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本の紹介「飼い喰い」
「飼い喰い 三匹の豚とわたし」 内澤旬子著、岩波書店、2012年2月、ISBN978-4-00-025936-4、1900円+税
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【六車恭子 20120629】【公開用】
●「飼い喰い」内澤旬子著、岩波書店
皮膚感覚で世界を探る内澤ワールドがたどり着いた究極の体験ルポだろうか!韓国の仁寺洞で美本をあさっていた駆け出しの頃、それからアジアのトイレ事情を探る旅を経て、「世界屠畜紀行」で彼女の詳細なイラストと文による内澤マールドはひとつの極点を見る。さてその先は、と注目していると、それは何かしっぺ返しのような様相を帯びて提出された。世界をつかむ内なる旅を実現するならかくありなん、汗と日々の労働と命に至る循環の物語である。そこには彼女の行為を見守り、助言し、夢を共有しようとする仲間たちの絆にあふれている。「伸、夢、秀」と呼ばれた三匹の豚たちが韓国、タイ、フレンチに変身し体内をめぐり、豊かな食卓へと昇華して終わるのだ。ふれあったもの総てに訪れる至福の時間、とでも呼べるだろうか。伸の頭蓋と並ぶ著者の写真はまるで愛児と並ぶ風情である。世界の豊かに気づく一冊である。
お薦め度:★★★★ 対象:日々の暮らしからアンニュイを追放したい人
【加納康嗣 20120629】
●「飼い喰い」内澤旬子著、岩波書店
世界の屠畜ルポを極めた筆者が、3品種の豚3匹の軒先飼育から製肉にして食べるまでの実体験ルポ。こんなことを考え実践するなど想像を絶する。生々しい体験を軽妙に語り、イラストをかき、つぶして食べた中ヨークシャー「伸ちゃん」の頭骨と写真に納まっているが、個性的で愛らしい3匹をつぶす葛藤と旺盛な好奇心に引きこまれていつの間にか読み終わっていた。出だしの種付け作業は、手取り足取りペニス取りがまた愉快というか、哀れというか。数頭分の精液をビンの中で混ぜ合わせてさらに人工授精させるなど生殖とは何かを♂として悲しく考えてしまった。養豚の現状、口に入るまでの過程が明らかになり、一切れの肉片に何となく神妙な味がするようになった。メッチャ面白い。
お薦め度:★★★★ 対象:肉を食べる人
【冨永則子 20130422】
●「飼い喰い」内澤旬子著、岩波書店
世界各地の屠畜現場を取材してきた著者が、どうしても「肉になる前」の豚を知りたいと、受精から立ち会って、三種三頭の豚を育て、屠殺して“食べる会”を開くまでの体験ルポ。
「命の学校」のような話かと斜に構えて読み始めたが、事の成り行きが余りにも見切り発車に進むので、読んでいてハラハラさせられる。
実際に豚を飼い、一頭一頭に名前を付け、思いっきり感情移入して育て上げ、屠殺の瞬間に立ち会い、肉として余さず食す。その肉を口にした時、「帰ってきてくれた。私のところに戻ってきてくれた」という感覚になったという。やはり、ただ肉を食するだけでは得られない感覚だろう。
ちゃんと信仰する宗教は敢えて持とうとしなかったと著者は言うが、三頭の頭蓋骨に水と塩を供え、手を合わせてしまう自分に苦笑しつつも止められないとか…
スーパーマーケットの肉売り場にパック詰めされた切り身の肉の前に、こんなに沢山の人の関わりがあったことに改めて気付かされた。
お薦め度:★★★★ 対象:豚肉好きに 豚を飼ってみたい人に
【萩野哲 20120618】
●「飼い喰い」内澤旬子著、岩波書店
私たちが口にする肉はどのようにして生産されているか?前作「世界屠畜紀行」は家畜がどのように肉になるかを調べたものであるのに対し、本書はそれでは描ききれなかった、前段階の家畜の飼育を扱ったものである。そのために、著者は自ら豚を飼育し、出荷し、食べるまでを体験した。飼育の技術的な面もテーマではあるが、やはり自分が育てた豚を殺し、食べることができるか、という面が大きなテーマとなっている。悩みながらも、当初の目的をやり遂げる過程は読者の共感を呼ぶだろう。大部分の人は肉を食べているので、豚とはどういう生き物なのか、普段見ることのない畜産の現場はどうなっているのか、大いに気になる情報源である。
お薦め度:★★★★ 対象:肉を食べる全ての人
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