【中条武司 20170824】【公開用】
●「人類と気候の10万年史」中川毅著、講談社ブルーバックス
水月湖の年縞という超一級の資料を手に入れた著者らは数年単位の気候変動を解き明かしていく。特に今から12000年前の最終氷期が終わる時代は数年単位で気温が乱高下し、そして急に温暖で安定した後氷期(現在に続く気候)に変わったということが明らかとなった。この変化は、天文学的な規則性とカオスな部分を併せ持った気候変動の特性ゆえに、事実が結果としてあるのみで、それが未来にどうなるかを示すものではない。しかし、気候が安定したものであるという妄想は、過去の気候からは否定されることがわかる。また人間の影響による地球温暖化は5000-8000年前からはじまっていたかもしれないという説はとても刺激的。文句を言うと、多くの研究を引いて本書を書いているのが分かるので、できれば文献リストをつけて欲しかった。
お薦め度:★★★ 対象:過去と未来の地球を考えるために
【西本由佳 20170820】
●「人類と気候の10万年史」中川毅著、講談社ブルーバックス
話のスケールがなんだか大きい。福井の小さな湖の堆積物の層を1枚1枚見ていくという地道な研究がこんな話になるとは思っていなかった。著者は福井県の水月湖で得られた7万年分の「年縞」から復元した気候をもとに、古気候の変遷と、気候変動が人類に与える影響について語っている。ローカルな地質調査が、世界標準につながる。論文でいう研究の意義をまるごと1冊にわたって書いているようで、実際それを信じているし、それだけの実績もある。こんな世界もあるんだなあと感心させられた。
お薦め度:★★★ 対象:地学って地味だと思っている人
【西村寿雄 20170814】
●「人類と気候の10万年史」中川毅著、講談社ブルーバックス
本書は、滋賀県北部にある水月湖で質のよい堆積層が見つかり、その掘削と分析を行ってその成果を過去15万年の気候変動につなげるという構想である。滋賀県北部にある水月湖は湖底が酸欠状態で生物の生息もなく堆積物に年ごとのサイクルがそのまま記録されているという。その採掘された堆積物から地球の気候変動を読み解くプロジェクトの活動経過が語られている。前半には数式も交えた気候変動の話が出てきて少々読みにくい。中程の水月湖の話は著者の前著『時を刻む湖』と重なる。『時を刻む湖』の方がはるかに読みやすい。水月湖の研究成果がどのように役立っていくのか、いま一つわかりにくい。
お薦め度:★★ 対象:第四紀の地質に関心のある人
【森住奈穂 20170824】
●「人類と気候の10万年史」中川毅著、講談社ブルーバックス
「気候」といえば、もっぱら「温暖化」と返ってくる昨今。過去100年間で北半球の気温は1℃上昇しており、この変化がいつまで続くのか、諸説入り乱れている状況だ。前著『時を刻む湖』では、福井県水月湖に沈む7万年分の堆積物(年縞)の発見から標準換算表に採用されるまでが描かれた。本書では、その年縞の花粉化石から過去の気候変動を読み解いてゆく。変動には周期があり、激しい時期と安定した時期が繰り返されてきた。激しい時期は現在の温暖化をはるかに凌ぐ急激なものであったらしい。人類はそんな激動の気候史を、寒冷期は狩猟採集で乗り切り、温暖期に入ると農耕を始めた。果たしてこれからどうなるのか。もし近未来に変動の激しい時期が始まったら…農業は崩壊、人口は激減、政情不安から戦争が始まり、文明はいっきに後退、猿の惑星の世界が到来するんじゃなかろうか…。著者は楽観的な要素として、人類の気候耐性はあのゴキブリをも凌駕する、なんて言っている。
お薦め度:★★★ 対象:「たかが天気」なんて言っているひと