質問コーナー 過去のやりとり(1999年1月-6月)
質問
●1999/6/30 熊本県のk・kさんの本の間の虫についての質問
●1999/6/29 大阪市の牧鉄兵さんの魚の骨についての質問
●1999/6/22 愛知県豊田市の春助さんのカタツムリについての質問
●1999/6/18 千葉県市原市の横田さんのホッキ貝の採取方法についての質問
●1999/6/14 札幌市の大西慶子さんの貝の生まれ方についての質問
●1999/6/14 北海道の畠山信芸さんの赤トンボについての質問
●1999/6/10 広島のベーベさんの謎のカメムシについての質問
●1999/6/5 池田市の井上祐加さんのおふろ虫についての質問
●1999/6/3 神戸市のY.H.さんのハネのもげたチョウについての質問
●1999/6/2 高槻市の匿名希望さんの化石採集についての質問
●1999/5/26 富田林市のMORIさんのアリ(?)についての質問
●1999/5/24 みるかし姫さんのカメムシについての質問
●1999/5/20 埼玉県の大野秀樹さんの昆虫が集まる色についての質問
●1999/5/18 神戸市の喜多見達人さんの化石(?)についての質問
●1999/5/17 東京都の沼田夏子さんの「プチ虫」についての質問
●1999/5/11 岐阜市のK.T.さんのサクラの花の散り方についての質問
●1999/5/9 川崎市麻生区の理佳さんのゲジ?についての質問
●1999/5/5 横浜市の仲尾次さんのゲジゲジ虫についての質問
●1999/4/29 金沢市の匿名希望さんの7枚の花びらについての質問
●1999/4/16 池田市の井上祐加さんの哺乳類の糞の形についての質問
●1999/4/8 松原市の匿名希望さんのコウガイビルについての質問
●1999/4/7 栃木県の加藤とおるさんのタコの呼吸についての質問
●1999/3/27 神戸市のK.A.さんのスギドクガについての質問
●1999/3/17 堺市の河井洋さんの山の果実の豊凶についての質問
●1999/3/13 千葉県の小守美和さんの青虫の色についての質問
●1999/3/4 佐賀大学の角修太郎さんのカマドウマについての質問
●1999/3/1 千葉県の久藤さんの恐竜の食性についての質問
●1999/2/11 兵庫県のジンさんの桜についての質問
●1999/2/6 香川県の匿名希望さんの学芸員試験についての質問
●1999/1/21 京都市の鈴木克也さんの植物の分類についての質問
●1999/1/7 高知大学の匿名希望さんの学芸員になる方法についての質問
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質問への回答
●1999/6/30 熊本県のk・kさんからの質問
よく本の間や紙などにいる、1mm弱の白や肌色をした虫のことについて教えてください。最近、その虫が床や、押入の隙間、畳などで数多く見られるようになりました。最初は、ダニかと思いましたが、形も違うようでナンキンムシかもと思いましたが、これも今ひとつ違うような気がします。駆除をしたいのですが、一体何の虫かも分からない状態なので、困っています。一体何の虫なのか、駆除はどうすればいいのか、教えてください。
【松本学芸員の答え】
お話から判断いたしますとおそらくこの虫はコナチャタテなどのチャタテムシのなかまだろうと思います。これらの虫は主に家屋内でみられ、カビを好んで食べるので、貯蔵食品、書籍、家具、動植物の標本などあらゆるところに生息し、これらを加害します。
わが国では、ソウメンチャタテ、コナチャタテ、ヒラタチャタテなどの数種が屋内にふつうに見られるようです。
このグループの虫は湿度が高く、かびが生えやすいような環境を好みますので、清掃に気をつけたり、風通しをよくしてやるのが大切と思います。そういった意味で、本の陰干しは昔から行われている有効な方法でしょう。また密閉された空間では防虫剤なども効果的なようです。
●1999/6/29 大阪市の牧鉄兵さんからの質問
今日の夕食スーパーから買ってきたタチウオを食べていたところ、5cmくらいの骨のかたまりが出てきました。最初は、タチウオは獰猛な魚だから何かの魚を丸のみしたものだ、と考えました。しかし、それは背ビレの方についており、しかもその一本の骨とつながっていたのです。一体、この骨はなんなんでしょう。
【波戸岡学芸員の答え】
時々受ける質問です。しかし、申し訳ないのですが、おそらく成長の過程の何らかの生理作用でできた骨のこぶであろうとしか、回答はできません。この方面の研究はなされていないのが現状です。ただ、現象としては、養殖されたマダイや南半球に分布する野生のマダイの仲間では時折みられます。マダイ類の場合は腹側の血管棘ですが(背骨から背中側に出ている骨を神経棘、腹側に出ている骨を血管棘といいます。質問の骨のこぶは神経棘にできたものとなります。)、もちろん、原因などは分かっていません。
養殖されたマダイにしばしばでるようなので、ひょっとしたら知っているかもと思って、種苗生産の研究をしているその方面の専門家に尋ねてみても、わかりませんでした。
●1999/6/22 愛知県豊田市の春助さんからの質問
先日、殻が割れてしまっているカタツムリを見ました。そうしたらそのカタツムリはそこからはいだそうとしています。そこでふと思いました。カタツムリは殻から出ても生きられるんだろうか?どうなんでしょうか。
【山西学芸員の答え】
カタツムリの殻は、カタツムリ自身が石灰質を分泌して造ったもので、自分のからだ(軟体部)と筋肉でしっかりくっついています。これがはずれると、軟体部に致命的な損傷を負ってしまいます。したがって、自分からはいだすことはあり得ません。殻が割れて苦しんでいるようすが、はいだそうとしているように見えたのではないでしょうか?
●1999/6/18 千葉県市原市の横田さんからの質問
北寄貝(ホッキガイ)の採取方法について教えて下さい。万鍬(まんぐわ)を使うらしいのですが、写真がありますか?現物の確認をしたく宜しくお願いします。
それから採取方法ですが、万鍬をどの様に使うかはわかりませんか?
【石井久夫学芸員の答え】
北寄貝は北海道や東北地方の海にすむ二枚貝で、図鑑等ではウバガイという和名でのっています。身が大きく大変おいしい貝なので,漁業の対象としても古くから研究がすすめられているようで、文献も多くあります。マングァの写真はありませんが、図がのっているコンパクトな冊子を紹介します。
・佐々木浩一著ウバガイ(ホッキガイ)の生態と資源.水産研究叢書42.85pp.
1993年,社団法人日本水産資源保護協会発行.
