著者が福井県で、ハヤブサを追いかけた日々をつづった本。単なる観察や写真撮影ではなく、ハヤブサの研究にまで踏み込んでいたようだが、この本にはデータは示さず、観察日記風にハヤブサのエピソードが並ぶ。文章からは著者のハヤブサへの愛情が伝わってくる。豊富に使われている写真も美しい。
正直なところ、データも示して欲しかったが、論文には盛り込まれないハヤブサの生態や調査のコツなどの情報はもりだくさん。これからハヤブサを調べようかと考える人にも参考になると思う。とくに福井市に住みついたハヤブサについての調査風景がつづられた第3章は、とても興味深かった。昼間は山で寝てて夜に市街地にやってきてハンティングするとは…。
あとがきでは、この本は池田善英さんに捧げられています。池田さんは、イヌワシなど猛禽類研究のスペシャリストでしたが、40歳の若さで急逝されました。池田さんがこんな感じで書いた「イヌワシの詩」を読んでみたかったな、としみじみ思ってしまいました。
鳥の写真が豊富に使われているが、写真集でも、鳥の名前を調べるための図鑑でもなく、鳥のくらしを知るための本。見開き2ページに一つずつテーマが割り当てられている。1部は”野鳥の観察と調査”で、いろんな環境の鳥を紹介したあと、羽や糞、死体、古巣などを集めてみようと紹介。さらに調べてみようということで、食性や採食行動、貯食、ねぐら、足跡などのテーマが示される。2部は”鳥たちの繁殖”で、身近な鳥の子育ての様子や、求愛、交尾、巣づくりといった繁殖行動が紹介される。3部は”野鳥の体と飛ぶしくみ”で、羽毛と飛行に関する解説。4部は”野鳥の観察ポイント”で、おおむね科ごとに日本の鳥が紹介される。後ろには”野鳥博士をめざして”として、調査に必要なテーマ、道具、図鑑、文献、研究機関などの紹介もある。
写真には、巣箱でのシジュウカラの繁殖の進んでいく様子や、ビルでのチョウゲンボウの繁殖、マガモの交尾の連続写真など、見応えのあるものが多く含まれる。鳥の落とし物や糞、モズのはやにえのコーナーは楽しい。カキの実を食べにくる野鳥、ツグミの羽を全部むしって並べる、といったテーマ設定は興味深い。
とはいえ、これを見て博士になるのが無理なのはもちろんとしても、どんな調査をしろってゆうのかさっぱりわからない。鳥のくらしの色々な側面を紹介してはいるが、観察してみよう、集めてみよう、調べてみよう、と盛んに書いてあるのだが、どこでどうやったら写真の風景に出会えるかたぶんわからない。それがわかる人はこの本には用がないだろうし。
というわけで、調査研究に役立つかのようなタイトルや文章の端々からからは、中途半端な印象がぬぐえない。が、観察会でのネタ本としては有効そう。ついでに指摘すると、96ページのチョウゲンボウと167ページ右下のハシボソガラスは同定間違いだと思います。
海と陸の境目である渚。さまざまな日本の渚を、多くの文学作品などの引用とともに、詩情豊かに紹介した本。副題の通り、すでに失われた、そして今なお失われ続けている日本の渚への著者の想いが伝わってくる。
各章ごとに、河口、干潟、藻場、砂浜、サンゴ礁、ヒルギ林を順に取り上げ、かつてそこで見られたヒトを含めた生物の営みが描かれる。いずれの章も、かつて見られたそういった営みは、今はもうほとんど見られない事が嘆かれて終わる。最後の章では、”渚の保護のために”と題して、現在渚を危機に落としている原因として、埋め立て、浚渫、富栄養化、汚染、ダム建設、河口堰建設、人工護岸化、海砂の採取と搬入、移入種、過剰利用があげられる。
かつての自然の風景を示すために、万葉集などを引用してみせる手法は鮮やか。登場する生物も多岐に渡っており、著者の守備範囲の広さには驚かされる(まあ変な生きものの事をやたらと知っていると評判の人なので、驚くことはないのかもしれないけど)。ただ最終章は、渚を守ることだけを至上命題とするならよくまとまってもいるが、現実にじゃあどうしたらいいのかという提言に成り得ない点が難点か。しかし、それは我々みんなが考えるべきことかもしれない。
アジア、アフリカ、アメリカと世界中の熱帯雨林を見てきた著者が、多様性をキーワードに熱帯雨林を解説した本。はじめにで描かれる3大陸の夜明けの風景はとても印象的。
