フィールドノート4
モクビャッコウいろいろ:自生・栽培・逸出
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モクビャッコウ Crossostephium chinense (L.) Makinoは、1属1種のキク科の常緑小低木で、茎や葉に白い毛が密生するのが特徴です。図鑑「日本の野生植物」の記述によると、トカラ列島以南の琉球や小笠原諸島の硫黄島、台湾や中国大陸南部などに分布し、海岸の隆起サンゴ由来の岩場に生えるようです(津山 1989)。
- Zhu S (2011) 153. CROSSOSTEPHIUM Lessing, Linnaea. Flora of China 20-21, pp747.(論文へのリンク).
- 小林 禧樹・黒崎 史平・三宅 慎也(2012)改訂増補 淡路島の植物誌.自然環境研究所,兵庫.
- 津山 尚(1989)キク科.(佐竹 義輔ほか 編)日本の野生植物 木本U.pp250-252. 平凡社,東京.
- 横井 政人(1989)モクビャッコウ属.(塚本 洋太郎 総監修)園芸植物大事典5.p19. 小学館,東京
- 横川 昌史(2015)淡路島で見つかった逸出由来のモクビャッコウ.Nature Study 61(x): xx-xx.
- Watson LE, Bates PL, Evans TM, Unwin MM, Estes JR (2002) Molecular phylogeny of Subtribe Artemisiinae (Asteraceae), including Artemisia and its allied and segregate genera. BMC Evolutionary Biology 2:17. (論文へのリンク).
僕がはじめてモクビャッコウを見たのは波照間島です。隆起サンゴの岩場に生える白い姿がとても印象的でした。
写真1, 2.波照間島の隆起サンゴ上のモクビャッコウ。左の写真の中央右、白っぽいのがモクビャッコウ。
次にモクビャッコウを見たのは、博物館の同僚が持ち込んだ標本です。「淡路島で見慣れない植物を見つけたけど何?」とのことでしたが、波照間島でモクビャッコウを見ていたのですぐにわかりました。でも、淡路島をはじめ(小林ほか 2012)、周辺には自生は知られていません。おそらく逸出だと思われます。
その次にモクビャッコウを見たのは、自宅近くのよその家の玄関先です。散髪に行こうと道を歩いていると、きれいな寄せ植えに使われているモクビャッコウが目に飛び込んできました。園芸の世界では、銀白色の葉を楽しむ植物を「シルバーリーフ」と呼ぶようですが、モクビャッコウもシルバーリーフとして重宝されているようです。インターネットで「モクビャッコウ」を検索すると、野生植物に関するページではなく、園芸やガーデンニングに関するページがたくさんヒットします。
写真3.寄せ植えに使われているモクビャッコウ。写真中央左、白っぽいのがモクビャッコウ。
さらにその次にモクビャッコウを見たのは、淡路島です。淡路島のモクビャッコウが気になって仕方がないので、愛媛への帰省ついでに淡路島に寄り道して見てきました。人為的に改変された海岸のアスファルトとコンクリートの隙間に生えていました。なるほど、自生地の様子を見る限りは逸出のようです。この日は2014年12月31日、2014年最後の植物観察はモクビャッコウとなりました。同僚が採ってきた標本と、このとき採った標本を証拠として、「淡路島で見つかった逸出由来のモクビャッコウ」として報告しました(横川 2015)。
写真4.淡路島で見つかった逸出由来と思われるモクビャッコウ。
写真5.淡路島のモクビャッコウの生育環境.白い矢印で示した植物がモクビャッコウ。
モクビャッコウは、寒さに弱い植物ですが、関東の無加温温室では十分越冬するようです(横井 1989)。今回の淡路島の株は12月の終わりでもまだ青々としていて、根際も太かったことから淡路島で越冬しているようです。生育に適した環境が周辺にあれば、今後、広がっていく可能性もあるので、ほかの場所にも生育していないか、注意して見ておく必要がありそうです。
さてさて、次にモクビャッコウに出会うのはどこになるのか。逸出由来のモクビャッコウよりも、やはり自生地の隆起サンゴの岩場で見たいものです。
ちなみにFlora of Chinaの記述を見てみると、分布は中国・台湾・日本となっており、備考で、「モクビャッコウは希少で野外ではおそらく絶滅の危機にあるが、しばしば観賞用や薬用として栽培される。(注:原文は英語)」と書いてあります(Zhu 2011)。2014年版の環境省レッドリストでは絶滅危惧II類とされています。
また、分子系統を調べた仕事ではモクビャッコウ属 Crossostephium はヨモギ属 Artemisia に含まれるようです(Watson et al. 2002)が、今まで Artemisia と考えられていた植物がかなり多系統のようで、Artemisia group の分類をどのようにとらえるかは少し難しそうです。
【引用文献】
2015年1月13日 横川昌史
Last update was 13. January. 2015
Copyright(c)2012 Masashi Yokogawa All Rights Reserved.
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