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本の紹介「完訳 ファーブル昆虫記 第1巻 上」

「完訳 ファーブル昆虫記 第1巻 上」ジャン=アンリ・ファーブル著、集英社、2005年11月、ISBN978-4-08-131001-2、3600円+税


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【萩野哲 20230120】【公開用】
●「完訳 ファーブル昆虫記 第1巻 上」ジャン=アンリ・ファーブル著、集英社

 第1,2章はスカラベ・サクレ。糞塊を見つけて糞球をつくり運ぶ。時に運搬はペアで行われているが、彼らは夫婦ではなく、糞球を作って運ぶ努力家と、協力者のような顔をして近づく泥棒である。不幸にして盗まれた場合、努力家は1からやり直す寛容さを持っている。ファーブルはこれら全てに感嘆する。第3〜7章はツチスガリやアナバチ類の狩り。狩猟の対象はハチ種ごとに決まっていて、麻酔箇所への手術の手際はヒトの生理学者も及ばない精緻さである。半面、獲物を巣穴に収納する途中で妨害されると、獲物を放棄したり、獲物の入っていない巣穴を丁寧に埋め戻したり、柔軟に対応できない愚かさを併せ持っている。これらの観察に基づいて進化論を否定するファーブルも昆虫同様、頑固だ。最愛の息子、ジュールの貢献も見逃せない。

 お薦め度:★★★★  対象:Everyone
【里井敬 20230221】
●「完訳 ファーブル昆虫記 第1巻 上」ジャン=アンリ・ファーブル著、集英社

 約100年前にファーブルが著した昆虫記を、昆虫に詳しいフランス文学者が新たに訳した本。訳者の方が前書きで書いているように、虫嫌いの人でも楽しく読める。南フランスに憧憬を覚えながら、ワクワクしながら読める。完訳ということで、描写が細かい。細か過ぎて怖い所もある。糞ころがしの話はスカラベの採集の苦労話が面白いし、巻頭の写真も良い。アナバチは幼虫の為に玉虫、コオロギ、バッタと種類によって集める虫が違う。それを生きたまま長期間動かなくする、脳神経医師顔負けの術を持っている。脚注や訳注で、詳しく、新しい説の解説がある。

 お薦め度:★★★★  対象:ファーブル昆虫記を初めて読む人は無論、子供の時にワクワクしながら読んだ人
【西本由佳 20230218】
●「完訳 ファーブル昆虫記 第1巻 上」ジャン=アンリ・ファーブル著、集英社

 最初に出てくるのは、いわゆるフンコロガシ。ひたすらに観察して、2匹で仲良くフンを転がしているように見えるフンコロガシが全然協力などしていないことを見つける。本の大方を費やしているのは、狩りをして獲物を穴にしまって卵を産みつけるタイプのハチたち。普通に採った昆虫は置いておくと乾いたり腐ったりするのに、どうしてこのハチたちの獲物はとても新鮮な状態を保っているのだろう、という謎がとかれる。ハチは解剖学的な正確さで獲物を刺し、殺さず麻痺させる。なぜ、それほど正確に都合のいい獲物を選び、位置を定めて刺すことができるのか。そこに生きものの本能の「賢さ」を見つけることができる。ただし、それだけいつも正確な本能は、まったく融通のきかないプログラム(本能の「愚かさ」)であることをファーブルは見つけ出す。ひたすらに生きものを観察することの意義とおもしろさが伝わる本だった。

 お薦め度:★★★★  対象:名前は知っているけどまだ読んでいない人。プログラミングを習った人は、ハチの行動をプログラムにおきかえてみて、この本能の「愚かさ」はどういう仕組みでこうなるのか、ということから本能について考えてみるといいかもしれない
【森住奈穂 20230223】
●「完訳 ファーブル昆虫記 第1巻 上」ジャン=アンリ・ファーブル著、集英社

 ファーブルさんは今年生誕200年。本書の訳者まえがきには、この本の魅力が完璧に表現されている。曰く「ここには、虫の生態はもちろんであるが、南フランスの美しい風景があり、十九世紀フランスの歴史と社会がある。そしてまたファーブルの思想と自伝風の想い出があり、自然に対する畏敬の念と驚きと発見の喜び、つまり学問への愛と情熱、さらに詩がある。」。第1巻上には有名なフンコロガシと狩りバチの話が収められている。時には変人扱いされながら、真理探究に生涯情熱を傾けたファーブルさん。輝きは決して色褪せず、読み返すたびに新たな発見がある名著。

 お薦め度:★★★★  対象:感受性を磨きたいひと
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