ホッキガイ用マングァの現物は、北海道や東北地方の漁港に行かないと、見るのは無理だと思います。ホッキガイにこだわらなければ、千葉県の底引きをやっている漁港で、ある種のマンガ(貝桁網)は実物をみることができると思います。
マングァの使い方は、紹介した本に図入りでのっています。基本的には底引き網(貝桁網)の一種で、ホッキガイにかぎらずマンガ(馬鍬からきていると説明されています)は船でひきます。本に図入りで紹介されている方法は、桁網を船首側と船尾側に100m以上離して入れ,船首側をアンカーにして、船尾側の桁網をウインチで巻き上げる、というものです。アンカーにした網もある程度は引きずられるので、最終的には両者の間の貝が採捕できるということだそうです。
●1999/6/14 札幌市の大西慶子さんからの質問
先日妹に「貝はどうやって生まれるの?」と聞かれて、困りました。誰に聞いてもわからない、もしくはあいまいな答えです。固い貝殻のままで小さく生まれるんだ、とか(それにしてもどこから?)、貝殻は生まれたときはとても柔らかいんだ、とか。真実を教えてください!!!!お願いします。
【山西学芸員の答え】
ほとんどの貝は、卵として産まれます。
海にすむ貝は、たいてい卵嚢(らんのう)という袋の中に卵を産みます(アワビやサザエのようにそのまま海の中に放出するものもいますが)。産卵してから受精をする種類と、先に交尾をして受精をすませてから産卵する種類とがあります。受精に成功した卵は、まず繊毛の輪をもったトロコフォアという幼生になり、次に貝殻をもったベリジャーという幼生に成長します。多くの海の貝では、ベリジャーの状態で卵嚢から出てきて、しばらくプランクトンの生活をしてから変態をして大人と同じ形の稚貝になります。
しかし淡水にすむ貝は、プランクトンでふらふらしていると流されてしまう危険が大きいので、イシガイ類のような二枚貝の幼生は、魚に寄生して過ごします(グロキジウム幼生)。タニシやカワニナなどの巻き貝は、親の殻の中で変態をして、親と同じ形になってから外界に出てきます。
陸にすむ貝ももちろんプランクトンでは生きていけません。カタツムリ類は、しっかりした殻をもった卵の状態で土の表面近くの湿ったところに産みつけられます。受精は交尾によって済ませています。そして親と同じ形をした稚貝として孵化します。
●1999/6/14 北海道の畠山信芸さんからの質問
赤とんぼが群で飛んでいて、止まるときに同じ方向を向いて止まるのはどうしてでしょうか?
【金沢学芸員の答え】
アカトンボ属の多くの種類は「静止型」のトンボで、昼間は枝先や葉先などを軽くつまんでフワッと止まります。夜眠るときはぶら下がります(井上・谷,1999,「トンボのすべて」,トンボ出版)。止まるときに厳密に同じ方向を向くのか、私には記憶がありませんが、トンボが何を待っているかを考えてみたいと思います。
赤い胴体をもつものはオスで、日中の大半にじっと止まっていて、エサが来たときや、メスが来たとき、そしてライバルのオスが来たときに飛び立ちます。つまり、エサの小さな昆虫、交尾できるメス、ライバルの追い払うべきオスを待っているのです。それらは同じ場所では同じ方向からやってくることが多いために、同じ方向を向いて止まることになるのかもしれません。
●1999/6/10 広島のベーベさんからの質問
いままで、見たことのない虫です。何という虫でしょうか。
昔から日本にいたんでしょうか?外来種では、・・・?
【金沢学芸員の答え】
ヨコヅナサシガメというカメムシの一種の成虫です。幼虫は群生して木の幹の窪みで越冬し、初夏に成虫になって分散します。蛾の幼虫などの体液を吸っています。つかむと口吻で刺されることがあります。西日本に広く分布していますが、分布を拡大中です。
日本の他に中国、台湾、インドシナ半島、インドに分布しており、外来種(日本の昆虫の大部分が含まれる)と思われますが、渡来の時期が問題です。侵入時期が記録から推定できる帰化生物に対して、記録から推定できない「史前帰化生物」という考え方があります。ヨコヅナサシガメは、深山や町中(分散した成虫がときに見つかる)にはいなくて、都市郊外〜里山の範囲の大木の幹で越冬します。その分布状態から、古代?の史前帰化昆虫(日浦,1978)と明治時代?の帰化昆虫(長谷川,1987)という二つの説があります。どちらにしろ、記録から判断できないということで、史前帰化昆虫ということになるわけです。
●1999/6/5 池田市の井上祐加さんからの質問
我が家はおととし新築のマンションに引っ越しました。おふろもぴかぴかで、親子ともども喜んで入浴しております。その、あたらしいおふろに、前に住んでいた古い家のおふろにいた虫とおんなじのがいるのです。それは、ハエのような、蛾のような5mmもないくらいの、全体が三角形の形をした虫です。羽は、ハエみたいで、何匹もいるのです。水がすきなのかと思ったら、泳げず、すぐにおぼれてしまいます。大体、寒い季節によく見かけます。その虫の名前はなんでしょうか?(我が家では、おふろ虫と呼んで、子どもが、かわいがっています。)大体、天井に、何匹もとまっていて、たまに、はりついて死んでいることもあります。なぜ、おふろにいるのでしょうか?古い家はともかく、なぜ新しいところにも発生してるのでしょうか。どこかから、おふろめがけて飛んでくるのでしょうか?卵はどこにうむのでしょうか?夏はほとんど見かけませんが、どうしているのでしょうか?変な質問ですが、教えて下さい。よろしくお願いします。
【松本学芸員の答え】
ご質問の虫はチョウバエというハエの仲間だと思います。このハエは体が鱗毛とよばれる毛に覆われていて羽をやや半開きにしてとまるので、一見したところガのような印象を受けます。英語でMoth
fly(ガのようなハエの意)とよぶのもそのためです。
さて、このチョウバエの幼虫ですが、生息環境は水中で、しかも有機物の多い汚水を好みます。そのため屋内の浄化槽、配水管などは好適な発生地で、メスはそういったところに卵を生み、羽化した成虫は配水管などを伝って人の目につくところに出てきます。
冬になっても暖かいビルの地下や、風呂場などでは発生しますし、そういう条件のところに集まってくるのでよく目立つのでしょう。
また卵から成虫になるまで2週間から3週間と短いので、条件さえよければすぐに繁殖してたくさんの個体が見られるようになります。新しいお風呂であっても周囲からたえず侵入し、繁殖する個体がいると思いますので、チョウバエがたくさんいても不思議ではありません。
