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本の紹介「標本画家、虫を描く」

「標本画家虫を描く 小さなからだの大宇宙」川島逸郎著、亜紀書房、2024年7月、ISBN978-4-7505-1845-9、2000円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。

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【萩野哲 20250206】【公開用】
●「標本画家、虫を描く」川島逸郎著、亜紀書房

 種の特徴を示すのに、写真では不十分なことは多い。このため、研究者や標本画家はより細部がよくわかる細密画を描く。本書に載せられた標本画の美しさに圧倒される。著者は標本画を“標本と科学的な知見をもとに、対象となる生き物の標準的な姿形をグラフィックスとして示すもの”と定義する。形態学的にも解剖学的にも正確さを追求するのは言うまでもない一方、描きこむ情報の整理、抽出、省略が最重要であるとする。このため、標本の立体感や光沢をわかりやすく表現するのに、実際にはない点や線を描いたり、ハイライトを残したりする。昆虫は特にそのような情報操作が必要な題材だと思う。参考のため、盛口満著「生き物の描き方」ではどのようにしているかも調べてみた。情報操作はそれぞれの画家の匙加減次第。ゲッチョ風に言えば、“ウソのつき方を身につけよ”だ。

 お薦め度:★★★  対象:標本画の超絶技巧を見たい人
【里井敬 20250213】
●「標本画家、虫を描く」川島逸郎著、亜紀書房

 幼稚園の頃から虫の絵を描くのが好きで、標本画を描くため大学で昆虫学の研究室に入ります。小さな虫を観察するために顕微鏡を覗き、構造を知るために解剖もします。2次元の構造を示すためには線で描き、立体構造は点で描きます。
 いくつもの種類を見分けるためには、線で各部をスケッチし後で全身像へ合成します。標本画は学術的根拠に基づくものなので、想像で描くことはありませんが、『完訳ファーブル昆虫記』の挿絵の時は生態写真しか入手できないこともあり、日本の近縁種を土台にして切り抜けました。
 ありふれた虫の絵を描くこともあります。一見つるつるに見えるナナホシテントウは実は凸凹がいっぱいであったり、ゴキブリは基本的な構造をした平均的な昆虫であることが分かります。
 なぜ標本画で絵画の世界に向かわなかったのか。絵を描く事と生き物(虫)の両方が好きだったこと。それで手書きの標本画の精度を高めてきた。種類を見分ける為の線画はもちろん、点で描いた立体画は素晴らしい。

 お薦め度:★★★  対象:図鑑の挿絵に感嘆したことのある人
【和田岳 20250213】
●「標本画家、虫を描く」川島逸郎著、亜紀書房

 昆虫の標本画家として名高い著者が、自身の生いたちと画家としての成長、自身の標本画へのこだわりと技術を語った一冊。大部分はWEBマガジンへの連載をまとめたもの。著者自身の細密画が大量に投入される。
 最初の4篇は、幼少の頃から大学の研究室に入るまでの生いたち。続く8篇ほどは自身の標本画の描き方の解説。そして、失敗談、いろんな企画に関わった話。ここまでで2/3ほど、そしてここまででネタは尽きたらしい。あとは、個別の昆虫の話。
 昆虫の形態についで多少は勉強になるが、体系だったものではない。著者の標本画のこだわりは判るが、絵の描き方が学べるとはいいがたい。むしろ職人あるいはアーティストのこだわりや変人ぶりを楽しむ本。

 お薦め度:★★  対象:昆虫の標本画に興味がある人、または職人のこだわりが好きな人
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