第1章は林冠調査の紹介で、林冠へのさまざまなアプローチ方法が示される。第2章は、熱帯雨林の概要紹介。熱帯雨林で現在見られる種多様性を、白亜紀からの共進化の結果として示してくれる。第3章は、植物によって形作られる熱帯雨林の立体構造の紹介。第4章では、昆虫を中心に、熱帯雨林にいったい何種の生物がいるのかを議論する。第5章では、アリ植物、送粉、種子散布といった生物間相互作用を紹介。第6章では、一斉開花の謎を扱い。最後の第7章では、人によって失われゆく熱帯雨林と、それをくい止めようとする動きを紹介する。
各章はテーマごとによくまとまっており、熱帯雨林の多様な側面をバランスよくコンパクトにまとめているという意味では、これ以上はなかなか望めないと思う。惜しむらくは中味が少し硬いことか。はじめにや、あとがきの最初に見られる詩情が、全体に行き渡っていれば、もっととっつき安かったのではないかと思う。
タイトル通り、未記載種や主な移入種、及び海産の種を含めた日本産の両生爬虫類がすべて紹介されている。掲載種(亜種)は、サンショウウオ20種、イモリ3種、カエル43種、カメ15種(クロウミガメやヤエヤマイシガメを含む)、ヤモリ12種、トカゲモドキ5種、トカゲ22種、ヘビ48種。
カエルでは、最新の情報を含んだ図鑑(「日本カエル図鑑」や「日本のカエル」)があったが、他のグループには「日本動物大百科5両生類・爬虫類・軟骨魚類」(平凡社)しかなかったので、この図鑑の意義は大きいと思う。何より他の図鑑では紹介されていない最新の情報がまとめられているのはありがたい。
掲載されている未記載種としては、オワリサンショウウオ、サキシマヌマガエル、タカラヤモリ、ニシヤモリがあり、今後記載されるであろう種として”クメヤモリ”と”コタカラヤモリ”の名前もあがっている。さらにクメハイのようにこの本が一般書初お目見えの種もある。
というわけで、日本の両生爬虫類ファンは必携の一冊でしょう。
表紙のタイトルに、こっそりと「+サンショウウオ類」とあるように、カエルを中心にしながらもサンショウウオ類とイモリ類も含めた日本の両生類の図鑑。日本産のカエル43種(亜種)、サンショウウオ18種、イモリ3種が載っている(移入種や未記載種を含む)。カエルに多くのページをさいてはいるが、その多くは、生態写真からなり、図鑑的な解説部分はそれほど多くない。
島ごとにわけたカエルの検索は、それなりに使えそう(人による移入があまりなければだが)。だが、同じ写真ばかり繰り返し使っているのはちょっとねー。あと図鑑部分のカエルの写真のライティングが変な感じ。さらにカエルの姿が正面と斜め前上方(or横)からのアングルしかないのが不満。なぜ全部に背面と腹面の写真をつけない?
あとオタマジャクシの写真もあるけど、バラバラに3ヶ所にオタマジャクシカタログとして、あるいは各種の写真の一つとして分かれていて、さらに全種は掲載されていない。識別点の解説もほとんどないし、オタマジャクシの識別にはあまり役立たない。
都市鳥研究会を中心に、都市鳥についての調査を進めている著者が、カラスについて書いた本。ほぼ同時期に出版された「マンウォッチングする都会の鳥たち」の姉妹編にあたるらしい。
東京のカラスを中心に、集団ねぐら、行動圏、営巣、食性、貯食といった行動・生態的な話題から、人との交流、害鳥としてのカラス、文学や神話の中のカラスまで、話題は多岐にわたる。この本の出版から15年近く経ち、この間いろいろなカラスの研究が行われてきた。その大部分の研究のアイデアはこの本から得られたのではないかと思うくらい、カラスの興味深い行動や生態が数多く紹介されている。
というわけで、これからカラスを研究しようとか、カラスの行動に興味を持っている人なら必読の1冊。しかし、悪く言えば全体に脈絡はなく、著者の主観的なカラスの行動の理解にイライラする部分も少なくない。
近年、東京ではカラスが大問題となっている。ゴミ漁りだけでなく、人を襲う例も増えているという。この本を読むと、カラスが人を攻撃するのは、巣立ちビナに人が知らずに近づいた時だけらしい。耳にするところから判断すれば、どうやら今の東京のカラスの攻撃性は、当時よりもさらに高くなっているような(たとえば「カラス、なぜ襲う」を参照)。現在は大阪でも、巣立ちビナに人が近づいてカラスの攻撃を受けた例を耳にするようになってきた。大阪のカラスも15年後にはもっと恐くなっているのだろうか? 東京のカラスの行動の変遷を知る意味で、興味深い。