このハエが問題になるのは、食品工場などで発生して製品に混入する場合で、あとは家屋内で発生した場合に不快害虫になるくらいです。お子さんもかわいがっておられるようですのでまったく問題ないと思います(おふろ虫というのは初めてききました)。
夏に見られない理由はちょっと分かりません。私自身の経験では、夏も同じように見られるような気がします。
●1999/6/3 神戸市のY.H.さんからの質問
以前からの疑問なんですが、羽がもがれてしまった蝶にはもう羽が生えないのでしょうか。そして身体はアリのようですが、陸だけで生活することは出来ないのですか? よかったら教えてください。
【金沢学芸員の答え】
一度ハネがなくなると、もうハネは生えません。昆虫は、外皮がかたいせいか、脱皮をして成長します。成虫になると、脱皮をしませんので、一度壊れた器官を作り直すことができないのです。
ハネがなくなったチョウは、ハネがない点で働きアリに似ていますが、基本的には違う昆虫で、ほとんどのチョウは花の蜜や樹液を吸って生活します。そういった食べ物は地面にはないので、生活できないでしょう。ハネをもがれてすぐ死ぬわけではないですが、数時間〜2日くらいたつと死んでしまうと思います。
●1999/6/2 高槻市の匿名希望さんからの質問
化石堀りに行きたいのですが、近畿圏で発掘をさせてくれるような町を教えて下さい。町おこしなどでやっていないでしょうか? よろしくお願いします。
【川端学芸員の答え】
大阪府下ですと、新しい時代(およそ2百万年より新しい)では大阪層群もしくは沖積層の貝化石か、古い時代の地層(およそ7000万年前)の和泉層群ということになります。しかし大阪層群もしくは沖積層は、工事中の現場以外には絶望的な状態です。
和泉層群の方ですと、「関西自然史ハイキング」で貝塚市蕎原のコースを紹介しています。ほかには、「泉佐野市滝の池」や滝の池のとなりにある「新池」、「泉南市畦ノ谷」などで化石採集ができます。
ご自分で化石採集に出かけられる場合は,以下の本を参考にしてください。
・「関西自然史ハイキング」(地学団体研究会大阪支部編、創元社)
→大阪市立自然史博物館普及センターでも販売中
・「楽しい化石採集 近畿の化石産地案内」(若一光司著、松籟社)
→たぶん絶版なので書店にはないでしょう、図書館で探してください。
・「兵庫自然史ハイキング」(地学団体研究会大阪支部・兵庫教師グループ編、創元社)
・「ドライブ関西 地学の旅」(大阪地域地学研究会、東方出版)
・「京都地学ガイド 現地に見る京都5億年の旅」(地学団体研究会京都支部編、法律文化社)
→絶版だとおもいます。図書館で探してください。
大阪周辺の大地のおいたちを解説した本としては
・「大地のおいたち 神戸・大阪・奈良・和歌山の自然と人類」(地学団体研究会大阪支部編著、築地書館)
・「新京都5億年の旅」(地学団体研究会京都支部編、法律文化社)
・「紀の国石ころ散歩」(代表編著原田哲朗、宇治書店)
などがあります。
また、化石採集で日本全国を歩き回っている人のエッセイとして
・「日本全国化石採集の旅」(大八木和久、築地書館)
・「続 日本全国化石採集の旅」(大八木和久、築地書館)
があります。
これらの本は、大阪市立自然史博物館普及センターでも閲覧することができます。
【塚腰学芸員の補足】
近畿圏では聞いたことがありませんが、岐阜県瑞浪市では許可を受ければ、化石の採集ができます。瑞浪市化石博物館の受付で化石採集を希望すると採集が許可され、許可した印であるリボンが渡されます。化石採集が可能な場所は、瑞浪市化石博物館から車で数分のところにあります。新生代第三紀中新世(約1600万年前)の貝化石やまれに植物化石を採集することができます。かなり広い平らな場所で、川へ落ちないように注意すれば子供でも採集が可能です。地層はそれほど固くなく、ドライバー、ハンマー、小さなツルハシなどがあれば採集できます。
以上は数年前の状況です。行かれる場合は現在の状況を瑞浪市化石博物館(電話:0572-68-7710)で確認してください。
●1999/5/26 富田林市のMORIさんからの質問
虫刺されに悩んでおり、わらをもすがる気持ちで質問いたします。1週間位前からアリに夜中噛まれ、チクッとして目が覚めます。体中を噛まれていて、かくと腫れ上がり時には内出血ような感じにもなります。
ダニかなぁーとも思いましたが、どうもこのアリのようなのです。このアリは、赤くて2mmくらいです。家の中で、しかもこんな赤いのは始めて見ました。
すみかが家の中にあるから、毎夜出てくるのでしょうか?是非ともこのアリの種類の特定と駆除方法が知りたいのです。気になって、夜もおちおち寝られませんので。
【松本学芸員の答え】
家屋内で見られる”アリ型”の昆虫としてはアリガタバチというハチとアリそのものがいます。お話から判断するとシバンムシアリガタバチの可能性が高いと思います。このハチは赤褐色で体長2,,、雌はふつう翅がなく、アリに似ていて、よく人を刺します。
このハチはシバンムシという甲虫(こうちゅう)の幼虫に寄生しますので、シバンムシも屋内で発生していることが予想されます。この虫は乾燥食品類をはじめ乾燥した植物、動物など何でも食害するのですが、最近の住宅では湿った畳やじゅうたんの裏などで発生することも多いようです。
アリガタバチの駆除はまずシバンムシの発生源をつきとめて処置することが必要ですので、上記のようなことに注意して調べてみて下さい。シバンムシが畳やじゅうたんで発生している場合には、部屋の換気をよくして湿度を下げること、絨毯や畳の下を掃除をこまめにすることが対策として考えられます。場合によっては殺虫剤の散布や薫蒸などの処置を行う必要もあります。
どうしても種類を特定したいという場合は自然史博物館に持参していただければ調べます。
●1999/5/24 みるかし姫さんからの質問
大阪と和歌山の県境近い、葛城山系犬鳴山で、枯れた樹の根の下の乾いた土壌をトタテグモを探しているときに、偶然見つけた謎の昆虫です。
ちなみに、カメムシ亜目を前提に昆虫図鑑で検索したら「マキバサシガメ科」にいきつきました。アシブトマキバサシガメは「石の下などで生活」とあるし、見かけは「ハラビロマキバサシガメ」に似ていないことはないんですが、何といっても体に土を付着させた様子が、気になって仕方ないんです。たまたまつちのなかにまみれて「汚れてる」だけなんでしょうか?
