11. 18 DEC 2002 13:30~14:30

キナバルの果実と鳥のフェノロジー
木村 一也 (京都大学 生態研センターPD)

 東南アジア地域の熱帯山地林に生育する動物散布植物群の結実の季節的な特徴を明らかにするために、キナバル山の山裾から山上にかけて分布する5つの植生帯(低地丘陵林、低山地降雨林、上部山地林、亜高山林、低木林)において333種の木本植物の開花・結実フェノロジー観察と、主な種子散布者である果食性鳥類の季節動態を50週間にわたり調査を行なった。
 その結果、高標高の植生帯(低木林、亜高山林、上部山地林)では開花・結実している種の割合が高く、一年中開花結実種がみられ季節変化が乏しかった。とくに上部山地林と亜高山林の動物散布植物には連続的に結実する種が多く含まれ、年1回あるいは2回と季節的に結実する植物種も非同調的に結実することから定常的な季節パタンがみられた。観察された鳥種はほとんどが留鳥で、それらの種数と個体数は年を通して少数で安定していた。このことから上部山地林と亜高山林の結実パタンは、少数の果食性留鳥にうまく適応していると考えられた。
 一方、低山地降雨林では年二山型の開花・結実の季節性がみられ、低地丘陵林では開花・結実の季節性に加えて一斉結実現象が起こるために年変動が非常に大きかった。低山地降雨林の動物散布植物群は同調的に結実して明瞭な季節パタンを示した。結実ピークがあらわれた時期は渡り鳥があらわれた時期と一致し、渡り鳥は多くの植物種の果実を消費していた。このことから低山地降雨林では結実の季節性と渡り鳥の季節動態のあいだに強い関係があると考えられた。低地丘陵林の動物散布植物群では1996年10~11月に一斉結実による結実ピークがみられ、1997年2~4月には結実種の欠乏時期があらわれた。その時期には低地丘陵林では留鳥の数が減少し、低山地降雨林では留鳥数の増加と低地からの漂鳥が数種観察された。このことはキナバル山地域では漂鳥の季節的な垂直移動が起こっていることを示す。これらのことからボルネオ島の山地植生は、渡り鳥や漂鳥にとって一時的な果実供給地として働く「逃げ場」としての役割がある可能性が強く示唆された。