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本の紹介「江戸の町は骨だらけ」

「江戸の町は骨だらけ」鈴木理生著、ちくま学芸文庫、2004年8月、ISBN978-4-480-08871-、1100円+税


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【加納康嗣 20090613】【公開用】
●「江戸の町は骨だらけ」鈴木理生著、ちくま学芸文庫

 大正14年、二重橋伏見櫓の石垣の崩れから多くの人骨が現れた。神聖な場所からでた人骨だけに大問題になったが、これは江戸の地下の一端を物語るに過ぎない。著者は江戸の地下には多くの骨が埋まっていることを解き明かす。人口が多い江戸に多くの死骸が存在するのは当たり前だが、問題は埋葬された寺院が頻繁に移転させられ、改葬が面倒なのでそのたびに墓石までが乱暴に踏み倒されて放置され、跡地に次々と建物が建てられたことである。位牌が大切にされた一方、死体がいかに軽視されたか、大量の遺体をいかに処理し埋葬したかを解き明かす。古い遺骨の上に重ねて埋められる。埋め立て材料のように海岸や湿地に埋められる大量の死骸。都立一橋高校改築工事現場の生々しい光景は象徴的である。まさに、東京の地面の下には人骨が描くもう一つの江戸・東京地図が封印されているのである。豊富な資料やデータを駆使して、隠された異色の都市史が語られていて、興味が尽きない。面白い。

 お薦め度:★★★★  対象:江戸の歴史に興味がある方

【六車恭子 20090827】
●「江戸の町は骨だらけ」鈴木理生著、ちくま学芸文庫

 都市研究家が地形や考古学の見地から江戸の町の誕生からその推移を案内してくれるひと味違う江戸巡礼記であり、人々を呑み込み繁栄する都市の実相を穿つ優れたエンタティメントになっている。1457年太田道灌が築いた江戸城、その後徳川400年の繁栄をもたらした都市として機能させるための施策の結果が本のタイトルに投影されている。
 徳川幕府要人の水瓶を確保するために移転を余儀なくされた16の寺院、宗門人別長は現在の住民台帳にも匹敵し、まさにその寺院は帰依する門徒の死体処理施設であったという事実。「村八分」という厳しい制度をおう自然村としての共同体の仕組みがくずれ、打ち続く天災や人災の明暦の大火や関東大震災や大空襲で失われた人々の遺体は尋常な弔いがなされたわけではなさそうだ。今に至るお江戸の繁栄は人々の累々とした死体のうえに築かれたものだ。高度成長期の大開発時代を迎え、「文化財保護法」はあっても、骨を掘り当てた土地は公共の用途に回されたようで、行き場のない怨霊が「学校の怪談」を生む背景だったようです。人の住むその地史がこんなに興味深く思えたことはありませんでした。

 お薦め度:★★★  対象:骨に学び、地史に出会おう、と言う人に

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