飼っていますが、餌が分からず、手当たり次第植物質、動物質、あたえていますが、まだ食べたのを確認していません。画像から推測がつきますれば、お教え願えれば幸いです。
【松本学芸員の答え】
太くなった前脚腿節、口吻の形状など、画像を見る限り捕食性のカメムシのようです。検索表によりマキバサシガメ科に同定されたとのことですので、画像しか見ていない私には何とも答えようがないのですが、参考までにサシガメ上科(サシガメ科,ヒゲブトサシガメ科)とその他マキバサシガメ科を含むグループの見分け方をおさらいしておきます。
1:複眼が前胸よりに位置する(マキバサシガメ科では前胸にかなり近いか、接している)。
2:頭部の複眼の間、または直後にくびれや溝があって後頭部が分離している(明瞭なくびれや溝はない)。
3:後脚の基節は球状で回転可能(ちょうつがい型で回転できない)。
いくつか標本を見てみたところ、3が最もわかりやすい特徴でした。1の状態もほぼそのとおりで見た限りではサシガメ科の場合複眼の長さより遠く前胸背の前縁から離れていました。以上のことと、前胸背の形状などから私はサシガメ科のカメムシではないかと考えます。
サシガメ科においては、食べかす(体液をすったあとの死骸)やを体表にくっつけるという行動はわりと見られるようで、地表生活をするものが(おそらく今回の種は地表生活者と思います)体に土をくっつけて擬装するというのはいかにも”あり”そうだと思います。
以上のように捕食性カメムシと考えられますので、小昆虫や類似のものを与えてみてはいかがでしょうか。考えられるものとしてはアリ、ミールワームの小さいもの、サバ(サシ)ムシ、ワラジムシ、ヤスデ等があります。もし飼育がうまくいきましたら、飼育経過など教えていただけると幸いです。
【みるかし姫さんからの返事】
3つの特徴から、サシガメ科一種の亜成体との確証をえました。ちなみに、霧吹きでドロを落として細部を見てみました。土をくっつけていた生態が見れなくなってしまって残念なんですが、もしかしたら再びつけるかもしれない、という期待をもっています。画像はこちら。
●1999/5/20 埼玉県の大野秀樹さんからの質問
私は明るい黄色いシートのベビーカーを持っています。先頃夕方公園に行ったところ、ベビーカーに虫がいっぱい寄ってきました。虫というのは、性向的に特別な色が好きなのですか、知人に聞いたところ、ピカチュウのような黄色いぬいぐるみと、暗い色のぬいぐるみを外に干しておいたら、ピカチュウの黄色いぬいぐるみに虫がいっぱいたかり、暗い色のぬいぐるみには全く虫が来なかったと言っていました。
蜂とか蚊のような昆虫類についてのみでも結構ですので、色の好き嫌いや本当に明るい色などに寄ってくる性質を持っているのか教えて下さい。よろしくお願いいたします。
【松本学芸員の答え】
昆虫は白,黄,赤,緑など様々な色に誘引されます。上のお話だけでは何の虫がよってきたのか分かりませんが、ハチやハエの仲間の多くのものが黄色や白といった明るい色に誘引されることはよく知られています。またアシナガコガネという甲虫も白いものにつきまといます。
これらは白や黄色といった色彩刺激によってエサやエサ場、あるいは生殖上重要な場所の認識をしており(もちろん視覚のみに頼っているわけではなく、種によっては化学物質をたどったりしているわけですが)、そのために実際にはエサやエサ場でないものところにも集まってしまうと考えられています。
こうした習性を利用して昆虫相の調査などでは、イエローパントラップや黄色粘着板トラップといったトラップを利用して昆虫のサンプリングを行います。イエローパントラップというのは平たい容器(pan)に水を張って、地表に設置し、界面活性剤として中性洗剤を1,2滴加えたもので、容器の内側は黄色や白など明るい色に塗っておきます。このトラップには様々な昆虫が誘引され、なかでもアザミウマ、ヨコバイ、タマバエ、コバチ、クロバチ、コツチバチ、シジミチョウなどがよく捕獲されます。
また特殊な例としてはツノヤセバチというハチは青に誘引されることが分かっており、このハチの採集にはパントラップの内側を青く塗っておきます。
つまり多くの昆虫は黄色や白といった明るい色に誘因され、種によっては青や赤といった決まった色に誘引されるものもいるといえます。
【岡本学芸員の付け足し】
夕方の公園でベビーカーに虫がいっぱい寄ってきたということなので、ブユか何かの集団飛翔の可能性があると思われます。これは、雄が生殖のために集まって群飛し、雌を待っているのだと考えられています。彼らは、明るい色の物体の上によく集まります。私も、薄暗くなりかけた駐車場で、白い車の上で群飛している集団に出会ったことがあります。この集団は、車をゆっくり移動させると、一緒について移動しました。彼らは、よほど、目立つ目印を欲しがっているのだな、と感じました。
●1999/5/18 神戸市の喜多見達人さんからの質問
先日兵庫県千種町にある三室山のふもとで青っぽい岩を割っていました。その岩は縦によく割れ、とてもきめが細かく粘土質の岩のようでした。割れた1つの断面に杉の葉のような茶色い模様が出ていました。これは化石かと色めきだったのですが、きれいにしようと洗ったところ砥石のような感触になりその化石様の模様はみるみるうちに消えてしまいました。それが化石だとすれば水洗いすると消える化石なんてあるのでしょうか?また化石でないとすればその模様はいったい何だったのでしょか?現地でその模様と実際の杉の葉を比べましたが、大きさも形状も酷似していました。
【塚腰学芸員の答え】
現物を見ていないので推定ですが、岩石の割れ目に雨水や地下水がしみ込み、酸化鉄が沈着した模様ではないかと思います。この「化石様の模様」が地層が堆積した面(層になっている面)と斜交していれば、沈着物に間違いないでしょう。植物の化石であれば、地層が堆積した面に平行に入ることが多いです。このような沈着物が作り出す模様には、シダやスギなど植物に見える模様があります。シダ植物に似たものは忍石と呼ばれているくらいです。
ただし、もし沈着物であれば少しぐらい洗っても取れないと思います。どのように洗ったのでしょうか? 軽く洗って、すぐ無くなったのであれば、地表近くの土壌が岩石の割れ目にしみ込んで、へばりついていた可能性もあります。
三室山付近の地質を文献で調べましたが、流紋岩という火成岩が分布しており、化石が含まれることはまずありえません(この流紋岩の中に湖で堆積した地層などが挟まれていれば、化石が含まれる場合がありますが、この地域に湖で堆積した岩石があるという情報は今のところありません。採集された岩石がこの流紋岩か湖に堆積した地層かどうかは、問い合わせの文章からでは判断できません)。地質の面からも今回質問の「化石様の模様」は。模様であって化石ではないと思われます。
以上の内容はあくまでメールを読ませていただいた限りでのコメントです。その「化石様の模様」がついていた岩石を博物館まで持参いただければ、岩石を見させていただきます。また、三田市にある兵庫県立人と自然の博物館にも化石や岩石を専門とした学芸員がいますので、そちらでも見てくれると思います。
最後に化石採集についてのアドバイスですが、今後、化石を発見したと思っても、すぐに水洗いしてはいけません。せっかく化石であっても、洗い流されてしまう場合があります。化石とはいっても、すべての化石が固い石になているわけではありません。植物の葉の場合、薄く炭化した植物体が残っているだけの場合もあります。
●1999/5/17 東京都の沼田夏子さんからの質問