いろんな動物たちが集まる学校に、新入生のカモノハシくんがやってきます。で、グループ分けをしようとします。しかし、くちばしはあるけど羽はないカモノハシくんをどのグループに入れればいいの? と先生が悩むといった話が展開します。
一見は系統分類に関する絵本のようです。絵本の最後には2ページを費やして「生きものの分類」という絵のない解説まであります。この文章自体は、”分類とはなんでしょう?””どのように分類するのでしょう?””形質とはなんでしょう?”といった難しい内容を、比較的平易に解説しているように思います。
しかし、絵本の話は思わぬ展開をします。どのグループにも入れなかったカモノハシくんが、いじけて行方不明になります。それを、みんなで探して、ようやく見つかる。最後は正しい分類の仕方につながって終わるのかと思いきや、形態でのグループ分けを放棄して、みんなの多様な能力を評価しましょう、てな感じで終わり。結局は、人種問題がテーマだったようです。
まさか分類を放棄するという結論になるとは思いませんでした。副題の「生きものの分類学入門」というのはなんだったんだ? カモノハシの入学という設定はいいので、もう少し工夫すればもっといい物になったのにと思うと、とっても残念な1冊です。
地形の成り立ちを、ロックコントロール、デブリコントロール、バイオコントロールの三つの見方と、比較と時間の二つの目で見抜こう!という本らしい。北アメリカを中心とする海外と、日本の地形が大量に紹介され、その成り立ちが紹介される。
著者は、丁寧に解説しているつもりらしいが、岩石や地質に関する知識に乏しい者にはチンプンカンプン。なにやらすでにかなりの知識をもった地形に興味のある者には、けっこう新鮮な地形の見方を提案しているらしい(例えば”おわりに”を読むと)。一方で、文章は「…に注意しよう」てな素人向けのような言葉遣いも目立つ。いったい誰をターゲットに書かれたのか謎。
いろんな地形が紹介されて、それの成り立ちに関する話が展開するので、この分野の予備知識がなくても、蘊蓄を蓄積したい方にはお薦め。地形を見る目を養って、野外に出よう、とあるけど、この本を読んだ位で野外に行っても、何にもわからんと思う。
ボルネオの熱帯雨林のフィールドね向かう途中、飛行機事故で死んだ著者の絶筆。現在、世界中で急速に減少している熱帯雨林を、複雑な生物間ネットワークを中心に紹介している。熱帯雨林の魅力が比較的わかりやすく、おもしろく描かれる。
ボルネオ島サラワクの熱帯雨林での、著者のグループのさまざまな研究成果の話題が中心。軸になっているのは、ツリータワーとウォークウェイによる林冠の調査方法の紹介と、1996年に起きた一斉開花の話題。その他様々な送粉共生系(及び少しだけ栄養共生系)が出てくる。
NHK人間大学のテキストとして出版するべく、校正を終えてフィールドへ向かう途中に事故にあったという。そう思って読むと一層感慨深い。加藤真さんによる解説「林冠に架けた夢」を読むと、著者の人となり、なにより道半ばにして世を去った著者の熱帯雨林研究にかける情熱がよく伝わってくる。テキストとして書かれた本文よりも、著者の熱意を伝えていこうとする解説の方が印象深い。先に、解説を読むのがお薦め。
海岸に打ち上がった漂着物を拾うビーチコーミングを、さまざまな角度から紹介した本。その対象は、植物の種子や動物の死体だけでなく、ゴミや廃油ボールにまで及ぶ。
漂着物をきっかけに、話は生態学のみならず、人間の生活や環境問題にまで及ぶ。海岸のゴミからこんなにいろんな研究ができるとは思わなかった。ただし、著者の専門の植物種子の海流散布についての本と思って読むと不満が残る。生態学におもに興味があるなら「海流の贈り物」や「種子はひろがる」を読んだ方がいいでしょう。
日本中の浜辺を歩き回っては、打ち上がってる物を拾ったり、写真に撮ったりしてる著者を考えると、なんやら楽しそう。というわけで、この本を読んだ後すぐに海岸に行く機会があったので、漂着物をながめてみました。残念ながらヤシの実もモダマも見あたらず。でも小さい海流散布っぽい種子はけっこう拾えました。でも、種類がわからない…。ビーチコーミングの図鑑が欲しい〜。
ふとした出来心で、なんの予備知識もないまま、ラスカルイメージで単に可愛いからと、アライグマを飼った著者の奮闘が描かれる。
