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本の紹介「ブルーネス」
「ブルーネス」伊与原新著、文春文庫、2020年4月、ISBN978-4-16-791473-8、960円+税
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【中条武司 20230428】【公開用】
●「ブルーネス」伊与原新著、文春文庫
これまでにない津波監視システムの構築に挑むはぐれものの研究者たちの奮闘劇。一言でいえば下町ロケット的な話だけど、研究者出身の作者らしくその中身はリアル。地震学界隈の予算や村組織の話、3.11をうけての地震学者の葛藤(とは言いながら現実はあまり葛藤していないんじゃないかとも思う)、地震学者が地質学者を馬鹿にしているふしがある点や地震学者が地質学者を馬鹿にしているふしがある点(大事なことなので繰り返しました)など、地震学業界あるあるがふんだんに盛り込まれる。小説のオチとして地震起源の津波を持って来ないところも見事。でも、ほとんどの地震学者はそれ以外の津波のことなんか考えていないと思うけどなあ。
お薦め度:★★★ 対象:津波観測の現状をエンタメ的に読みたい人
【冨永則子 20230411】
●「ブルーネス」伊与原新著、文春文庫
2011年の東日本大震災から三年後、当時、地震研究所の広報職にあった主人公は震災を機に職を辞していた。トラウマとも言える辛い記憶を持ちながら、再び、職場に復帰する。ただし、今度はあるプロジェクトを立ち上げるため…。元研究者である著者が虚実相混ぜながら書き上げた長編エンタメ。
ドラマのシナリオになりそうなぐらい分かりやすい登場人物のキャラクター設定。そこへ元研究者としての視点が入るから現実味が増す。主人公は自分の意志ではなく、なんとなく就いてしまった広報職ではあったが、それを自分の役割としていくまでの成長物語でもある。オトナ向けの小説だからなのか、物語の核心に至るまでが長い! その上、読んだのがちょうど大震災があった時期だからか、読み進めるのは、なかなかしんどかった。
お薦め度:★★★ 対象:研究職に従事したい、あるいは研究者に興味のある人に
【萩野哲 20230308】
●「ブルーネス」伊与原新著、文春文庫
行田準平は武智要介に、海底電磁磁力計と微差圧計を組み合わせた新しい津波監視システムの開発に誘われた。東日本大震災での津波による大きな犠牲は、それまでの津波監視がリアルタイムに機能していなかった証だ。スピードと機動性を兼ね備えた監視システムをつくりたい。しかし、この異端ともいえるチームは、どの分野の学会にもありそうなコニュニティー(ここでは地震村)の和を乱す存在と認識され、様々な妨害を受けることとなった。 チームに入ったり関わった人物の存在感の記述は魅力的だ。海底のダイナモ津波計から音響通信でデータを取得する海面のウミツバメを発想する描写も迫力がある。ウミツバメに付着してくるだろう生物への対策は?と思って読み進めると、ちゃんとフォローしているではないか! このシステムにはモデルが存在するらしい。本書が出版されてから7年。今ではシステムが活躍していることを願う。ところで、いろんな装置が出てきても、図が1枚も示されないので理解し辛いのが残念。もしブルーネスではなくてブルーバックスならたくさん図示してくれただろうに。
お薦め度:★★★ 対象:津波で犠牲がでないことを望む人
【和田岳 20230428】
●「ブルーネス」伊与原新著、文春文庫
東日本大震災で、地震予知の困難さが明らかになった。それならば、せめて津波の接近をリアルタイムで監視して、正確な警報をだせないのか? という思いで「津波監視システム」を構築しようとする有志達の物語。
国から資金が出る訳でもなく、所属でも業界でもつまはじきにされ、資金面や機材面で、さまざまな困難をかかえつつ少しずつ前に進むが、やがて暗礁に。そんな中、火山島の噴火が…。ストーリーは、日本SFの王道。
著者が元地球物理学の研究者だけに、地学業界の事情の描き方、「津波監視システム」の開発、実験の様子に説得力がある。津波監視の現状には驚かされる。
お薦め度:★★★ 対象:津波監視の現状が知りたい人
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