昨年あたりから、今の季節になるとゴマのような小さな虫(1mmくらい)の虫が大量に現れます。お台所が多いのですが他の部屋の中にも見かけられます。さわると丸虫のようにコロコロしますが、飛んだりもします。友人に話すと「プチ虫」ではないかとのことなのですが聞いたこともないので、どんな虫なのか、害はないのか教えて下さい。
【初宿学芸員の答え】
家の中にすむ虫にはいろいろなものがいますが、もっとも多いのはタバコシバンムシという種類です。家の中にある乾燥した食べ物、とりわけシイタケ、香辛料、薬味、ソバなどが好物です。体長は2.5mmぐらいですので、おっしゃっているよりは少し大きいかもしれません。この虫には特に毒はありません。
丸虫(→ダンゴムシ)のようにコロコロするとのことで、もしかしたら違うものかもしれません。博物館までお送りくだされば調べてお返事さしあげます。
私は「プチ虫」という言葉のほうがむしろとっても気になっています。いったいどんな虫のことなのでしょうか? 私の故郷(滋賀県方面)では聞いたことがありません。
【茂似太の勝手な注釈】
初宿学芸員は「プチ虫」で二匹目の「兵隊虫」を狙っているようです。もし「プチ虫」について何か御存知の方は、monitor@omnh.jpまでお知らせ下さい。
●1999/5/11 岐阜市のK.T.さんからの質問
桜の花の散り方についておしえて下さい。最近気がついたのですが、花びらが一枚ずつばらばらになって散るのでなく、花がまるごと がくでつながったまま木の下にたくさん落ちているのをよく見かけました。鳥が桜の花を食べているときには花はまるごと下に落ちますが、鳥がいないときも花がまるごと落ちているのを見ました。特定の木だけかなと思い、散歩したときなど、気をつけてみていましたがあちこちで見かけました。
これは気候のせいでしょうか。それとも環境が変化したためでしょうか。図鑑を調べてみましたが出ていないので、メールで質問しました。
【岡本学芸員の答え】
サクラの花によく来る小鳥は、大阪市内ではヒヨドリとメジロとスズメです。ヒヨドリやメジロは普通は花の正面からくちばしを差し込み、蜜を吸います。この時には、花びらが散ることはありますが、花が丸ごと落ちることはありません。ただし、今年は、花を丸ごと食べるヒヨドリを見かけました。この時、取り落とせば、丸ごとのが落ちることもあるでしょう。
スズメは、花の横から、がくの下の筒の部分を切り取って食べます。この部分の内側に蜜があるのです。この場合には、がくの上部と花びらと雄しべが丸ごと落ちます。
今年はさらに、ドバトがサクラ(ソメイヨシノ)の花を食べようとしているのを見かけました。ドバトがどのようにして食べるのかはまだ確認していません。ひょっとしたら、花の柄を切り落として、下で必要部分を食べるのかもしれません。
小鳥などの動物のしわざでなく自然に、サクラの花が丸ごと落ちて来るケースは、私は見たことがありません。花びらが散ってしまった後であれば、ソメイヨシノは自然に柄ごと落ちてきます。
ご質問の状況が、上記のスズメの食べあとにあたるかどうか、確認されてはどうかと思います。
【茂似太の勝手な注釈】
スズメがサクラの花を食べると言うことは、比較的近年になって注目されるようになりました。スズメがこれほど目立ってサクラの花を食べるようになったのは、最近のことと言っていいでしょう。ヒヨドリがサクラの花を食べるようになったのも、比較的近年のことだという人もいます。どうやら、サクラの花を食べる鳥は近年増えているようですが、それ以前のことはあまり記録がないので、正確なところはわかりません。
●1999/5/9 川崎市麻生区の理佳さんからの質問
昨年の2月、自宅の浴室で不思議な虫をみつけました。大きさは全長15センチ以上あったと思います。茶色にオレンジがかったまだらがはいり、足が10対か、それ以上あったと思います。ゲジかな、と一瞬思ったのですが動作がゆっくりとしており、ナナフシが歩いているようでした。茶色のナナフシのような体に、10何対もの足があり、とにかく大きいのです。昆虫ではないと思ったものの、なにを調べても正体がわかりません。私の自宅は川崎市の郊外で周辺には自然が豊富であり、アシダカグモもまるでタランチュラくらいの大きさです。みつけた日はかなり寒く、浴室も12度くらいだったとおもいます。どうかこの生き物(?)の名前をご存知でしたら、お教えいただきたいのです。よろしくお願いいたします。
【金沢学芸員の答え】
最初はオオムカデかなとも思いましたが、ムカデを知らない人はすくないですよね。
ゲジかもしれませんが、全長15センチ以上ということであれば、オオゲジの可能性があります。体長は成体で3〜4.5センチですが,触角が長くて、大きなものでは8センチ近くもあり、さらに最後の脚も体長ほどの長さがありますので、全長が15センチをこえるものもいるでしょう。オオゲジとすれば、脚はゲジとほぼ同じで15対くらいです。
ゲジもオオゲジも脚が非常に長いので、ヤスデやムカデなどと間違うことはないでしょう。動きがにぶかったのは、気温が低いせいと思われます。どんなものでも、捕まえないと正確な名前はわかりません。
●1999/5/5 横浜市の仲尾次さんからの質問
マンションの7階に住んでいます。毎年この4〜10月になるとゲジゲジ虫の大量発生に悩み、いくつかの殺虫剤を試していますが、元から絶つ方法はありませんでしょうか? 子供もまだ小さいので、薬剤をあまり使わず、退治出来ればと思っています。もし根絶する方法が無ければ、何か体に害なく使用できる防虫剤を教えて下さい。
家の周りには、雑木林があり、そこから発生してくるのでしょうか? いつも、壁、階段、配管をつたって、登って来て、サッシの隙間から侵入してきます。
【金沢学芸員の答え】
「ゲジゲジ」という言葉は通称で、動物の種類を表す(図鑑などで使われる)標準和名ではありません。一般には「ゲジ」という種類や、ヤスデ類、小さなムカデ類などの脚の多い陸上節足動物を指すときに使われるようです。4〜10月に7階まで上ってくるという点から,ゲジやヤスデ類の可能性は少なく、ムカデ類と判断して話を進めます。駆除対策を考える場合には、その動物が何であるかがとても重要ですから、捕獲して保健所か博物館で同定してもらってください。
家の中によく侵入するオオムカデは、林の下の湿った落葉層や腐植土層の中で繁殖します。他の小動物を捕らえて食べており、初夏に家の中に侵入してきて、ゴキブリなどを食べると言われています。布団の中にもぐりこんで、人がかまれることもあります。駆除の方法としては、落葉をかき集めて生息環境をなくす、殺虫剤を落葉層にまくなどの方法が考えられます。石灰や、薪炭をつくるときに出る汁などを家のまわりにまくとムカデを寄せつけないと言われていますが,効果はよくわかりません。最近は薬局でムカデ用の忌避剤や殺虫剤を販売しているかもしれません。私は殺虫剤散布が好きではありませんので、殺虫剤に関してはお答えできません。
もし、ヤスデ類だとしたら、腐植物や菌類、植物の芽などの柔らかいところを食べています。人間に害を及ぼすものはほとんどありませんので、ほっておいて大丈夫です。いわゆる不快害虫というだけのことです。
また、まれにゲジが家屋内に侵入することがありますが、配水管の中や屋根裏などの暗い場所に主に生息し、あまり表に出てきません。ゲジは脚が非常に長いので、すぐ見分けられます。本来のすみかは、雑木林の樹皮下、石の下、岩石の割れ目などです。不快害虫ですが、全く害はありませんので、ほっておいてもかまいません。
●1999/4/29 金沢市の匿名希望さんからの質問
一般的に花びらは5-6枚だと思うのですが、7枚の花はありますか?
