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本の紹介「生き物の「居場所」はどう決まるか」

「生き物の「居場所」はどう決まるか 攻める、逃げる、生き残るためのすごい知恵」大崎直太著、中公新書、2024年1月、ISBN978-4-12-102788-7、1050円+税


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【萩原哲 20240418】【公開用】
●「生き物の「居場所」はどう決まるか」大崎直太著、中公新書

 本書は生き物の「居場所=ニッチ」とは何かを6+1章で解説している。著者が研究していたのは第5章「天敵不在空間というニッチ」、第6章「繁殖干渉」であったが、本書を書いているうちにそれらの問題を人が捉えてきた歴史を辿り、第4章「競争は存在しない」、第3章「ニッチと種間競争」、第2章「生き物の居場所ニッチ」、更に第1章「「種」とは何か」を書き加えたらしい。そのおかげで、本書のようなコンパクトな書籍でニッチ研究のエッセンスを辿ることができる。あり余る資源の観点から競争がないと思われた植食者の世界でも繁殖を巡り競争が存在する。進化は深く考えて起こっていないかもしれないが、研究者は思い込みを捨てて深く考えなければ。そこに進化があるのだから。

 お薦め度:★★★  対象:進化の奥行きを知りたい人
【松岡信吾 20240425】
●「生き物の「居場所」はどう決まるか」大崎直太著、中公新書

 我々は動物や植物たちが昔からずっと同じ場所に棲んでいると思いがちだ。あたかもそれがずっと昔に神様が決めてくださったことでもあるように。その在り様が如何に神理にかなった合理的で美的なものであるのかをダーウィン以前西洋知識人たちは考えてきた。此の様なダーウィン以前の生き物たちの居場所についてその考え方の変遷を辿っていくことから、主として「種」とはなにかを巡って、最初の物語が始まります。
 そして、ダーウィン以降、神の計らい無しに如何にして生物たちは、同一種又は異種間における競争を通じてその生態系的な地位ーニッチー、居場所を獲得してきたのかについての、学説の変遷のお話が続きます。そうして、同じニッチ内では同一種は共存できないという、排除則が唱えられるようになり、ついには、生物たちの各種毎にそのニッチ・居場所を堅守している限り、そもそも「実際の生物界には競争は存在しない」のではないかというふうなことまでが考えられるようになるのですが…。
 此の様なテーゼの延長線上にあった、地球は緑の植物に溢れているので、植物を餌資源とする昆虫や動物などの植食者には餌資源を巡っての競争はないという「緑の世界仮設」がとなえられるが、著者等は実際には競争は存在して、それは生態学的な栄養段階における上位栄養段階の捕食者、捕食寄生者、寄生者、病原体などの天敵によるものではないか、「天敵不在空間」こそがニッチの生態学的地位ではないか、と見通しを立てて、地味で興味深い推論と実験を積み重ね、一歩一歩着実に検証、反証の研究を実施、結果の論文化、査読を経て学会有力ジャーナル誌発表までの話が後半の内容である。

 お薦め度:★★★  対象:居場所探しをしている学生から老人まで
【和田岳 20240426】
●「生き物の「居場所」はどう決まるか」大崎直太著、中公新書

 「居場所」とはニッチのこと。資源競争があまり激しくなく、競争排除が生じない状況下では、いかに捕食者から逃れるかが重要になり、捕食者から逃れる方法に基づくニッチ(天敵不在空間enemy-free space)を認めることができる。また、資源競争が生じない状況でも、繁殖干渉という種間関係によって、競争排除のような状況が生じる。
 というのが要旨なのだが、それが書いてある第5章と第6章に到達するまでに、延々と前置きが続き、分類学や生態学の歴史を振り返らされる。なにがテーマの本を読んでいるのか、何度も分からなくなる。終章では、最初からの話が要約して繰り返される。先にこれを読んで、第5章と第6章を読めば充分かも。

 お薦め度:★★  対象:ざくっとした生態学の歴史を知りたい人
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