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1997/12/30
●【侵入者を追い払う種類のそばで繁殖すると安全だけど・・・】Larsen, T. & Grundetjern, S.(1997) Optimal choice of neighbour: predator protection among tundra birds.「最適な近隣者選び:ツンドラの鳥による捕食者の防御 」 J.Av.Biol. 28: 303-308.

論文の内容:シベリアのツンドラで繁殖しているオオトウゾクカモメ(Stercorarius skua)とダイゼン(Pluvialis squatarola)、ムナグロ(Pluvialis fulva)、オオソリハシシギ(Limosa lapponica)のうち、オオトウゾクカモメとダイゼンは巣のあるなわばりへの侵入者を必ず追い払う。人工巣に卵をいれて設置すると、ダイゼンのなわばり内に設置した巣の卵の生残率は、他種のなわばり内の場合よりも高かった。またダイゼンのなわばりには、他種の巣が多く見られる傾向にあった。オオトウゾクカモメもなわばりへの侵入者を追い払ってくれるが、オオトウゾクカモメ自身が卵の捕食者になることがある。

勝手なコメント:なわばりへの侵入者を熱心に追い払う種の巣のそばで繁殖すると、自分で卵の捕食者を追い払わなくてすむのでお得、というのは誰でも思いつくことで、けっこう多くの研究があります。なわばりの侵入者を追い払ってくれても、トウゾクカモメのようにそれ自身が捕食者になる場合はちょっとね、というのもまあ誰でも思うことですね。他種あるいは他個体の巣の分布によって、卵の捕食されやすさに違いがあり、どこも同じように思える一面のツンドラで、地図の等高線のような構造が生まれているというイメージが気に入っています。


1997/11/26
●【豊作の次の年にライチョウやヤチネズミは増える】Selas, V. (1997) Cyclic population fluctuations of herbivores as an effect of cyclic seed cropping of plants: the mast depression hypothesis.「植物の種子生産の周期による植食動物の周期的な個体群変動」 Oikos 80: 257-268.

論文の内容:植食動物の周期的な個体数変動は植物の種子生産の周期性が原因であるとするmast depression仮説を、いくつかの植物の種子生産と植食動物の個体数変動から検討した。ヒメウスノキの近縁種(Vaccinium myrtillus)やコケモモ(V. vitis-idaea)の果実生産量と、カラフトライチョウ(Lagopus lagopus)などの小動物、およびヨーロッパヤチネズミ(Clethrionomys glareolus)などのネズミ類の個体数について、ノルウェイにおけるデータを分析したところ、果実生産量とその翌年の植食動物の個体数との間に正の相関があった。この結果は、mast depression仮説を支持している。

勝手なコメント:北欧では、植物の種子生産と植食動物の個体数にさらに肉食動物の個体数を絡ませた研究が盛んに行われています。植物の生産性をベースにしたさまざまな動物同士の関係が浮かび上がっていて、たいへんおもしろい結果が得られています。日本では植物の種子生産とネズミの個体数変動の関係については、けっこう研究されているのですが、鳥が扱われることはあまりないようです。


●【ノドアカモリハタオリは捕食者を避けるためにワニの巣穴のそばで繁殖する】Hudgens, B.R. (1997) Nest predation avoidance by the Blue-billed malimbe Malimbus nitens (Ploceinae).「ノドアカモリハタオリによる巣での捕食の回避」 Ibis 139: 692-694.

論文の内容:ノドアカモリハタオリ(ハタオリドリ科)の巣は、有意にAfrican dwarf crocodile(和名は一応ニシアフリカ***ワニ。誰か***の部分を変えて!)の巣穴のある水たまりのそばに多く存在する。両者がよく似た環境要求を持つという可能性もあるが、ノドアカモリハタオリが熱帯に多いヘビによる巣での捕食を避けるためにワニの巣穴の近くで繁殖している可能性がある。

勝手なコメント:鳥が(おそらく)巣での捕食を避けるために、タカ類やスズメバチなど”強い”もののそばで繁殖するという現象はいくつか知られています。この研究の場合、ワニの巣穴の近くで繁殖したノドアカモリハタオリの巣での捕食が本当に少なかったのかを確かめていないのが残念なところです。


●【マイマイガが大発生するとワキアカトウヒチョウが増える】Bell, J.L. & Whitmore, R.C. (1997) Eastern towhee numbers increase following defoliation by Gypsy moths.「マイマイガが葉を食べるとワキアカトウヒチョウが増える」 Auk 114: 708-716.