【岡本学芸員の答え】
合弁花ですが、シャクナゲの花がよいでしょう。花冠が7つに切れ込みます。
●1999/4/16 池田市の井上祐加さんからの質問
先日家族で五月山の自然観察会に参加し、いのししやしかのふんについていろいろと教えていただきました。その後、帰宅してから、我が家の小1の娘が、「どうして動物のうんちは種類によって形や色が違うの?」と聞きました。そういえば、シカやウサギのものはチョコボールのようなのに、イノシシのはちょっと人間に似ていますよね。私も不思議でなりません。どうぞ教えて下さい。
【茂似太の注釈】
当館には残念ながら、現生哺乳類の専門家がいません。一応哺乳類を担当している和田学芸員(本当は鳥類が専門)では頼りないので、京都大学でシカを研究されている立澤史郎さんに答えてもらいました。快く答えてくださった立澤さん、どうもありがとうざいました。
【立澤史郎さんの答え】
私も昔から「どうしてうんちの形や色が動物でちがうのかな?」とふしぎに思っていました。人間のように、ほかの動物もおしりでちぎれるんでしょうか?奈良公園のシカがうんちをするところを見たことがありますか?よくみると,おしりで切れるわけではなく,おなかの中で「チョコボール」のようにこま切れになったものが、でてきているようです。実はうんちのかたちは、おしりでなく、おなかの中の「腸」のしくみと,たべものの種類できまることが多いようです。
たとえばシカやウサギのように、植物しかたべない動物(草食動物)は「腸」が長く、一定間隔の収縮(これを「分節運動」といいます)をくりかえしながらたくさん水分を吸収します。だから比較的乾燥し、「チョコボール」のように区切られて出てきます。これに対して、ライオンやトラのように、動物の肉を主食にしている動物(肉食動物)は、腸が短く、栄養を吸収するとこまかく区切らずにすぐに出してしまうので、「ソーセージ」のような形になります。イヌやネコももともとは肉食動物なので、「ソーセージ型」がきほんです。ではイノシシはどうでしょうか?実はイノシシは、人間とおなじ雑食性なので、ちょうど肉食動物と草食動物の中間のうんちを出すのです、サルやタヌキも同じです。ちなみに腸の長さをくらべると、イヌやブタで約5mなのに対し、からだの小さいウサギでも4m、シカでは約20-30m、ウシではなんと最長60m!にもなります。
こういう腸のしくみのちがいに加えて、たべたものでも形がかわります。あなたのうんちの形も日によって違うのではないでしょうか?野菜などの繊維(せんい)の多いたべものをたべると、弾力のあるしっかりした「うんち」になりますが、繊維が少ないとかたすぎたりやわらかくなりすぎたりします。肉食動物は、繊維をとらなくてもいいようにできていますが、草食動物や雑食動物は、繊維をとらないと調子が悪くなってしまいます。人間に野菜や果物が必要なのは、このためです。
また、体調によってもうんちの形がかわりますね。うんちがあれば、動物の種類だけでなく、食べたものや、時には体調まで予想できるのです。タヌキの「ためふん」の話はききましたか?タヌキのトイレのことで、そこでふん(うんち)のにおいをかいで、近くに誰がいて、どんな体調かを知るのだそうです。うんちはきたないものではなく、動物やわたしたちにいろいろなことを教えてくれる、たいせつなメッセンジャーなのです。
最後にうんちの「色」についてお話しします。人間をはじめ、たいていの動物のうんちは、茶色やこげ茶色やおうどいろをしていますね?これは、「胆汁(たんじゅう)」という液の色です。胆汁は、特に脂肪の消化をたすけてくれる、大切な役目を持っています。「肝臓」で作られて、腸の上の方にある「胆嚢(たんのう)」という場所にためられ、腸で「うんちのもと」と混ざり合います。この胆汁の量や色彩によって、うんちの色や濃さもことなってきます。今度ウサギのうんちをよーく観察してみてください。シカと同じように、植物の繊維がつまっていますが、あまり色がつかず、植物そのままの色をしています。
ほかにも、草食動物のうんちはなぜくさくないのか? どうして草食動物は走りながらうんちをするのか? などまだまだふしぎなことがいっぱいあります。これからもふしぎなことをみつけたら、どんどんおしえてください。
●1999/4/8 松原市の匿名希望さんからの質問
昨夜自宅のお風呂場で細長いナメクジのような生物を捕まえましたが、正体がわかりませんので教えてください。長さが120mm位で幅が3mm位。色と進み方はナメクジそっくりですが、頭部がヘラのように偏平しており、触手のようなものはありません。長年この家に住んでおりますが、こんな生物を見たのは初めてです。何か調べる手がかりとなる情報だけでも教えて頂けませんでしょうか。よろしくお願い致します。
【山西学芸員の答え】
コウガイビルという動物に間違いないと思います。くわしくは、「1998/11/8 尼崎市の佐藤敬一さんのコウガイビルについての質問」への回答をごらんください。
●1999/4/7 栃木県の加藤とおるさんからの質問
最近、友人と話をしていて、タコはどうやって呼吸をしているの?という話が出てきました。タコは陸上に上がってもさほど苦しむ様子はないのが、水中にいるのだからやっぱり鰓を持っているのでは?ということになりました。しかし、タコに鰓があるという事は聞いた事がありません。じっさい、タコはどうやって呼吸をしているのでしょうか?
ついでにイカもどうやって呼吸をしているのでしょうか?料理用に1パイ買ってみましたが、イカに鰓らしきものは見当たりません。
【山西学芸員の答え】
タコもイカも鰓で呼吸しています。魚屋さんの桶から這い出しているタコをよく見かけますが、空気中で長く生きることはできません。本当は苦しいのです。
イカには、房状の大きな鰓が1対あります。解剖図をご覧になるなら、
「決定版生物大図鑑 貝類」世界文化社発行、p.15
「新日本動物図鑑 中」図鑑の北隆館発行、p.307
などに掲載されています。
【茂似太の補足】
その後、加藤さんから、お礼と一緒に烏賊の解剖図の載っているHPを教えていただきました。→http://www.kobe-ita.or.jp/aquarium/sta/nat-10.htm
●1999/3/27 神戸市のK.A.さんからの質問
昨年秋、自宅の庭のカイヅカイブキの生け垣にスギドクガが大量発生しました。多いときは毎日50匹程度はさみで捕まえて処分しました。殺虫剤を散布したり、生け垣の枝を切って風通しをよくしたりしました。そろそろ幼虫が出てくる季節とのことでどういう対策を講じれば効果的な駆除が出来るのでしょうか?
