、ズアカアオバト、リュウキュウコノハズク、ヒレンジャク、サンコウチョウ、コジュリン
DD(Data Deficient):クロウミツバメ
ヒメクロウミツバメなどのウミツバメ類、マダラウミスズメなどのウミスズメ類など、海鳥があまり選ばれていないのが気になります。さらに減少が指摘されているオオジシギなど日本での夏鳥類があまり選ばれていないのも気になります。ちなみに1996年には、この本の制作過程でのリストが公表されています。それと比較すると、ヒメクロウミツバメ、オオヨシゴイ、オシドリ、イカルチドリ、ケリ、オオジシギ、アオバト、コムクドリが落とされています。どうしてはずされたんでしょう?
●「日本コウモリ研究誌 翼手類の自然史」前田喜四雄著、2001年、東京大学出版会、3700円+税、ISBN4-13-060177-6
2001/9/28 ★
日本のコウモリ研究の第一人者の著者の個人研究史といった本。個人史なのに、それがそのまま日本のコウモリ研究誌にもなってるところが、さすがという感じ。とにかく日本中でこれだけコウモリを調べ続けて来たのか、と感心する。
その一方で、コウモリの研究はまだこんな段階なのだな、というのが鳥屋としての偽らざる感想。結局のところ、日本のどこにどんなコウモリが生息してるのすら、ようやく明らかになりつつある。って段階だとは知らなかった。
とくに捕獲しないと生息確認できない、樹洞性コウモリの情報の少なさにはびっくり。確かにどうやって調べるんだろうとは思ってたけど…。樹洞営巣性の鳥や、哺乳類でもヤマネなどでは、巣箱かけによる調査がよく行われる。樹洞性コウモリの調査でも、巣箱を活用すればもっと分布・生態に関する調査は進展するのではないかな?と、門外漢は思うけど…。
●「カエルのきもち」千葉県立中央博物館監修、2000年、晶文社出版、1600円+税、ISBN4-7949-7604-6
2001/8/16 ★
1999年に千葉県立中央博物館で開かれた特別展「カエルのきもち」の解説書を、一般書の形で出版したもの。カエルグッズやカエルの本から、カエルの歴史(進化及び人との関わり)、カエルについでのQ&A、カエルについての思いでまで、カエルに関するいろんな事が載っている。が、肝心のカエルのきもちの部分についてが弱いように思う。
唯一おもしろいのは、第4章の「カエルの身に起きていること」だが。ページ数があまりに少ないし。データも提示してくれないし(持ってるくせに!)。掘り下げが足りなくて、物足りない。
●「カエルが消える」キャサリン・フィリップス著、1998年、大月書店、2400円+税、ISBN4-272-44027-6
2001/8/15 ★★
著者は、アメリカのジャーナリストで、カエルの研究者に取材して(ときには何日にもわたる調査に同行して)書いている。コスタリカのオレンジヒキガエル、オーストラリアのカモノハシガエル、北アメリカのアロヨヒキガエルにカリフォルニアアカアシガエルなど、いくつかのカエルを重点的に取り上げ、その減少の具合、その原因、それに対する人間側の対応が描かれている。
世界規模のカエルをはじめとする両生類の減少を紹介している。というには、対象が限られ、世界規模の現状は今一つ見えてこない気がする。
むしろ科学者を綿密に取材しているため、科学者の本音がよく見えていておもしろい。また環境保護の先進国と見なされがちな、アメリカ合衆国においてですら、いかに環境が充分守られていないかがよくわかる内容になっている。そういった点をしる上では、かっこうの書かも知れない。
また北中米の森林性のカエルにおいて酸性雨・オゾン層破壊・地球温暖化が、問題となり。また森林伐採や湿地の埋立はもちろんのこと、食用のためのカエルの捕獲、放牧地の増加、捕食性の移入種などがカエル類の激減の原因になっているという点は、日本ではあまり指摘されないので興味深かった。ブラックバスなやウシガエルなど移入種による捕食によるカエル類の減少は、日本でも検討する必要があるのかもしれない(すでにされてるのかな?)。
●「水田を守るとはどういうことか 生物相の視点から」守山 弘著、1997年、農分協、1619円+税、ISBN4-540-97025-9
2001/7/17 ★★
地史的な観点を含め、歴史的に水田が淡水生物たちの生息環境として、どのような役割を果たしてきたかを紹介し。従来の、水田やため池で淡水生物たちがどのように暮らしてきたかを紹介し。そして今、水田環境がどのように変化し、その結果生物たちがどのような状態にあるかを紹介しています。最後の章で、”これからの水田”として、単なる米の生産の場だけではなく、生物多様性を維持し、同時に人と生物がふれあう場としての水田環境のあり方を提案しています。
姉妹編の「自然を守るとはどういうことか」(こちらは里山が中心)と合わせて、一読の価値があると思います。
●「生物保全の生態学」鷲谷いずみ著、1999年、共立出版、2200円+税、ISBN4-320-05529-2
2001/6/18 ★
数式やグラフなどはほとんど出てこず、全体像やよく出てくる単語が要領よくまとめられています。大学生向けの教科書って感じです。それも文系向けか?
