10. 18 DEC 2002 13:00~13:30
これまで、カオヤイ国立公園に生息する哺乳類の記載は、B. Lekagul & J. A. MacNeely(1977)、G.
B. Corbet & J. E. Hill(1992)、S. Srikosamatara & T. Hansel(2000)によって行われてきた。しかし、それらの記載の多くは、形態や分布に関するものがほとんどで、それらの活動時間に関する具体的な記載はほとんどない。そこで、本研究では、果実を消費する地上性哺乳類および鳥類の1日を通した活動パターンを明らかにするために、自動撮影装置を用いて24時間の連続観察を行った。
2000年6月から2002年6月にかけて、29科69種に属するのべ187個体の植物を対象に撮影を行った。調査では、母樹から集めた果実を同じ母樹下の林床に置いて、カメラを設置した。
全部で11,107枚の動物が写っている写真が得られ、16科32種の哺乳類、1目1種の爬虫類、7科17種の鳥類の計49種が記録された。そのうち明らかに果実を消費していると思われる写真は1,613枚(14.5%)で、哺乳類16種と鳥類8種だった。これまでにカオヤイに生息していると報告されている地上性の哺乳類は70種であるが、コウモリなどの翼手目やテナガザルなどの樹上性の動物、さらにトラなどの非常に稀な動物を除いて、今回の調査ではほぼ全ての地上性の哺乳類が撮影された。
動物の活動性を、昼行性、薄明薄暮性、夜行性の3パターンに分類するため、調査地付近の日の出と日の入りの時間を調べたその結果から、1年を通して、7:00〜17:00を昼、19:00〜5:00を夜、5:00〜7:00と17:00〜19:00を薄明薄暮の時間と定義した。そして、写真に記録された時間をもとに、1時間ごとのヒストグラムを作成し、その活動パターンを解析した。
まず、主な哺乳類の活動パターンが季節的に異なるかどうかを明らかにするために、雨季(4〜10月)と乾季(11月〜3月)に分類して、季節間でχ2検定を行った。その結果、いくつかの動物種で季節間に有意な違いが見られたが、顕著な季節変化はみられなかった。このことから、それぞれの動物種の活動パターンに関しては、全ての撮影結果をまとめて解析した。
それぞれの動物種がどの時間帯に主に活動しているかを明らかにするために、活動時間帯の間に有意な差があるかどうかを確認するためにχ2検定(α=0.05)を行った。その結果、哺乳類5種と鳥類6種は明らかに昼行性に分類された(χ2検定;p<0.05、)。そのうちホエジカ(Muntiacus
muntjak)とマメジカ(Tragulus javanicus)は、昼間と薄明薄暮の時間帯の間では有意差が認められず、さらに夜間にも活動していることが示された。また鳥類は全て昼行性に分類された。薄明薄暮性には哺乳類3種と鳥類1種が分類された(χ2検定;p<0.05)。特にインドシナリス(Menetes
berdmorei)とツパイ(Tupaia belangeri)はその傾向が顕著であった。Yasuda
et al.(1998)はマレーシア・パソーでの自動撮影による調査で、同じ地上性のリス(Lariscus insignis)とTupaia
glisを昼行性であるとし、その活動時間が薄明薄暮の時間に集中する傾向は示していない。また哺乳類8種が明らかに夜行性であった(χ2検定;p<0.05)。これらにはリス科以外の齧歯目と肉食目が含まれた。しかしこのうちスイロク(Cervus
unicolor)は昼間にも活動していることが示された。イノシシ(Sus scrofa)は活動時間帯の間で有意な差は認められず、いずれの時間帯にも活動していた。以上のことから、偶蹄目の動物は顕著な活動性を示さず、日中も夜間も活動していることが示唆された。