【金沢学芸員の答え】
スギドクガが大量発生して、カイヅカイブキを枯らしたという話は聞いたことがありませんので、ほっておいて観察の対象にするのが一番いい方法と思います。スギドクガが発生し続けていると、コマユバチ類、ヒメバチ類、ヤドリバエ類などの天敵がそのうちにやってきて、寄生されることにより数が少なくなります。そこに殺虫剤を使うとかえって天敵のハチ類やクモ類が先にやられて、スギドクガが増える可能性があります。スギドクガに限らず、駆除に殺虫剤を使うのは、感心しません。どうしても目障りであれば、割り箸やピンセットで捕まえて、靴で踏みつけて殺します。
●1999/3/17 堺市の河井洋さんからの質問
紀伊半島の山の中をうろうろするのが好きなんですが、今年の冬は、山の中で、まったく赤い実をみなかったので、心配してます。タマミズキとか、イイギリとか、いつまでも赤い実が沢山ついてたのに、今年は無しです。裏年とかあるのでしょうか。教えてください。
【藤井学芸員の答え】
見かけ上の着果状況には、以下の内容が含まれます。
1.果実の生産量そのもの(豊作、凶作)
2.何らかの理由で実際の果実生産量よりも少ない果実量になる(例えば、果実生産量は多かったが、鳥が食べたために見掛け上は果実がないように見える)。果実量とそれを食べる動物の個体群のバランスで成立しますから、やはり見かけは豊作と凶作があるように見えてしまう。
紀伊半島が上のどちらの状況か(あるいは両方が作用しているか)はよくわかりません。参考として、京都東山では、1997〜1998年の冬季はタマミズキが大豊作でしたが、1998〜1999年の冬はタマミズキが不作でした。割合で言えば前年の6〜7割減のようでしたが、少ない果実を鳥が食べてしまったので、1の凶作が2の要因によってさらに強調されて、「見かけ上は、ものすごい(1個体も果実生産をしていないほどの)大凶作」のように見えました。
なお、樹木の果実生産には一般的に豊凶の存在が知られていますが、それがどの程度なのかは樹種によって異なります。タマミズキはそこそこ豊凶があります。イイギリはよくわかりません。
なによりも、自分の目で何年もかけて正確に確かめることをお薦めします。それが自然観察の第一歩ですから。
●1999/3/13 千葉県の小守美和さんからの質問
私は現在、塾で理科を教えています。先日、青虫に関する質問を、生徒から受けましたが、答えがわからないので、質問のメールを出させていただきました。
質問:青虫は紫キャベツを食べたら、紫色になるのか?
モンシロチョウは、生まれたばかりの色は、黄〜ダイダイですが、次の脱皮で緑色になります。通常は普通のキャベツを食べて成長しますが、紫キャベツを食べた場合どのような変化が起こるのでしょうか?
私なりに考えてみた答えは、以下のようです。
1)紫キャベツを食べている間は、体の中を透かしてみると、紫っぽくなるが、それはあくまで消化管の中に、紫キャベツが入っているだけで体までは紫にならない。
2)孵化する前に紫キャベツの葉に、卵を置き、ずっと紫キャベツで育てれば体は紫色になる。
3)一代では無理だが、何代か紫キャベツで育てれば、体が紫がかってくる。
【金沢学芸員の答え】
1)紫キャベツを食べている間は、体の中を透かしてみると、紫っぽくなるが、それはあくまで消化管の中に、紫キャベツが入っているだけで体までは紫にならない。
葉を巻いたり合わせたりして中に隠れている蛾の幼虫では、体の色が透明に近く、食べたものが透けて見えて、うすい緑色になっているものがいます。その理屈ですね。葉の色に体色が近づき、安上がりに保護色ができあがるわけです。でも、モンシロチョウでは、もう少し積極的な緑色ではないのでしょうか。
2)孵化する前に紫キャベツの葉に、卵を置き、ずっと紫キャベツで育てれば体は紫色になる。
緑色型や褐色型の多型現象をもつ幼虫や蛹で見られるものですね。昆虫は、魚類や爬虫類などで見られるような色素胞がないので、体の色を変幻自在には変えられません。あらかじめ用意されている体色変化のメカニズム(ほとんどの場合には,まわりから反射される光量による明るさ)に基づき、体の色を脱皮のときに変えるようです。
3)一代では無理だが、何代か紫キャベツで育てれば、体が紫がかってくる。
強い選択圧にさらさないと変わらないという理屈です。そのためには紫キャベツだけがある閉鎖空間で、鳥などの視覚で餌をさがす天敵が必要です。昔、工業暗化(黒化)という現象が有名でした。黒っぽいオオシモフリエダシャクが、幹の地衣類が産業革命以後に黒くなることにより、増加したという主張です。ネオダーウィニズムの証拠として取り上げられたのですが、その後よく調べてみると、オオシモフリエダシャクの成虫は幹にあまり止まらないことがわかってきて、最近は信じられていません。煤などに含まれる成分が黒色型を誘発するようです。
紫キャベツを食べさせたらどうなるのかは、食べさせてみないとわからないというのが本音です。昆虫はとても種類が多いわりには研究者の数が少なく、ちょっとまじめに調べると、すぐ専門家になれるグループです。お子さん達には、正答を用意するのでなく、「いっしょに考えてみよう」、「いっしょに調べてみよう」という態度でのぞむ方がいいのではないでしょうか。
同じメスから採卵した幼虫を、紫キャベツとふつうのキャベツで各10頭ずつ飼育して比較すれば、すぐ結果がでると思います。
【茂似太の補足】
小守さんからは、金沢学芸員が提案したような実験は、生徒が住んでいる近所に青虫自体が少ないので、できないかもしれない、との意見をいただいています。もし気が向いたら、誰かこの実験をしてみませんか? →実験経験者からのコメントをいただきました。
フラミンゴのピンク色は、食物から得られた色素に基づいています。ひょっとしたら、食物に含まれた色素を取り込んで色が変わるという可能性もあるように思います。どうでしょう?
●1999/3/4 佐賀大学の角修太郎さんからの質問
マダラカマドウマという、見た目の良くない昆虫がいますよね? こちら佐賀県でも薄暗い場所でよく目にします。ある不確かな情報で、翅を持たないこのカマドウマやハネナシコロギスが鳴くのではないか、というのを耳にしました。(海外でいうcave
cricketは、鳴くことが知られていますが…。)もし本当に鳴くのであれば、どんな鳴き声でなくのか、
またそれについての研究が未開拓であれば、卒論のテーマに決めちゃおう、とまで考えています。この質問の回答ならびにこの昆虫の生態に関する文献、論文などの情報がございましたら是非とも教えてください。
【金沢学芸員の答え】
コロギス類のほとんどがタッピング(脚を木の枝などに打ちつける)をして信号を送ることはよく知られており、ハネナシコロギスでも観察されています。それ以外のことに関しては記憶にないので、カマドウマに詳しい市川顕彦氏(日本直翅類学会)に訊いてみました。「ハネナシコロギスはタッピングの他に、脚と腹部をこすり合わせて鳴く。カマドウマ類では、ただ一種だけタイワンミナミウマ(Raphidohora
taiwana: ヤンバルミナミウマとも言う)でタッピングが観察されている。これは大城氏の「琉球列島の鳴く虫たち」という本に掲載されている」という回答を得ました。
直翅類の音響学的研究は非常に興味深い分野で、最近何人かの研究者が出てきています。日本直翅類学会では、直翅類の情報を連絡誌「バッタリギス」で提供していて、生態に限らず、あらゆる情報が入手できます。直翅類に関心があるのであれば、問い合わせてみてください。
【茂似太の補足】
日本直翅類学会の連絡先については、monitor@omnh.jpまでお問い合わせください(連絡先は個人宅のため公開できないもので…)。
市川顕彦氏から、カマドウマについての追加情報を頂きました。こちら。
●1999/3/1 千葉県の久藤さんからの質問
恐竜の化石が発見されると、その恐竜は生きていたときに植物を食物にしていたか、肉食であったか、または雑食であったかなどが推測 (というより決定?)されています。
また以前、「ラクダ」の歯について聞いたことがあります。ラクダの前方の歯は鋭いきばの様になっており、もしラクダが絶滅した後、その頭部の化石だけを見たら肉食の動物だと判断されるかもしれないというような話しでした。
じっさいに、どのような歯の構造があれば肉食、どのような構造であれば植物食と判断するのでしょうか?
