友の会読書サークルBooks

本の紹介「「絶滅の時代」に抗って」

「ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密」広瀬友紀著、岩波科学ライブラリー、2017年3月、ISBN978-4-00-029659-5、1200円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。

[トップページ][本の紹介][会合の記録]

【冨永則子 20250208】【公開用】
●「ちいさい言語学者の冒険」広瀬友紀著、岩波科学ライブラリー

 母語以外の言語を大人になってから学ぼうとしても習得するのは、なかなか難しい。けれども母語は、小さいころにいつの間にか身につけている。自分がいったいどのように言葉を習得してきたのか、今になって振り返っても、その過程を思い出す事は殆どできない。今まさに言葉を習得しようとしている子どもたちのアタマの中で起こっていることを推察・観察することで、かつての私たちのアタマの中で起きていたことを振り返る。子どもの発達は様々で一様ではない。言語の発達も同様に一人ひとり違うが、そこには何かパターンのようなものがある。大人から見ると“可愛らしい言い間違い”が、人が言葉を獲得していく上での必須条件だったりする。身近に小さい人がいる方は、ぜひ“可愛らしい言い間違い”に注目してほしい。

 お薦め度:★★★  対象:言語習得、発達に興味のある人に
【里井敬 20250213】
●「ちいさい言語学者の冒険」広瀬友紀著、岩波科学ライブラリー

 大人になると自然に使っている言葉を小さい子供たちが言い間違いをしながら学んでいく。子供たちは言葉の規則を試行錯誤しながら身につける。テンテンが付いた字。「か」「さ」「た」はすぐに発音できても、「は」は幼児には難しい。口の形が違うのだ。
 『可能』を表す「れる・られる」を過剰に使うことがある。「みじかくしれる」や「読められる」など。大人の言葉から規則を見つけている。
 犬を「ワンワン」と教えられた時、赤ちゃんは動物すべてか、動く物のことか、その犬の名前なのかと過剰拡張して理解してしまうことがある。逆に「おでん」と聞いて串に刺したものだけを想像してしまう過剰縮小の例もある。
 子供には間接的表現は通用しない。「行く」か「行かない」か、理由を「買う物がない」のような表面的な意味とは異なる表現では理解できない。なので、京都の「ぶぶづけ食べて行きなさい」は理解不能ということになる。
 言葉で遊び、構文で遊び、解釈で遊んで子供はことばの旅路をたどって、言葉を身につけて行く。

 お薦め度:★★★★  対象:子供の言葉の冒険の旅を一緒に楽しみたい人
【森住奈穂 20250214】
●「ちいさい言語学者の冒険」広瀬友紀著、岩波科学ライブラリー

 「「は」にテンテンつけたら何ていう?」、「ga」と答えたその理由は?日本語の音節の数え方「拍」は、頭の中で自動的に区切り作業をしている?マ行の五段活用をレアなナ行に当てはめたりする過剰一般化。言葉を覚え始めた時期の子どもは試して整理することを繰り返して、言葉の秩序を自力で見いだしていく。字を覚える前だから音で考える。だから気づく。おとなの私にとっては当たり前のこと、かつての自分も通った道なのに目からウロコ。言いまつがいも間違いじゃない?言語学の視点で見れば、新しい世界の扉が開く。

 お薦め度:★★★  対象:かつて言葉を習得したひと
【和田岳 20250209】
●「ちいさい言語学者の冒険」広瀬友紀著、岩波科学ライブラリー

 著者や知り合いの子どもをおもな対象に、2歳から6歳くらいの日本語を学びつつある子どもの言い間違いの例を紹介しつつ、日本語話者の大人にとっての当たり前が必ずしも当たり前ではないことを紹介していく。その結果、日本人が気づいていない日本語の法則と不合理な部分が浮き彫りにされていく。
 前半は日本語の不思議。最初は濁音の不思議。続いて、音節で数える英語と、拍数で数える日本語。そして、死の活用形。というより使役動詞や可能動詞の不思議。 後半は子どもの学習方法について考える。
 読んでいて面白いし、とくに小さい子どもと接する機会がある人にはオススメ。だけど、子どもの言語学習について体系だった何かが得られる訳ではない。

 お薦め度:★★★  対象:子どもの言い間違いのパターンが気になる人
[トップページ][本の紹介][会合の記録]