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本の紹介「超遺伝子」

「超遺伝子」藤原晴彦著、光文社新書、2023年5月、ISBN978-4-334-04664-4、840円+税


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【里井敬 20241024】【公開用】
●「超遺伝子」藤原晴彦著、光文社新書

 生物には不思議な現象がたくさんある。それらの現象には超遺伝子(スーパージーン)がかかわっていることが多い。
 不思議で複雑な現象を引き起こすスーパージーンは複数の遺伝子がかかわっている。アゲハチョウの擬態やサクラソウのめしべの長さ等、スーパージーンによる事例を紹介している。シロオビアゲハの擬態は毒蝶に似せるのだが、メスだけにしか見られず、しかも擬態と非擬態の2形のみで中間がない。複数の遺伝子による現象なので、染色体上の近い位置に遺伝子があり、しかも組み替えが起こらないように逆位している。
 ヒトにもスーパージーンはあるのか?逆位などで組み替えが起こりにくい位置にスーパージーンはある可能性は高い。性染色体のYも組み替えが起こらないので、可能性はあるが、まだ見つかっていないらしい。

 お薦め度:★★★★  対象:遺伝学が好きな人
【萩野哲 20241004】
●「超遺伝子」藤原晴彦著、光文社新書

 超遺伝子super geneとは、複数の遺伝子が関与し、複雑な適応現象を発現する遺伝子群のことである。これらの遺伝子が発現するためには、@関連する遺伝子がすべて同一染色体に乗っていること、A減数分裂の際に組換えが起こらないことが必要である。これを保証する機構として、一連の遺伝子が乗っている染色体が逆位しており、対合できず組換えが抑制されていることが分かった。超遺伝子の実例として、ヒアリの単女王制と多女王制の切り替え、エリマキシギの3型、サクラソウの自家不和合性、マラウィ湖のシクリッドの模様などが挙げられている。いずれも種内多型が存在する場合で、著者が研究している擬態型と非擬態型があるアゲハもそうである。最近この分野の研究は大きく進展しつつあるが、実はその着想は古い。ダーウィン、ウォレス、ベイツ、フィッシャー、ドブジャンスキー…。やはりこの人たちは凄い!

 お薦め度:★★★  対象:複雑な適応現象がどのような機構で起こるか知りたい人
【松岡信吾 20241022】
●「超遺伝子」藤原晴彦著、光文社新書

 「遺伝子」と聞くと、目や髪の色、病気にかかりやすさなど、私たち一人ひとりの特徴を決定づけるもの、というイメージを持つかもしれませんが、遺伝子の働きはそれだけではない。の本は、遺伝子の中でも特に注目されている「超遺伝子」という概念を、わかりやすく解説した一冊。
 超遺伝子とは、複数の遺伝子が連携して、より複雑な形質を作り出す遺伝子の集合体です。例えば、チョウの美しい模様や、ヒアリの巣の複雑な構造など、私たちが驚くような自然の造形美の多くは、超遺伝子の働きによるものだと考えられています。
 本書では、超遺伝子の発見の歴史から、最新の研究成果まで、豊富な図版とともにわかりやすく解説されている。難しい専門用語はできるだけ避け、まるで物語を読むように、遺伝子の世界へと誘ってくれます。

 お薦め度:★★★  対象:蝶の擬態や動物の繁殖戦略を制御する遺伝子群はどんな仕組みになっているのか興味のある人
【和田岳 20241024】
●「超遺伝子」藤原晴彦著、光文社新書

 スーパージーンとは、複数の遺伝子が関与する複雑な形質が、あたかも1つの遺伝子に支配されているかのように挙動する現象。そのためには、関与する遺伝子が同じ染色体の近いエリアに集まり、組換えが抑制される必要がある。組換えを抑制するための知られている主な仕組みが、逆位。
 ウォレスは、熱帯のチョウの擬態について記述の中で、“中間型”が生じないというスーパージーンの特徴を述べていた。そして、フィッシャーは、擬態のような複雑な現象におけるスーパージーンの存在を予測していた。そして塩基配列が簡単に読める時代になって、次々とスーパージーンが見つかりつつある。著者は、アゲハ類のメスの擬態におけるスーパージーンを発見した。
 他にも、ヒアリの緑鬚効果遺伝子、エリマキシギの雄の羽衣の多型、植物の自家不和合性、毒チョウのミューラー型擬態には、スーパージーンが関与しているらしい。性染色体もスーパージーンの定義に当てはまるというのは、気付かなかった。

 お薦め度:★★  対象:擬態の生態学よりも擬態の遺伝学に興味のある人
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