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本の紹介「言語の本質」
「言語の本質 こどばはどう生まれ、進化したか」今井むつみ・秋田喜美著、中公新書、2023年5月、ISBN978-4-12-102756-6、960円+税
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【和田岳 20241025】【公開用】
●「言語の本質」今井むつみ・秋田喜美著、中公新書
赤ちゃんは、なぜか言葉をしゃべれるようになる。大きくなると抽象的なことまで話し出す。どうして言語を習得できるのだろう?
言語学の専門家と、認知科学・発達心理学の専門家が、オノマトペ研究を足がかりに、子どもの言語習得の謎を追求するし、言語はどのように発達したのかを考える。
オノマトペのアイコン性からはじまり、言語とのつながりを考える。その上で、子どもの言語習得の話。ことばの音が身体に接地する第一歩としてのオノマトペ。そして、アブダクション推論によって、非論理的に一般化しつつ、言語を習得していく。
非論理的な推論が言語習得に必要というのが面白い。あと「チャトラスラム」と「グンドランガ」のどちらが"丸い"を意味する? といった問題がまあまあ正解できてしまうのが面白すぎ。電車の中で声が出てしまった。
お薦め度:★★★★ 対象:日本語を使うすべての人
【里井敬 20241219】
●「言語の本質」今井むつみ・秋田喜美著、中公新書
赤ちゃんが初めに接する言葉であるオノマトペ。擬音語や擬態語であるが、国により、また方言により異なる。感覚イメージを写しているが非母語話者には理解が難しい。日本語はオノマトペが多い。名詞、副詞、動詞の一部に使われている。そのためか日本語の「歩く」はオノマトペ+歩くで表せる単語も英語では140以上に分かれている。
物には名前があるという気付きを赤ちゃんがするのは、ヘレンケラーの「水」と同じだ。言語の始まりはオノマトペであっても、単語が増えていくとオノマトペでは対処できなくなる。オノマトペでは作りにくい概念の分野もあるし、論理的関係を表すオノマトペはどこの国の言語にもない。
認知科学で「記号接地問題」があるが、『物』の名前を知って言葉で説明できるだけではその『物』を知ったことにはならない。直接経験してその『物』が分かる。AIにはそれができない。チンパンジーの実験で訓練された方向の対応はできるが、ほとんどのチンパンジーでは、その逆はできない。1頭の「クロエ」だけは出来た。言語の進化はヒトの遠い祖先のどこかから徐々に生まれてきたと考えられるのではないか
。
お薦め度:★★★★ 対象:言語の本質・進化を考えたい人
【萩野哲 20241018】
●「言語の本質」今井むつみ・秋田喜美著、中公新書
言語はどのように生まれたのだろうか?著者たちはまずオノマトペの役割を考察する。アイコン性があり、音からも意味が分かるので、言語習得において、子どもに言語の大局観を与える。しかし、同概念のオノマトペは似た音を持つため、情報処理の負荷が重く、学習効率を阻害する面もあるので、意味と音の間が恣意的なオノマトペ以外の単語が進化する。そのような状況でも、子どもは「モノやコトには名前がある」という最初の洞察さえ得られれば、新しいことばを覚え、母語の音やリズムの体系、音と意味の対応付け、語彙の構造などを自分で発見(推論)しながら学んでいくことができる。その際、前提と結論をひっくり返してしまう対称性推論ができるのはほぼヒトだけのようだ。たとえ間違っていてもこの推論を行うことが、複雑な言語を進化させたヒトの原動力なのだろう。
お薦め度:★★★ 対象:言語の本質あるいは複雑な言語を持つヒトの性質について洞察を得たい人
【森住奈穂 20241025】
●「言語の本質」今井むつみ・秋田喜美著、中公新書
認知科学の未解決問題「記号設置問題」。もともとは人工知能の問題として考えられたもので、記号(ことば)の意味を理解するには、身体性(設置)が必要か、というもの。本書はオノマトペを鍵にして、「記号設置問題」「言語習得」「言語進化」「言語の本質」へと迫る知的冒険の書。なかでも第6章で述べられるアブダクション(仮説形成)推論には瞠目した。第7章では人類の進化にまで話がおよび、チンパンジーのクロエちゃんにはさまざまな事を考えさせられる。二人の著者は言語学と認知・発達心理学を各々の専門とし、思考のキャッチボールをしながら5年以上もかけて本書を編み上げたのだそう。深い思索の賜物だ。
お薦め度:★★★ 対象:「人間とは何か」を感じてみたいひと
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