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本の紹介「密かにヒメイカ」

「密かにヒメイカ 最小イカが教える恋と墨の秘密」佐藤成祥著、京都大学学術出版会、2024年10月、ISBN978-4-8140-0557-4、2200円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。

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【森住奈穂 20250424】【公開用】
●「密かにヒメイカ」佐藤成祥著、京都大学学術出版会

 体長2cmほどの小さなイカ、ヒメイカ。背中からネバネバ粘液を分泌、沿岸の藻場でアマモなどの海藻にくっついて身を隠しながら生活している。口が長く伸びて、甲殻類を捕まえると殻の隙間から口をねじ込み中身だけを食べる。マイナーでユニーク、著者はそんなヒメイカの繁殖行動、なかでも雌の配偶者選択を研究の柱に据える。後書きにある通り「自分語りが多め」で、研究者人生がとても正直に描かれている。ヒメイカ研究の先輩である春日井さん、なんていい人なんだ!本シリーズ第5巻でハクセンシオマネキを研究していた竹下さんは、墨吐き行動の共同研究者として登場。たくさんの関係者が登場し、行く先々でお世話になっている。

 お薦め度:★★★  対象:生きもの研究者への道のりに興味があるひと
【里井敬 20250423】
●「密かにヒメイカ」佐藤成祥著、京都大学学術出版会

 学歴コンプレックスを払拭するために進学した大学院で、指導教官から提案されたヒメイカ(アマモに生息する2cmぐらいの世界最小のイカ)の研究をすることに。繁殖は精莢を受け渡しによる交接をする。交接後、雌が『ついばみ』により精莢を排除し雄を選別していると考え、論文を書いたが「自分のたてたストーリーを重視しすぎて、実がない」という指摘を受ける。その後も実験環境だけでなく自然界での繁殖行動やDNAの解析で父性を調べている。その過程で墨吐き行動の特殊性に気づく。他のイカでは防御の際に墨吐きをするが、ヒメイカでは攻撃の前に墨を吐きその後捕食する事例が見られた。その他、世界のヒメイカを調べ交接の仕方が異なるヒメイカを沖縄で見つけ、新種発見につながっている。前半は読み物として躍動感があって楽しい。

 お薦め度:★★  対象:ヒメイカの生態を知りたい人
【中条武司 20250424】
●「密かにヒメイカ」佐藤成祥著、京都大学学術出版会

 「アマモ場の妖精」(「流氷の妖精」クリオネよりずっと可愛い)と個人的に呼んでいるヒメイカの繁殖をはじめとした行動と、筆者のすったもんだの研究人生が書かれている。交接の際のついばみ行動や精莢のやりとり、墨による捕食者へのだましのテクニックなど、小さなヒメイカに面白い行動が数々紹介される。研究の紹介と共に、本人の学歴コンプレックスや研究対象への思い入れのなさなどをいろいろ述べているが、そんなひとはポスドクまで残って研究しようと思わない。ちょっと卑下しすぎじゃないかな。

 お薦め度:★★  対象:ヒメイカを見たい人、見たことある人
【萩野哲 20250415】
●「密かにヒメイカ」佐藤成祥著、京都大学学術出版会

 アマモ場で採集した人ならだれでも知っていると思われるヒメイカだが、漁業の対象でもないため生態や行動はほとんど知られていなかった。最初から動物に興味があったわけでもない著者は指導教官の思い付きでヒメイカ研究を始めた。著者は“密かな雌の配偶者選択”(CFC)に着目する。通常の生物では検証が難しい行動だが、ヒメイカではオスが付着させた精莢をメスが除去するついばみ行動が観察できるので理想的な生物だ。墨のもつ防御効果も映像化によりよく理解できた。
 しかし、自分の劣等感、思い込み、他力本願、失敗などの、読者にとって不要と思われる情報が余りにも多いのがイラッとする。そんなもんの代わりにいろいろなことが知られているはずの他のイカ類との比較情報を盛り込んでほしかったと思う。

 お薦め度:★★  対象:ヒメイカの一部情報が知りたい人
【和田岳 20250423】
●「密かにヒメイカ」佐藤成祥著、京都大学学術出版会

 大阪府でも泉南の砂地の浅い海に生えたアマモ場では、ヒメイカが見られる。小さくて可愛いけどこれで成体、一番小さいクラスの頭足類。ってとこまでは知っていたけど、それ以上は知らない。ヒメイカのいろいろが知りたくて、この本を手に取った。波瀾万丈の著者の研究者としての歩み、と同時にヒメイカの行動・生態が徐々に解明されていく。
 修士課程時代、指導教員の思いつきで提案されたのが、ヒメイカの研究。分布域の北限近い地で採集を繰り返して、生活史を明らかにしようとしたら、死滅回遊疑惑が。博士課程、テーマを繁殖行動の研究に切り替え。交尾後の密かなメスの配偶者選択を明らかにすること。で、愛知県で採集してもらったヒメイカを使って、水槽内での観察。ポスドク時代は、精子競争の重要性と捕食リスクの影響評価。ついでにイカ墨を使った捕食行動と捕食者からの逃走行動。
 年2化で、春に出現する大型世代と夏の小型世代。求愛行動なしの交尾。墨を使った捕食と、捕食者からの逃走。確かにヒメイカのことをいろいろ知ることができた。

 お薦め度:★★★  対象:ヒメイカのことが知りたい人、研究者を目指す人生の紆余曲折を知りたい人
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