論文の内容:アメリカ合衆国ウェスト・ヴァージニア州において、マイマイガ(Lymantria dispar)の大発生があった1987-1988年とその前後のワキアカトウヒチョウ(Pipilo erythrophthalmus)の個体数を検討した。ワキアカトウヒチョウの密度は、マイマイガの大発生の後有意に高くなった。マイマイガの大発生の前後ともに、ワキアカトウヒチョウは高木層に葉が少なく、低木層に樹が少ない環境を好む傾向にあった。マイマイガの大発生は、高木層の葉を減らすことによってワキアカトウヒチョウが好む環境を作る結果になったと考えられる。

勝手なコメント:ガが大発生すると木が枯れるので、林を守るという立場からガを退治しようということになりやすそうですが、ことはそう簡単ではないということですね。ちなみにワキアカトウヒチョウは個体数の減少が心配されている鳥らしく、少なくともウェスト・ヴァージニア州では適度なマイマイガの大発生は歓迎される出来事のようです。日本の松枯れでも、その結果増えた動物もいることでしょう(マツノザイセンチュウは別にしてもね)。


●【ユキホオジロの体重は真冬に重くなる】 Smith, R.D. & Metcalfe, N.B. (1997) Diurnal, seasonal and altitudinal variation in energy reserves of wintering Snow Buntings.「越冬ユキホオジロのエネルギー蓄積における日周的、季節的、緯度的変異」 J.Av.Biol. 28: 216-222.

論文の内容:スコットランドでユキホオジロ(Plectrophenax nivalis)の体重について調べたところ、真冬にあたる1月に体重はもっとも重くなった。また緯度の異なる3地点を比較したところ、高緯度ほど真冬における体重は重かった。以上の結果は、ユキホオジロは、食物が得られない危険性が高い状況にあるほど、(餓死を避けるために)多くのエネルギーを蓄積していることを示唆している。

勝手なコメント:冬に体重が重くなる例はいくつも知られており、異なる緯度での比較をしたという点を除けば、とくに目新しくない結果です。長居公園のヒヨドリの体重も冬になると明らかに重くなります。この減少は、冬は食物が乏しく餓死する危険が高いので、脂肪という形でエネルギーを蓄えるので体重が重くなると説明されます。ある報告によれば、餌を充分与えて野外で飼っている鳥の体重は、冬になっても重くならないそうです。長居公園のヒヨドリのデータでは、冬であっても食物が多い年にはほとんど冬期の体重増加は見られませんでした。じゃあ食物が得られない危険性が高いかどうかはどうやって判断しているのかとか、その判断が体重増加につながるメカニズムは、っていう点については何にもわかっていないというのが現状だと思います。


●【シロフクロウがいるとハクガンの繁殖はうまくいく】 Tremblay, J.-P., Gauthier, G., Lepage, D. & Desrochers, A. (1997) Factors affecting nesting success in Greater snow geese: effects of habitat and association with Snowy owls.「ハクガンの営巣成功に影響を与える要因−生息環境やシロフクロウの影響」 Wilson Bull. 109: 449-461.

論文の内容:カナダでハクガン(Anser caerulescens)の繁殖に影響を与える要因について調べたところ、ハクガンの繁殖の失敗原因のおもなものはホッキョクギツネによる補食であった。1993年は、この調査地域でシロフクロウ(Nyctea scandiaca)が繁殖していたのだが、シロフクロウの巣の近くで繁殖したハクガンは、シロフクロウから離れた場所で繁殖したハクガンよりも繁殖成績がよかった。またシロフクロウがいなかった1994年は、ハクガンの繁殖成績は1993年よりも悪かった。

