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本の紹介「ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか?」
「ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか? 進化の仕組みを基礎から学ぶ」河田雅圭著、光文社新書、2024年4月、ISBN978-4-334-10292-0、1000円+税
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【萩野哲 20240813】【公開用】
●「ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか?」河田雅圭著、光文社新書
進化とは何か?変異・多様性とは何か?自然選択とは何か?種・大進化とは何か?この小さな本(といっても350ページを超える)にギッシリと詰められている。ダーウィンが考えたこと、それ以降解明されたこと、未だにわからないこと。関連して世の中に誤解して流布された事項がなんと多いことか。例えば、多様性は高いほどよいと思われていることが多いが、そうでもないことが本書で理解できる。エピジェネティックは進化ではないことも。複数の機能の変化を伴う複雑な進化も徐々に改良を組み合わせて達成されたと、大進化も小進化の積み重ねで説明可能である。使いまわし、転用、全ゲノム重複、遺伝子制御ネットワーク…。 ダーウィンが知らなかった進化の機構が解明されつつある。
お薦め度:★★★★ 対象:進化を正確に理解したい人
【西村寿雄 20240825】
●「ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか?」河田雅圭著、光文社新書
ダーウィンの−進化論は1970年代の話、当然各所で動物の変化を目で観察したことを元に論じられている。時代の進展とともに、このダーウィンの進化論が現代の生物学という観点で見直されている。この本には「進化学の基礎を分かりやすく紹介した」と書かれているように「進化学」の本である。ダーウィンの「生物の伝達的性質の累積的変化」も「生物の遺伝情報」を元に補完している。かくして、「進化とは何か」「変異・多様性とは何か」「自然選択とは何か」などを遺伝学の観点から詳細に論じている。ダーウィン進化論を現代生物学視点から述べた発展的書物でもある。
お薦め度:★★★ 対象:現代生物学に関心のある学生
【里井敬 20240920】
●「ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか?」河田雅圭著、光文社新書
進化とは、生物の世代を超えて伝えられる性質が変化していくことである。生物が持つ遺伝情報(主にゲノム配列)に生じた変化が世代を経るにつれて、集団中に広がったり減少すること、またそれに伴って、生物の性質が変化することが進化である。変異はランダムに起こる。遺伝的多様性が増すが、多様性が増すと、生存に有利な個体も増えるが、中立的な個体。不利な個体も増える。自然選択が働き、有利なアレルが集団内で固定されるまでは、集団の適応度は低いままである。遺伝的多様性は低い方が良いかというと、そうとも限らない。鎌状赤血球がその例である。ヘテロの遺伝子型が生存に最も適しているが、不可能だからだ。「種の保存のための進化」という考え方も誤りである。「ある種が生き残るためには、つねに進化し続けなければならない」という赤の女王仮説ではどの種も生き残ることができないということになる。進化は新しい種が形成されることと考える人が多い。生殖隔離が進化して種分化が起こることもある。キリンの首は突然長くなったのではなく、中間的な生物を経て生まれた。血圧や神経系などの変化に対して、自然選択で徐々に進化してきたと考えられる。
お薦め度:★★★ 対象:進化論は難しい。に耐えられる人
【西本由佳 20240824】
●「ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか?」河田雅圭著、光文社新書
進化論については、たくさんの誤解が出回っている。分かりやすくするために比喩にしたり、人生の教訓にしたり、特定の思想の柱にしたりすることで、誤解が生じてきたようだ。それを踏まえて、著者の言いたいことは、生物の進化には目的も方向性もなく、ただ自然選択の結果としてうまく適応したように見えるだけ、と考えたらいいだろうか。進化には、集団、個体、遺伝子という異なるレベルがあるようだ。この本では、主に遺伝子レベルの話として、簡略化したDNAの図示や比率程度の簡単な計算を用いて、ダーウィンの進化論を検証していく。また、新しく出てきた議論についても、同様の検証を加えていく。遺伝子の存在もよくわからなかった時代のダーウィンが、遺伝子レベルでも破綻のない説を考えたことがすごいなと思った。
