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本の紹介「縄文時代を解き明かす」

「縄文時代を解き明かす 考古学の新たな挑戦」阿部芳郎編著、岩波ジュニア新書、2024年3月、ISBN978-4-00-500982-4、940円+税


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【ケンタロウ 20241018】【公開用】
●「縄文時代を解き明かす」阿部芳郎編著、岩波ジュニア新書

 この本は、動物考古学、植物考古学、考古科学、縄文時代の考古学を専門にしている4人の研究者たちが、「縄文時代とはいったいどのような時代だったのか」という問いかけを大切に縄文時代の生活の実態を明らかにするために、それぞれの専門分野で最新の研究成果を専門用語をほとんど使わないでわかりやすく紹介してくれている。5章で成り立っている。「考古学とはどのような学問か」からはじまり、「縄文土器とは何か」、「縄文人が食べたもの」、「人骨と土偶からわかる縄文人の生活」、さいごに「4人の研究者たちが研究者になったきっかけ、経緯」について説明されている。本書を通じてひとつのモノやコトを様々な角度から考えることの大切さも学ぶことができる。

 お薦め度:★★★  対象:縄文時代について興味のある人、考古学について知りたい人
【里井敬 20240920】
●「縄文時代を解き明かす」阿部芳郎編著、岩波ジュニア新書

 従来は土器の模様や形、用途の研究が主だったが、それまで捨てられていた土器にこびりついたオコゲを調べることでいろいろな事が見えてきた。縄文時代は寒い時期の1万6500年前から2500年前まで続く。窒素の同位体から、初めは魚介類の加熱に用いられた事が分かった。海の近くだけでなく山奥でも同じ結果が得られることから、日常の調理ではなく特殊な祭りのための道具であったと考えられる。1万年前ぐらいから調理に使われていたようだ。オコゲの窒素の同位体の比率から、海産か陸産のどちらを多く食べていたかが分かる。塩作りに関しては手がかりが少なかったが、アマモに付着していることの多いウズマキゴカイの棲管が灰の中から見つかったことから、アマモを焼いて塩を得ていたと考えられた。またそれに用いられた土器も浅いものから深いものへと変化していったと考えられた。人骨の同位体から食生活が分かる。肉をたくさん食べている人は植物をたくさん食べている人より窒素15が多い。同じ肉でも海産物が多いと炭素13が増える。

 お薦め度:★★  対象:考古学の進歩を知りたい人
【森住奈穂 20240919】
●「縄文時代を解き明かす」阿部芳郎編著、岩波ジュニア新書

 およそ1万6500年前から約1万4000年間も続いた縄文時代。私たちの先祖はどんな暮らしをしていたのか。従来の考古学から近年では研究の細分化が進んで自然科学に近しい領域もあるそうな。そうした新しいアプローチを4人の専門家が紹介している。対象は縄文土器についたオコゲ、貝塚の骨、植物遺体や花粉、土器の種実圧痕など。なかでも遺跡の灰に残ったウズマキゴカイの棲管から塩作りの起源を探る章は面白かった。縄文人の暮らしぶりがどこまで解き明かせるものなのかは分からないけれど、判明した事実からあれこれ想像してみるのは楽しそう。

 お薦め度:★★★  対象:現在の考古学研究について知りたいひと
【和田岳 20240918】
●「縄文時代を解き明かす」阿部芳郎編著、岩波ジュニア新書

 編者と3名の著者が、縄文時代を扱う最新の考古学を紹介する一冊。編者による第1章は、考古学を紹介するイントロらしいが、妙に読みにくい。第2章から読むと良い。
 第2章は、縄文土器の話。何を料理していたかを、土器に付いたお焦げを安定同位体比で分析。ウズマキゴカイと珪藻を手がかりに、製塩土器の発見。第3章は、縄文人が利用していた動植物の話。動物考古学では、縄文時代の漁労を明らかに。花粉分析などを駆使した植物考古学では、ドングリ・クリ、ウルシ、そして編みと組みに利用した植物の話。木材・ツルの利用地域と、ササの利用地域に分かれつつ、さまざまな植物が道具として使われていたという話は面白かった。第4章は、人骨と土偶。人骨の安定同位体比で、縄文人の食物に迫る。
 安定同位体比などを使って、縄文時代を科学の手法を解き明かそうとする研究は、新鮮で面白い。

 お薦め度:★★  対象:縄文時代の人々の暮らしに興味のある人
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