【樽野学芸員の答え】
あくまでも、ほ乳類での知識が基礎となっており、主として臼歯の形を問題にします。肉をかみきるのに適した形か、植物をすりつぶすのに適した形かという点で、判断しています。たとえば、
肉をかみきるのに適した形:鋭い切縁がある。その縁はステーキナイフみたいに細かくギザギザになっていることもある。上下の歯は鋏みたいに、すれ違うように噛み合う。顎も鋏のように動く。
植物をすりつぶすのに適した形:上下の歯の噛み合う面は広く、そこには細かい凹凸がある。ただしこの形は、1本の歯でできていることもあるし、多くの歯が集まって、広い面積の細かい凹凸を作っていることもある。顎は、単純な開閉でなく、前後や横に動く。顎の動きは顎関節の形や、顎を動かす筋肉の付き方(頭骨の形)で判断する。
ラクダの話をした人は全然わかっていないようです。ラクダの前歯が「鋭い」ということならば「ヒトも肉食だ」ということになるのではないでしょうか。植物食や雑食の動物といえども、すりつぶすには、植物をかみきって口に入れないといけないので、咬みきるための鋭い前歯を持っていることがあります(といってもヒトの前歯程度)。とくにこのタイプの前歯は偶蹄類では一般的です。上の説明からおわかりいただけると思いますが、もし頭骨があれば、顎の動きがわかりますので、こんな判断にはなりません。また頭骨があれば当然臼歯も付いているでしょう。
●1999/2/11 兵庫県のジンさんからの質問
桜は日本の木ではないと聞きましたが、どこの国から、いつごろ日本にきたのですか? 桜のルーツを教えていただけますか? 私は、てっきり日本の木だと思っていたので、とても気になります。よろしくお願いいたします。
【岡本学芸員の答え】
桜はあなたが思っておられたとおり、日本の木です。野生種も園芸品種もたくさんあります。園芸品種は日本の野生種から日本人によって選び出されたものがほとんどです。
ときどき見かけるカンヒザクラは日本原産ではない桜です。これは、冬の終わり頃、濃い赤紫で、あまり開かない花をうつむきに咲かせる桜です。この種類は台湾や中国が原産地で、沖縄には野生化したものがあるそうです。
一番普通にある桜ソメイヨシノは、オオシマザクラとエドヒガンの雑種で、接ぎ木で増やしており、山に自然に生えているものではありません。でも、ソメイヨシノが誕生した地は日本です。
桜が日本の木ではないと言われた人は、何かを勘違いされたのだと思います。安心して下さい。桜は間違いなく日本の木です。
●1999/2/6 香川県の匿名希望さんからの質問
動植物に興味があり、学芸員の資格を取ろうと思っています。そこで、大学の通信教育の資料を集めてみましたが、スクリーニングの時間が取れそうにありません。文部省の資格認定試験を受けたいと思っていますが、自習方法や教材についてご指導ください。また、博物館等での実習は受験資格に必要ないのでしょうか。合わせて教えてください。
【茂似太の答え】
試験勉強の一番の教材は過去に出題された問題です。同じような問題が繰り返し出題されていますし、過去の問題を一通り解いて、基本的なパターンを知った上で、本でそれを補うといったところでしょうか。過去の問題は毎年「博物館研究」という雑誌の7月号に載ります。過去問を補うための教材は、図書館や書店で適当に探してみてください。
当館の学芸員14名中13名は、試験を受けて学芸員資格を取得していますが、その勉強法は上述したような感じです。だいだい伝わっている模範回答集があるので、けっこう便利にはなっていますが…。
受験資格に博物館実習の単位は必要ありません。
●1999/1/21 京都市の鈴木克也さんからの質問
植物の図鑑を見ていると種類によっては同じ種がさらに、var.、subsp.、form.といったものに分けられているものがあります。
これらはそれぞれどういった違いがあるとき用いられるも のなのでしょうか。
【藤井学芸員の答え】
分類ランク、とくに種内分類群の問題ですね。種内分類群には、ご質問のように以下のものがあります。
subsp.:亜種(種より下位のランク)
var.:変種(亜種より下位のランク)
form.:品種(変種より下位のランク)
命名規約上は「species:種」は絶対に認識しなければなりませんが、種内分類群は認識してもしなくても構いません。ただ、植物の場合は種内分類群として「慣例的に」亜種や変種を使うことがときどきあります(品種は使わない.動物なら亜種だけ)。
種内分類群ですからこれらはすべて同一種です。しかし、同一種内に別種とは言えないけれども「それなりに違いのある分類群」が認められたとき,種内分類群のランクを使います.なお、亜種・変種の厳密な違いは定義されていません。だから、ご質問に対しては、亜種の方が違いが大きくて(上位ランク)、変種の方が違いが小さい(下位ランク)という答えにしかならないです。実際には、具体的な分類群を対象にしたときに、個々に判断されます。場合によっては、研究者間で意見の分かれることがあって、同一の分類群をある専門家は変種に分類し、別の専門家は亜種に分類し、さらに別の専門家は別種にすることも起こりえます。
●1999/1/7 高知大学の匿名希望さんからの質問
私は高知大学農学部の4回生で魚の病理について勉強しています。私は学芸員の免許をとり、博物館または水族館などで働きたいのですが、私の大学では学芸員の免許がとれません。どうしたら免許をとることができるのでしょうか。また博物館で働くためにはどのような活動および勉強をするべきでしょうか。
【茂似太の答え】
●学芸員資格の取り方
当館の学芸員は一人を除いてみんな、博物館に採用されてから試験を受けて学芸員資格を取得しました。要するに必要な科目の単位をそろえればいいわけで、毎年11月半ばに東京で行なわれる試験を受ける方法や、通信教育、大学への再入学など、方法はいろいろあります。もう少し詳しくは1998/2/3のやり取りを参照してください。
なお試験認定の場合、受験要項は、毎年4月頃に各都道府県の教育委員会の広報に載ります。受験申し込みは、住民票のある都道府県の教育委員会を通じて7-8月頃に行います。とりあえず住民票のある都道府県の教育委員会に問い合わせてみてください。
●博物館への就職
学芸員の募集はそうたくさんありませんし、さらに自分の専門分野にあった募集があるかどうかは賭けに近いものがあります。学芸員はなろうと思ってなると言うよりは、研究者を目指す選択肢の一つと考えるべきでしょう。とりあえず大学院へ進学し、一人前の研究者になってチャンスを待つしかありません。その他には、博物館の近くで、学芸員達と関わりを持ちながらいろんな活動をしていれば、少しはチャンスは多くなるかもしれません。
文系の博物館などでは、学芸員資格を持っていることが採用条件になっていますが、当館(たいていの他の自然史系の博物館も)の採用条件に学芸員資格は関係ありません(なければ採用されてから試験を受けて取ります)。募集分野で一人前の研究者かどうかが問われるポイントです。
1998/6/13のやり取りにも同様の内容が載っています。