世界でのいろんな実例が、引用文献付きで紹介されているので、レファレンスブックとしてけっこう役立つと思います。
●「メダカが消える日 自然の再生をめざして」小澤祥司著、2000年、岩波書店、1600円+税、ISBN4-00-002257-1
2001/6/14 ★★
ジャーナリスティックなタイトルを見て、てっきりただただメダカの保護を訴えて、メダカの放流を推進しようとするような本かと思っていました。長い間積んであったのですが、読んでみて驚きました。とてもしっかりした内容の本でした。タイトルで勝手に内容決めつけてごめんなさい。という感じです。
著者は自ら収集した情報や経験に基づいて、メダカの減少の現状を示した上で、その原因をわかりやすく解説してくれます。多くの研究者と違って、農業に関する知識を持ってる著者の発言にはなかなか重みがあります。さらには、地域個体群の意義を認識した上で、うかつな放流の問題点もしっかり指摘しています。
あえてしている「メダカを保護してはいけない」という発言を含めて、とても共感できます。行政関係者や農業関係者だけでなく、”地球に優しい”運動に関わっている人にもぜひ読んで欲しい本です。
●「ため池の自然−生き物たちと風景」浜島繁隆・土山ふみ・近藤繁生・益田芳樹著、2001年、信山社サイテック、2500円+税、ISBN4-7972-2556-4
2001/6/11 ☆
目次は、「ため池の概観」、「ため池の水環境」、「ため池の生き物」と続く。最初の二つは、いかにも教科書的。「ため池の概観」では、日本全国のため池の数とその減少の数値は参考になるけど、まあそれだけ。「ため池の水環境」は、普通の陸水学の教科書になら必ず載ってる程度の内容。
「ため池の生き物」では、16名の著者が、それぞれ好きなように自分の担当分類群について記述している。植物や昆虫からカメ・鳥まで、ため池の植物と動物はほぼ網羅している。中でもシャジクモ類と淡水カイメン類は、類書ではなかなか見られないので興味深かった。しかし、全体的には、物足りない図鑑のような内容が目立ち、あまり役立ちそうにない。またため池に限らないような内容も目立つ。とくに鳥類部分は、こんな記述に何の意味があるのかわからないような内容。
●「よみがえれアサザ咲く水辺〜霞ヶ浦からの挑戦」鷲谷いずみ・飯島 博編、1999年、文一総合出版、1900円+税、ISBN4-8299-2136-6
2001/6/10 ★
タイトルの通り霞ヶ浦で行われているアサザを含めた水辺の自然回復のプロジェクト「アサザプロジェクト」の紹介。1998年に行われた現地セミナーと公開講座の内容をまとめたもの。
地元の人的ネットワークと研究者、さらには行政までも巻き込んだ共同作業で進められているプロジェクト。もちろんこのプロジェクトを継続していくには、いろいろ問題も抱えているとは思うけど、これからの生物多様性の保全のための活動の一つのモデルを提供してると言っていいでしょう。
が、地元でこれだけのネットワークを構築できるだけの人的資源。さらには保全を進める指針になるだけの研究結果。そして住民の意見に耳をかたむける行政担当者。これだけの条件が整ってるケースがどれだけあるかは疑問でしょう。
●「骨の学校 ぼくらの骨格標本のつくり方」盛口 満+安田 守著、2001年、木魂社、1700円+税、ISBN4-87746-085-3
2001/6/4 ★★
「ぼくらが死体を拾うわけ」でおなじみの盛口満の最新作。今回は同僚の安田守との共著。でも、文章の雰囲気は似てるので、気を付けないとどちらが書いてるのかはよくわからない。
とにかく、登場する高校生達のキャラクターがいいです。楽しそうに、死体を拾ってきては、骨格標本にしている。仕事で面倒くさがりながらやってる誰かとは大違い。時間があって、趣味でやるなら楽しいやろうなぁ。博物館にもこんな高校生がやってこないかぁ。などと思いながら読みました。
仕事的には、第3部の「骨格標本の作り方」が役に立ちそうです。個人的には、自分でも魚の耳石コレクションをしたくなりました。あと咽頭歯やサメの歯のコレクションも楽しそう。
●「ヤマネって知ってる? ヤマネおもしろ観察記」湊 秋作著、2000年、築地書館、1500円+税、ISBN4-8067-1213-2
2001/3/14 ★
1973年以来、30年近くもヤマネを研究してきた著者が、自分の研究を絡めつつ、ヤマネを生態を中心に紹介している。謎に満ちた動物ヤマネを知るには格好の書。出会うだけでも大変な相手をよくここまで調べたな、と思うと同時に、30年近くもかけてこの程度しかわからないのか、とも思う。
大阪でも巣箱をみようかと思ったけど、和歌山であんなに入らないんじゃねぇ。
●「多足類読本」田辺 力著、2001年、東海大学出版会、2800円+税、ISBN4-486-015-44-4
2001/3/12 ★
帯には「ゲジゲジマニア入門」とある。その通り、ムカデやヤスデやゲジなど、多足類と総称される動物群の入門書。分類、形態、生態、さらには採集法から飼育法まで、多足類についての一通りのことがわかる。文章からは、著者のゲジゲジへの偏愛がよく伝わってくる。
あらゆるトピックが詰め込まれているが、その分だけ個々のトピックへの突っ込みが浅くなってしまっているのが、残念なところ。とくに著者自身の研究成果の部分は、もっと読んでみたかった。