【森住奈穂 20171020】【公開用】
●「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」川上和人著、新潮社
ポロンポロンポロン。テンポのよい文章は、まさにそんな感じ。ウソとマコトが入り乱れ、こちらもフンフンフ〜ン、と鼻歌まじりに楽しく読める。内容は、著者の研究フィールドである「島」をめぐる進化の話や外来種の話、鳥類学者の生態や脳内妄想。わたしのお気に入りは、無人島である南硫黄島での調査の章。
有人島の父島から300km以上の海を漁船で超え、最後の100mは泳いで上陸。崖下(唯一の平坦地)でのキャンプのため、寝る時もヘルメット。夜間調査では無数の小バエが呼吸とともに口と鼻から侵入。鳥を解剖した手を洗おうと海に手をひたすと、石の隙間から飛び出してくるエイリアンの口吻(小型ウツボ)。命をかけた調査から無事帰還し、テレビに映った美しい南硫黄島に吃驚仰天、「これは私の知る島じゃない」。体験に勝るものなし。そして、他人の苦労話を自らは安全な場所に置いた上で読む楽しさ(by『菌世界紀行』)!至福。
お薦め度:★★★ 対象:鳥類学者の友人がいない人、いる人
【西本由佳 20171015】
●「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」川上和人著、新潮社
内容はもちろん、タイトルを裏切って鳥への愛が語られる。はっきりしたテーマのあった『〜恐竜〜』や『そもそも島に〜』と違って、決まった筋はなく、鳥類学者の日常や妄想をつづったエッセイ風。書き方はやはりふざけているけど、内実は、島でいま起こっている問題にまじめに取り組んでいる印象が残る。
お薦め度:★★★ 対象:野外生物研究者のディープな日常を見てみたい人
【和田岳 20170831】
●「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」川上和人著、新潮社
「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」「そもそも島に進化あり」に続く、著者単著のエッセイ本第3弾。ただただ好きなことを書いたと言っても過言ではないエッセイ集。
第1章の4編は、島の鳥の話。メグロ、西之島、ハシナガウグイス、ズグロミゾゴイ。第2章の2編は、南硫黄島に調査に行く話。第3章はちょっとまとまりがなく、鳥の骨、島のヤギ駆除、アカガシラカラスバト、鳥の糞から生きたカタツムリ。でもここまではなんとなく、島の話が中心。後半はさらにまとまらない。クルクル回る、鳥の足趾、島にやってくるネズミ、死んだふり。インドネシアの林、外来鳥類ガビチョウ、小笠原のヒヨドリ2亜種の由来、シカの血をなめるカラス、オガサワラヒメミズナギドリ、国際学会、リンゴジュース、恐竜はなぜ水中に進出しなかったのか。
ふざけながら、脱線しながらもけっこう科学者っぽいことを言うところは、おおむね前2作と同じ。外来生物問題に関しては、ときどき熱くなる
。
お薦め度:★★★ 対象:ふざけた文章でも平気な人、どっちかと言えば島の自然に関心がある人