お薦め度:★★★ 対象:進化論の現在を知りたい人に
【松岡信吾 20240816】
●「ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか?」河田雅圭著、光文社新書
本書の副題に「進化の仕組みを基礎から学ぶ」とあり、著者によると署名よりどちらかといえばこちらのほうが内容的には本のテーマに相応しいという。
またその内容について「はじめに」からー「一般には進化というと過去に生じた大きな変化を連想し、「進化とは生存競争における自然選択による進化」がその考えの中心だと考える人も多いのでは、(そうした小中学校以来我々が学習してきたイメージから来る誤解を正し)本書は誤解されやすいトピックを題材に、進化学の基礎をわかりやすく紹介することを目的とした。現代の進化学の視点から、進化がどのような仕組みで生じているのか、進化をどう理解するべきかについて解説することを試みた。」とある。とはいえ「進化を理解するためには様々な生命科学の知識が必要であり、特に遺伝学や集団遺伝学の基礎的な理解が求められる」と真の理解のためのハードルも低くはない。という訳で、今回は本書全体を広く浅く流し読みしただけなのだが、特に印象に残ったテーマがあってそれは「第三章「自然選択とはなにか」3−1「種の保存のために生物は進化する?」のなかで、「なぜ生物が死ぬように進化したのか」という問いに対し「@個体数が増え過ぎて、集団が絶滅しないためA死ぬことで進化の材料となる多様性を確保するため」としたこの一見正しそうな主張が誤っていると述べられたところ、「第4章「種・大進化とは何か」3−2「大進化は小進化で説明できないのか」とうところ。自然選択や生存競争だけでは例えば、マチカネワニ、トリケラトプス、三葉虫、アノマロカリス、象や虎、カブトムシ、チョウザメ、竜舌蘭など、これら生命の多様性を説明するに十分ではないのではないか?これらの生物間に見られる形態上のギャップの大きさはどのようにして生じたのだろうか?といった疑問があった。こうしたことも現代では、「中間型の存在」、「遺伝子制御ネットワークの進化」、「全ゲノム重複個体」などにより説明できるのだという(のだがちょっと難しい)。
進化論は、生命の多様性と複雑さを解き明かすための普遍的な概念であり、ダーウィンが『種の起源』を著してから150年以上が経ち、現代の生命科学は目覚ましい発展を遂げている。本書は、そんな最新の研究成果を踏まえ、進化論の核心に迫っている。自然選択、遺伝、種分化といった基本的な概念から、ゲノム解析、分子進化といった最先端の研究まで、幅広いテーマを網羅。進化のメカニズムをより深く理解したい読者にとって必読の書籍であろう。
お薦め度:★★★ 対象:生態学、進化学、遺伝学など生命科学に知識や関心を持ち、強い興味を持っている人。或いは理系の大学教養学生(進化学について自身の持つ既存の知識のブラッシュアップに寄与するのでは?)
【和田岳 20240920】
●「ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか?」河田雅圭著、光文社新書
タイトルから勘違いする人がいるかもしれないが、反ダーウィニズムの本ではなく、ダーウィン進化論からの進化の総合説、その後の展開を紹介した一冊。
第1章は、進化とは何か。自然選択万能ではない「拡張した進化総合説」の紹介。第2章は、変異・多様性とは何か。適応的な突然変異は知られていないが、突然変異率には特定の傾向があり、その進化も論じられるようになってるって話。さらに遺伝的荷重と、エピジェネティック遺伝。第3章は、自然選択とは何か。自然選択が働く単位、集団選択が働く条件、種の保存のための進化は生じない、利己的遺伝子、利他行動の進化、赤の女王仮説。第4章では、種、種形成、生殖隔離、自然選択の役割が順に解説された後、大進化、すなわち複雑な性質の進化の話。大進化のメカニズムが、議論の俎上に上がってきた感じ。
とても勉強になるが、とにかく盛り沢山。サクッと中身を知りたい人は、各章の最後の要約だけ読むといいかも。でも、予備知識がないと要約読んでも分からないかも。
お薦め度:★★★ 対象:進化研究の現状を知りたい人
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