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本の紹介「生物から見た世界」
「生物から見た世界」ユクスキュル・クリサート著、岩波文庫、2005年6月、ISBN978-4-00-339431-1、660円+税
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【和田岳 20140425】【公開用】
●「生物から見た世界」ユクスキュル・クリサート著、岩波文庫
中身はタイトル通り。動物は、それぞれの感覚世界に生きていて、動物の行動を理解するには、それぞれの感覚世界の理解が欠かせない。てな主張が展開される。そこには現代の研究者が見過ごしている重要な側面があるように思えてならない。
書かれた時代が古いので、中身に古い部分も多い。序章にある機械論と力動論の対立は今読むとなんのことやら分からない。ややこしい特殊用語も多い。でも、それをかき分けて読み進めるだけの価値はある。
原著は1933年に書かれた。日本での最初の訳本の出版は1970年。この本を初めて読んだのは、たぶん1980年代半ば。詳しくは覚えてないが、心に残る1冊だった。30年ぶりに再読して、がっかりだったら嫌だなと思ったけど、やっぱり色々と刺激になる。すごい本だなぁ。
お薦め度:★★★ 対象:動物がどんな世界に暮らしているか知りたい人
【六車恭子 20140221】
●「生物から見た世界」ユクスキュル・クリサート著、岩波文庫
1933年頃ユクスキュルがライフワークにしていた生物の「環世界」を論じる邦訳を学徒動員の工場で偶然手にしたことが日高氏のその後も揺すりつづけたのだろうか。動物機械論が趨勢であった19世紀から20世紀初頭ににこれほど細やかな視点が紡ぎ出されていたとは驚きだ。
冒頭、環世界を説明するのに盲目のマダ二が登場する。哺乳類の皮膚線から漂いでる酪酸の匂いが、見張り場から「身を投げろ!」という信号になり、温かい温度感覚がその標的のありかを教えるのだ。運良く獣の背に落下したダニは血にむさぶりつけるのだ。なんと18年間絶食しているダニもいるそうだ。知覚世界と作用世界が連動して彼の環世界が完結する。どの主体も事物のある特性と自分との関係を蜘蛛の糸のように紡ぎ出し、自分の存在を支えるしっかりとした網を織りあげているのだ。
この世界を散策するもうひとつの視座を獲得するすぐれた入門書になるだろう。
お薦め度:★★★ 対象:生き物に学ぼうとしている人
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