【和田岳 20170825】【公開用】
●「毒々生物の奇妙な進化」クリスティー・ウィルコックス著、文藝春秋社
原題は「Venomous: How Earth's Deadliest Creatures Mastered Bio-chemistry」。venomousとは、毒を出したり、注入してきたりする動物のこと。この本は、Venomousやその周辺の人々への巡礼の旅の記録であり、出会いの物語でもある。著者は、Venomous研究者でありサイエンスライター、そしてたぶんVenomousオタク。
カモノハシに始まり、クラゲ、毒ヘビ、サシハリアリ、カサゴ類、トックリガンガゼモドキ、コモドオオトカゲ、ガラガラヘビ、ヒョウモンダコ、イモガイ、エメラルドゴキブリバチ。さまざまな毒を持つ動物が登場する。カモノハシはオス間の闘争用に毒を獲得したおそらく唯一の動物、毒ヘビがヒトの進化に影響? マングースなどはヘビ毒に対する耐性を持っている、などなど興味深い話題も豊富。そして、世の中にはヘビ毒を自らに注射して耐性(快感も?)を得ようとする「自家免疫実践者」という人たちがいるという衝撃の事実…。
ヒョウモンダコの毒がとても怖いのがよく分かった。今度磯観察に行くときは注意しよう。
お薦め度:★★★★ 対象:フィールドに出ることがある人
【上田梨紗 20170825】
●「毒々生物の奇妙な進化」クリスティー・ウィルコックス著、文藝春秋社
爬虫類、昆虫、魚介類、そして哺乳類。その他にも、毒をもっている生物は地球上にたくさん暮らしている。
毒といっても、1つの毒液化合物からできているわけではなく、毒液には多様な化合物が含まれていて、それらが相乗効果をもたらしているということに、驚く(例えば蚊やヒルは、何十もの抗血液凝固成分をもっている)。1つの毒素は、1つのことしかできないが複数の毒素があれば調整能力と多能性が手にはいる(1つの毒素だけだと標的が進化して免疫を獲得してしまう可能性があるからだ)。
また毒をもつ生物は、毒を作り出すために大きなエネルギーを消費している。そのため、労力の割には結果が伴わないと思ったモノは、毒を作らなくなるのだ。
恐ろしい毒々生物達が長い月日をかけ、苦労して手にいれている毒、やっと作り出した毒を人間に絞りとられて薬(アルツハイマーやHIVなど)や麻薬(コブラの毒は他の麻薬を越えるクリーンな心地よさがあるらしい)に使われるなんて、思ってもみなかったことだろう。そしてこんなに助けてもらっているのに、危険だからと駆除される毒々生物達。1番危険なのは、オマエ達だと言われても全く反論できない。
カラーの口絵のエメラルドゴキブリバチ。どうやってゴキブリの脳のある一部分を知ることができたのか?こわい。ロクソスセレス症は絶対ぐぐってはいけない。by.著者
なお、コモドオオトカゲの口の中には今まで言われていたような病原性の細菌は見つからず、出血がとまらなくなる毒をもっているとのこと。。。
お薦め度:★★★★★ 対象:毒に興味のある人、危険と聞くと気になる人、昆虫や爬虫類に抵抗がない人でカモノハシのファン
【萩野哲 20170821】
●「毒々生物の奇妙な進化」クリスティー・ウィルコックス著、文藝春秋社
タイトルの通り、いろんな毒々生物が出てくるが、本書の目的はそれらを紹介することのみではなく、なぜそのような毒を持つに至ったか、どのような機構で毒性を発現するのかなどに重きを置いているようだ。カモノハシの雄の蹴爪から出る猛毒についての詳しい話や、コモドオオトカゲに噛まれて死に至るのは口中の腐敗細菌のせいではなく自ら出す毒のせいであることは本書で知った。ゾンビ・パラサイトの1種であるエメラルドゴキブリバチにも触れており、この分野の注目度の高さがうかがえる。毒々生物が持つ毒は実に様々な機構を有しており、将来薬として役に立つ成分も有望だ。
お薦め度:★★★ 対象:毒々生物やその毒の作用機構、利用性を知りたい人