勝手なコメント:シロフクロウという猛禽がいることで、その地域にホッキョクギツネがあまりやってこなくなり、結果としてハクガンの繁殖がうまくいったと考えられます。シロフクロウ自身は、別にハクガンのために睨みを利かせているのではないとは思います。このように猛禽類のそばで繁殖するという例はほかにもいくつも報告がある現象です。
 ハクガンの繁殖には、シロフクロウだけでなく、レミングも影響を与えるらしく、レミングの個体数が多い年には繁殖成績がいいんだそうです。この場合は、レミングが多ければホッキョクギツネはハクガンの卵を狙わずにレミングを追っかけ回しているということでしょうか。いずれにせよ生き物同士は思わぬつながりを持って生きているということですね。


●【ワシカモメとアメリカオオセグロカモメの交雑個体は、ワシカモメよりもの繁殖成績がいい】Bell, D.A. (1997) Hybridization and reproductive performance in gulls of the Larus glaucescens-occidentalis complex.「ワシカモメとアメリカオオセグロカモメの交雑とその繁殖成績」 Condor 99: 585-594.

論文の内容:北アメリカの西海岸では、北よりにワシカモメ(Larus glaucescens)、南よりにアメリカオオセグロカモメ(L. occidentalis)のコロニーがあります。ワシントン州とオレゴン州には両種がともに繁殖しているコロニーがあり、そこでは頻繁に交雑が生じており、交雑個体もまた繁殖しています。両種と交雑個体が繁殖している場所でそれぞれの繁殖成績を比べると、ワシカモメの繁殖成績は、アメリカオオセグロカモメや交雑個体よりも悪かった。

勝手なコメント:もしも交雑個体の繁殖成績が悪ければ、両種の交雑には歯止めがかかると考えられます。交雑個体よりもワシカモメの繁殖成績が悪いということが続くと、純粋なワシカモメの個体は相対的に減っていき、そのうちアメリカオオセグロカモメに吸収合併されていくのではないでしょうか。実際にハクガンとヒメハクガン、マガモとアメリカガモなどにおいて、交雑が進んで、後者が前者に吸収されていなくなってしまう恐れがある、という話があったと思います。


●【秋の渡りの際に果実をよく食べる種類の方が、渡りの中継地でエネルギーを効率よく補給している】Bell, D.A. (1997) Patterns of frugivory and energetic condition in Nearctic landbirds during autumn migration.「北アメリカの陸鳥の秋の渡りの際の果実食と脂肪蓄積」 Condor 99: 681-6697.

論文の内容:北アメリカで繁殖する夏鳥の多くは、繁殖期は昆虫食だが、秋の渡りの際には多かれ少なかれ果実を食べる。渡りの中継地で果実をよく食べる(食物の1/3以上が果実)種の方が、もっぱら昆虫を食べている種(食物の1/3以下が果実)種よりも、中継地にいる間の体重増加が大きかった。

勝手なコメント:渡りはとてもエネルギーを消耗するので、中継地で効率よくエネルギーを補給することはとても重要です。その点で果実というは、昆虫よりも効率のよい食べ物だということでしょう。昆虫よりも果実を食べた方が、脂肪がよく蓄積するという研究結果は、この他にもいくつかあったと思います。それでは何故あくまでも昆虫を食べている種類がいるのでしょうね。


●【ドングリの渋みは一冬埋めておいても抜けない】Dixon, M.D., Johnson, W.C. & Adkisson, C.S. (1997) Effects of caching on acorn tannin levels and Blue jay dietary performance.「埋めることのドングリのタンニン量への効果とアオカケスの食性」 Condor 99: 756-764.

論文の内容:北アメリカのアオカケス(Cyanocitta cristata)は秋から冬にかけてよくドングリを食べ、ドングリにとってアオカケスは重要な散布者になっている。しかしドングリにはタンニンが含まれており、ドングリだけを与えるとアオカケスの体重は減少していく。一冬ドングリをアオカケスがするように地面に埋めてみたが、タンニン量にとくに変化はなかった。

