ヌートリアは、南アメリカ大陸原産の大きなネズミです。おもに水辺で生活し、よく泳ぎ、時には潜水もします。一方で、よく陸にも上がり、住宅地を歩いていることもあるそうです。
日本へは毛皮用・食肉用に持ち込まれ、第二次世界大戦中や戦後に日本各地で飼育されていましたが、毛皮需要の落ち込みとともに野外に放されました。その多くは消失しましたが一部が定着に成功しました。岐阜県や岡山県には古くから定着し、その後周辺に分布を拡大しました。
現在では、静岡県以西の本州に広く生息しています。また、瀬戸内海のいくつかの島(兵庫県の淡路島、香川県の小豆島など)にも分布しています。関西では、兵庫県(武庫川など)や京都府(由良川)などに、比較的古くから生息していました。
おもに草食ですが、淡水の大型二枚貝(イシガイ類)も捕食します。希少なイシガイ類の捕食、およびイシガイ類に産卵する希少なタナゴ類への影響が懸念されます。また、田畑の作物を食べて農業被害も引き起こします。
そのため、特定外来生物に指定され、駆除が行われています。その一方で、各地で餌付けされており、人との関わりの多い動物です。
本来は夜行性ですが、給餌を受けるからか、昼間に活動する個体も普通に観察されます。また、人を恐れない個体が多く、とても近づくことができます。
すでに本州西部に広く分布しているヌートリアですが、
■大阪府南部、奈良盆地では現在分布拡大中であり、和歌山県では確認記録はあるが、定着は未確認。三重県では主に北部に分布。というように紀伊半島での分布は現在拡大中です。
■滋賀県と福井県では、分布が北上しつつあると言われており、石川県や富山県でも記録されるなど、北陸方面でも分布拡大中。
■静岡県西部への定着は比較的近年で、分布は東に拡大中とされる。
このように、まだまだヌートリアの分布は変化し続けています。今後、九州や四国に分布を拡大する可能性もあります。
こうしたヌートリアの日本全体での分布とその変化の様子を把握するために、ヌートリア情報を集めています。ヌートリアを見つけたら、下記の要領で大阪市立自然史博物館の和田(wadat@omnh.jp)まで是非お知らせください。よろしくお願いします。
とくに大阪府や奈良盆地など関西での分布拡大に注目しています。
◆探し方
とにかく水辺で気を付けましょう。泳いでいるのに気付くことが多いようです。でも近頃は、陸に上がっているのがよく観察されるようになってきました。
大阪では主に河川に生息していて、ため池での確認例は少なめです。兵庫県ではため池にもよくいるそうです。
どっちかといえば、夜行性の動物ですが、真っ昼間でもけっこう活動します。
◆見分け方
こんなに大きなネズミは他にいません。ましてや泳いでいたりしません。ありうるとしたら、ドブネズミ? とにかく、上の画像をよーく見て、ヌートリアを覚えましょう。
足跡や糞、食痕などでも生息確認は可能のようですが、ここでは姿を確認した確実な情報を求めます。
●日本全体(都道府県別)
この分布図を作成する上で、参照した文献はこちら。高知県、徳島県、富山県は、各県で参照した文献。
●大阪府
大阪府では、2000年に枚方市と大阪市旭区の淀川2ヶ所で初めて確認されました。当初は、淀川本流のみだったのが、2000年代に、猪名川水系を含む、淀川水系の支流に広がり、能勢町や豊能町の山間部でも観察されるようになりました。2010年代前半には、大阪市内や中河内の河川でも広く見られるようになり、大和川より北でヌートリアが記録されていないエリアは、茨木市・高槻市の北部のみとなりました。
それ以前も噂はあったのですが、大和川水系での確実な記録は、2014年が最初です。その後、大和川の支流にも拡がり、石川や西除川、さらにその支流にと分布を拡げています。
2021年には堺市の石津川水系、2022年には岸和田市の春木川でも記録されました。泉南地域での記録は、2000年代後半から時々ありましたが、いずれも単発の記録で、証拠写真がなく、誤認の可能性がありました。2022年の岸和田での記録は、継続的に観察されており、確実な画像があります。いよいよ大阪府南部にも進出しはじめたと言っていいかもしれません。
2000〜2019年の大阪府でのヌートリアの確認情報のある場所を5年ごとに区切って示します。大阪市立自然史博物館が収集した情報に基づきますが、2000年〜2008年のデータには、大阪府から提供を受けた大阪府外来生物目録のデータを含むと同時に、こちらの文献の情報を含みます。
※手元にある2023年4月以降の南河内(大和川水系)の記録としては、次のものがあります。
・大阪市住之江区 大和川(大和川大橋):2023.4.24、2023.5.14、2023.6.4、2023.6.6
・大阪市住之江区 大和川(阪神高速堺線〜南海本線):2023.5.20
・大阪市住吉区浅香 大和川:2023.5.23、2023.6.2
・堺市北区常盤町1丁 大和川:2023.6.11
・大阪市住吉区苅田 大和川:2023.6.10
・柏原市安堂町 大和川右岸側の溝:2023.6.20
・柏原市高井田 大和川:2023.6.10
・松原市天美南 西除川:2023.6.13