アライグマは小さい頃はかわいいけれど、大きくなるとかなり凶暴な動物で、犬や猫のようには簡単に飼えない。この本を読めば、安易に動物を飼ってはいけないことが思い知らされる。それにしても、ええ加減な事をいって珍しい動物を売りつけるペットショップ(およびマスコミ?)の罪は大きい。
そもそも、安易に野生動物を飼ったのが悪いといえば悪いけれど、くじけそうになっても、最後まで面倒を見た著者は偉いなー、と思う(自分なら途中で捨ててしまったかもしれない…)。ただ、著者がアライグマを捨てなかった理由は主に飼い主としての責任感にあるらしい。生態学関係者としては、そこでもっと移入種問題について触れて欲しかったところ。そこだけが不満といえば不満。
日本でのカエル研究(とくに系統分類学)の第一人者の著者が、カエルの進化から系統・形態、生態、そして減少の危機まで、カエルのあらゆる側面を紹介した本。
第1章の両生類の系統と、その中でのカエルの特徴の解説。第2章の日本のカエル類の分類学上の問題点の紹介。こういった辺りは、著者のまさに専門分野で、面目躍如って感じ。興味深く読める。
しかし残念ながら、全体に構成が散漫で、個別の話題の掘り下げが浅くて中途半端なのが不満。とくに第3章の「世界の変わったカエルたち」は、中途半端に珍しい形態と生態を紹介してるだけの感が強い。構成上は、むしろなかった方がよかったと思う。逆に第4章では、日本のカエルの危機について、もっと具体的な事例に基づいた掘り下げた紹介が欲しかった。
タイトル通り、地面の下のさまざまな動物を、地面の断面を並べて紹介。かなりマニアックな生きものにまでちゃんと種名がついていて、また絵と解説によって土の中での生態までもがある程度わかるようになっている。
ほぼ実物大で紹介しているので、ある程度大きめの動物しか登場せず、いわゆる土壌動物までは出てこない。が、普段目にすることのない地面の下で、こんなにいろんな生きものによる多様な生活が営まれているのか、と感心させられる。
「じめんのしたは いきものでいっぱいだ。」この最後の言葉がすべてを表している。どんどんと次のページに絵が続いていく構成も楽しい。個人的にお気に入りは、タカチホヘビとシュレーゲルアオガエル。気に入らないのはキノコがないこと。モグラの巣がでたら、アシナガヌメリとかが欲しいなー。
鳥がからんださまざまな共進化を、さまざまな実例を交えて紹介した本。あちこちに連載した文章をまとめただけあって、一つ一つの話題がせいぜい十数ページにまとまっていて、読みやすい。
第1部は、花と鳥の関係ということで、鳥による送紛や盗蜜を紹介。第2部は、鳥と昆虫の関係ということで、鳥による捕食に対する昆虫の擬態や目玉模様を紹介。第3部は、鳥と木の実の関係ということで、鳥や哺乳類による種子散布を紹介。第4部は、鳥・花・虫の三角関係ということで、植物の防御物質や色の意味についての紹介。最後の第5部では、鳥と鳥の関係ということで、毒鳥や鳥同士の擬態についての紹介。
とにかく話題が盛りだくさんで、読んでいて楽しい。ただしすでに確立された話もあれば、まだスペキュレーションに過ぎない話もあるので、すべてを鵜呑みにしない注意が必要かも。タイトルには(帯にも)、進化論という文字がおどっているが、共進化の結果と考えられる例が出てくるだけで、けっして内容は進化論(進化のメカニズムについての議論)ではないので、惑わされないように。
国立科学博物館につとめる著者が、毎年一つがいのカワセミの繁殖を、何年にもわたって、ものすごい時間をかけて観察した結果を、一般向けにまとめた本。
とにかくビデオを使って、ほぼ毎日朝から晩まで観察した1993年〜1995年のデータはすごい。求愛給餌から交尾までの毎日の様子(p77-p80)、抱卵期の雌雄の交代パターンの完全な記録(p100-p101)、ヒナに運ばれた餌の種類・数・量がヒナの成長にともなって変化する様子(p115-p127,
p145-p146)など、データの完璧さに圧倒される。
一方で、科学の研究として見た場合、毎年一つがいしか観察していないという欠点は大きい。とにかく一つがいのカワセミの繁殖をまるごと知りたい、といった雰囲気が全体にただよっていて。いい意味でも悪い意味でも、アマチュアっぽさを強く感じる。著者の勤め先を考えると不思議な感じ。
巻末の参考文献には、日本の文献しかあがっていない。そのため、著者の研究結果が、どこまで著者のオリジナルな発見なのかよくわからなかった。