勝手なコメント:アオカケスは秋にドングリを地面に埋めて貯蔵します。それは後で食べるためなのですが、いくらかは食べられずに残されて春に芽をだします。ドングリをつける樹にとっては、カケスは種子(ドングリ)を食べる捕食者でると同時に、種子をあちこちに蒔いてくれる散布者でもあるわけです。カケスが地面にドングリを埋めて貯蔵するのは、冬の食糧が不足するときに備えると同時に、カケスにとっては毒であるタンニンを減らすためでもあると考えられてきました。この研究は地面に埋めておいてもタンニン量は減らないということを示したわけですが、カケスとドングリめぐる関係にはまだまだわからないことがあるようです。たとえばカケスはタンニンの少ないドングリを選ぶのでしょう。ドングリにはもともとタンニンのほとんどない種もありますが、どの位のタンニン量がカケスに散布してもらうには一番効果的なのでしょうか。たぶんこの問題にはドングリを食害する昆虫も関わってくると思います。
 日本のカケスもドングリをよく食べるし、貯蔵もします。またカケス類はいっぱんにタンニンには弱いようです。したがって日本のカケスも同じ問題に直面しているわけです。けっこう身近でおもしろそうな研究課題だと思います。


●【屋久島の動物散布の樹は、渡り個体がやってきて果実食の鳥が増える時期に、果実の熟期を合わせている】Noma, N. & Yumoto, T. (1997) Fruiting phenology of animal-dispersed plants in response to winter migration of frugivores in a warm temperate forest on Yakushima Island, Japan.「果実食鳥類の渡りに応じた屋久島の暖温帯林の動物散布植物の果実の熟期」 Ecol.Res. 12: 119-129.

論文の内容:屋久島には11月頃に、ヒヨドリやシロハラ、メジロなど果実食の種の越冬個体が加入することによって、種子散布者の個体数が増加する。秋から冬にかけて果実をつける動物散布の樹の多くは、11月頃に果実が熟する。夏期に蓄積した栄養を使って果実をつくるとすると、もっと早く果実を熟することができる。事実、動物散布ではない樹種の果実の多くは、9-10月に成熟する。それにも関わらず、多くの果実が11月頃に熟するのは、種子散布者の個体数が増加する時期に合わせているものと考えられる。

勝手なコメント:論文でもふれられているように、果実食の鳥の個体数の増加のパターンが異なる地域でも、種子散布者の個体数が増加する時期に、多くの動物散布の樹の果実の熟期が一致していたら、より説得力を持つと思います。この論文で一番気になったのは、果実の熟期にしても、鳥の個体数変動についても、一年分のデータしか示されていないことです。著者は、何年分ものデータを持っているはずです(個人的に知り合いなもので)。どうして使わなかったのでしょう? ということが気になるのは、少なくとも鳥の個体数変動(とくに特定の調査地に鳥がやってくる時期)は年によってけっこう違いがあるからです(少なくとも1ヶ月程度は変動すると思う)。そうした年による違いにも、樹の果実の熟期は対応して変化しているのかな。などと書いてみて気づいたけど、長居植物園でのデータでも、この問題に答えることができそうに思えてきました。一度分析してみようかな。


1997/11/26
●【実験の結果、都市よりも郊外の方が、カバーがあるよりもない方が、捕食率が高かった】Russo, C. & Young, T.P. (1997) Egg and seed removal at urban and suburban forest edges.「都市と郊外の林の辺縁部における卵と種子の捕食」 Urban Ecosystem 1: 171-178.

論文の内容:都市と郊外の林の辺縁部において、地上にニワトリの卵またはクルミの種子を設置するというという実験を行なった。その結果、卵やクルミがなくなった割合は、都市よりも郊外の方が高く、カバーがあるよりもない方が高かった。捕食者に食べられることによって卵やクルミがなくなったとすると、この結果は都市よりも郊外において捕食圧が高いことを示している。

勝手なコメント:卵をおいた人工的に巣を設置して、巣の卵に対する捕食圧を測定するという実験はものすごくたくさん行なわれています。この研究はその一つ。珍しいのはニワトリの卵という馬鹿でかい卵を使ったこと。普通はウズラの卵を使います。
 林の中心よりは端の方が、農村や山林よりも都市の方が、卵への捕食圧が高いというのが一般的傾向です。その原因として、たいてい卵の捕食者であるカラスやネコの密度が考えられます。林の辺縁部において、林の中と違ったことが生じる現象をedge effectと言って、生物を保全するためにどのような林を残すべきかという議論で盛んにでてきます。