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本の紹介「不自然な自然の恵み」
「不自然な自然の恵み 7つの天然素材をめぐる奇妙な冒険」エドワード・ボズネット著、みすず書房、2023年12月、ISBN978-4-622-09664-1、3600円+税
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【西本由佳 20241123】【公開用】
●「不自然な自然の恵み」エドワード・ボズネット著、みすず書房
金融業界で働いていた著者は、アイダーダウンが、生きたコケワタガモを野生のまま保護することによって、その離巣後に採れるものだと知る。そこに自然との共生という理想を感じた著者は、天然素材の採集の現場を取材し始めた。アイダーダウンは確かにカモを傷つけないが、捕食者を殺す必要があった。アマツバメの巣を得ることは完全にビジネスと化していた。本当に野生のままのジャコウネコから得られるシベットコーヒーは、市場に乗せられるほどの量にはならない。商品としての扱いを拒むシーシルクの生産者は、拒むことで別のものを商品化していた。家畜化のしにくいビクーニャの毛刈りが本当に保護につながるのかという疑問が残った。「木に生える象牙」の採取は、確かに血なまぐさくはないけれど、その存在する生態系に影響を与えないものとは言いにくい。グアノの採取は今は鳥を傷つけないけれど、未来はあまり明るくない。そして、時に危険を伴う採集人たちが手にする財は、市場の評価に比べてわずかなものだ。地元でただ自然の恵みとして珍重されるはずのものが、市場経済に組み込まれると、なんだかいびつなものになっていく。というか、倫理的に問題の多く指摘される畜産や環境負荷のかかる産業の産物に囲まれて無頓着に生きている(私も含めた)現代人が、こういう嗜好品に「自然との共生」のきれいな物語を求めたがるのって何なんだろう。
お薦め度:★★★ 対象:「自然との共生」について考えたいなら
【萩野哲 20241213】
●「不自然な自然の恵み」エドワード・ボズネット著、みすず書房
本書は比較的希少な、または局在する7種の天然素材について考察している。一見適正に管理されているが、著者が現地に赴いて詳しく調べると、そうではない実態が見えてきた。捕食者等の同じ生態系を構成する一員へのしわ寄せ、採取者の余りにも過酷な労働や少ない取り分、ありえない生産量、出所不明な原料、怪しい効能、富の独占、などなど。それぞれの問題点は共通する場合もそうでない場合もあるが、厳に存在する。本書に挙げられた7種以外でも思い当たる事例に枚挙に暇はないだろう。自然は脆く、人間の欲望には限りがない。
お薦め度:★★★ 対象:いつも食べているものや利用している動植物についてもっと深く考えてみたい人、または、ロマンよりも現実を求めたい人
【和田岳 20241220】
●「不自然な自然の恵み」エドワード・ボズネット著、みすず書房
原題は「Harvest」。Harvestと言っても、農業や畜産業のような育てての収穫ではなく、漁業や狩猟のように対象を殺す収穫でもない。対象を傷つけずに、自然界から収穫することができる7つの天然素材が紹介される。
巣から採取するアイダーダウンやツバメの巣。糞を採取するコピルアックとグアノ。そしてビクーニャの毛やサイの角。かつては、動物を殺し、追い散らしての収穫だったが、動物が減少してしまい、動物にダメージのない収穫に変わってきている。しかし、実はそれも、それほど生物多様性や持続可能性に配慮はされていない。
その中で、シーシルクとタグアは異質。タグアは普通にゾウゲヤシの実。シーシルクは、シシリアタイラギの足糸からつくられた繊維。美しい金色の糸を目当てに乱獲され、現在では採集禁止。でも、シシリアタイラギを殺さずに足糸を収穫できるという教祖様がいて。はたして、それは本当なのか? というミステリ仕立て。でも結局、真実はよく判らず。
お薦め度:★★★ 対象:人と自然の関係に興味のある人
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