・羽曳野市西浦 石川支流:2023.6.1
・河南町加納 梅川:2023.5.6
・河内長野市大師町 加賀田川:2023.6.16
2000年〜2004年 2005年〜2009年
2010年〜2014年 2015年〜2019年
2020年〜2022年
●奈良県
奈良県では、2010年代前半には、木津川水系(奈良市北部、宇陀市など)で記録があり、定着していたと考えられます。
奈良盆地での最初の記録は、2019年の王寺町です。位置とタイミングから、大阪府側から大和川沿いに遡ってきたと考えています。2020年には奈良市平城宮跡、2021年には佐保川、2022年には奈良盆地南東部の桜井市、2023年には御所市や天理市で確認されています。すでに奈良盆地全体に拡がっている可能性が高く、その分布の実態を把握すべく情報収集中。
※手元にある奈良盆地での記録としては、次のものがあります。
・王子町久度 大和川・葛下川合流点付近:2019.1.13、2019.5.17、2019.6.20、2019.6.30
・王寺町畠田 葛下川:2020.6.21
・斑鳩町 大和川・竜田川合流点付近:2023.2.17
・斑鳩町 竜田川:2021.1.8
・生駒市小平尾町 竜田川ほか:2022.4.2、2023.1.29、2023.7.13(水路)
・生駒市俵口町:2023.9.17(水田)
・生駒市壱分町 竜田川:2024.4.10
・奈良市 平城宮跡:2020.4.15、2021.4.24
・奈良市八条:2024.6.2
・大和郡山市杉町 佐保川:2021.1.4、2021.6.5
・大和郡山市下三橋町 佐保川:2021.2.14
・大和郡山市長安寺町 佐保川:2024.2.2
・天理市田町 布留川:2023.10.13
・広陵町的場 広瀬川:2023.5.3
・広陵町寺戸 高田川:2024.8.23
・桜井市金屋 大和川:2022.7.23
・桜井市三輪 大和川:2024.6.8
・橿原市葛本:2024.7.14
・橿原市新賀町 米川:2024.7.14
・大和高田市礒野:2024.6.1、2024.8.16
・香芝市瓦口 葛下川:2024.3.16
・御所市蛇穴 葛城川:2023.5.4
2019年〜2022年 2023年〜2024年
●その他の県
(中国地方)
【山口県】2009年に山口市阿東で死亡個体が初めて確認され、阿武川流域で分布拡大。した。2013年に山口市椹野川河口で確認された後、急激に増加し、2017年には、ほぼ県内全域に分布拡大。
【広島県】広く分布。一部の島にも分布。
【岡山県】第二次世界大戦後、岡山県各地で飼育されたヌートリアが放逐され、1970年代に全域に分布するようになった。
【島根県】1990年頃に侵入し、2010年代には全域に分布。
【鳥取県】ほぼ県内全域の水辺に生息。
(四国地方)
【愛媛県】松山市島嶼部で、漂着個体(死亡個体)の確認例がある。→愛媛県に生息していたかは不明。
【香川県】沼島や小豆島など瀬戸内海のいくつかの島にのみ分布。
【徳島県】
環境省は確認していないが、徳島県は分布を確認としている(伝聞記録のみ)。
【高知県】1953年に香宗村(現香南市)で農作物被害が出て駆除。狩猟統計に1975年度と1995年度に捕獲記録。一時的に定着していたようだが、1995年度以降記録は途絶える。
(近畿地方) →大阪府と奈良県は上に特出し
【兵庫県】2004年時点で淡路島を含む全域に分布。
【和歌山県】2009年8月和歌山市福島で確認例がある。
【京都府】由良川水系には古くから分布していたとされる。近年は、府南部の淀川水系にも分布。2018年3月時点で、ヌートリアの記録があるのは、伊根町、京丹後市、宮津市、与謝野町、舞鶴市、福知山市、綾部市、京丹波町、南丹市、京都市、亀岡市、八幡市、南山城村
【滋賀県】2020年度に分布調査では、県の南半分に記録が多いが、高島市や米原市でも記録されており、琵琶湖北端でも1ヶ所記録されている。
(北陸地方)
【福井県】1976年に高浜町中津海で捕獲記録。若狭町、小浜市、おおい町、高浜町で記録があるほか、福井市で死体が確認されている。2024年には、小浜市から情報を頂いた。
【石川県】1968年に河北潟で捕獲記録あり。
【富山県】1953年に西栃波郡赤丸村(現高岡市福岡地域)で記録あり。
(東海地方)
【三重県】おもに県北部に分布し、木津川水系と愛知県との県境に近いエリアに多い。
【愛知県】県西部を中心に広く分布。
【岐阜県】県南部に広く分布。とくに南西部に多い。
【静岡県】2010年時点では情報なし。2015年時点には、近年、浜名湖周辺で確認されるようになったという記述。2024年には、浜松市や磐田市から情報を頂いている。
(関東地方)
【神奈川県】相模川河口から寒川町にかけて生息していたが、現在は確認されていない。
【埼玉県】2003年9月に朝霞市溝沼の黒目川で確認例あり。2010年以降も記録があるらしい。
【群馬県】1945年に富岡市黒川で確認例あり。
(東北地方)
【福島県】県南部で2010年以降の記録があるらしい。
その他、鈴木欽司(2005)には、福岡県、千葉県、茨城県で記録があると記載されています。