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本の紹介「カラスはなぜ東京が好きなのか」
「カラスはなぜ東京が好きなのか」松田道生著、平凡社、2006年10月、ISBN4-582-52731-0、1800円+税
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【和田岳 20070629】【公開用】
●「カラスはなぜ東京が好きなのか」松田道生著、平凡社
東京の六義園周辺で、2000年から5年ほどにわた調査結果をもとに、カラスの繁殖生態と人との関わりを紹介。データを基にして、過去のカラス研究の成果も踏まえ、現時点で日本で一番しっかりしたカラスの紹介本といっていいだろう。
観察してると、カラスにすぐに覚えられてしまい、なわばりに入るやいなや威嚇を受けたり、騒がれたりするらしい。その反応の仕方が個体によって違うのだと言う。カラスの行動から個体識別ができてしまうというのが面白い。
後半では、やむを得ず、カラスの巣落としに関わる経緯などが紹介される。そこまでカラスを目の敵にしなくてもいいだろうに、と思うくらい東京では熱心にカラスの巣を落とすらしい。人の反応の方に、パニックに近い異常を感じてしまうほど。巣落とし効果に対しても、そのやり方次第ではあまり効果がないことを、データを示している。カラスとのつきあい方を考えるにも最適の本。
お薦め度:★★★★ 対象:鳥の研究に興味のある人、あるいはカラスは恐いと思っている人
【福西勝之 20070629】
●「カラスはなぜ東京が好きなのか」松田道生著、平凡社
長年にわたって東京都内に、南北約1.5km、東西約1.0kmの調査範囲を設けて、巣の観察を中心に精力的に調査されたカラスの生態記録が紹介されている。カラスの細かな生態例えば人を威嚇する時の威嚇程度(威嚇をする段階)やストレスが溜まって行う転移行動などが紹介されており、読後はカラス嫌いもなんとなくカラスも隣人と感じさせるのではないかと思わせる好著で、調査時の苦労話も笑えるところがあり、読みやすい1冊である。
お薦め度:★★★ 対象:いろいろな人
【六車恭子 20070628】
●「カラスはなぜ東京が好きなのか」松田道生著、平凡社
著者は日本野鳥の会の大幹部、おそらく東京のカラス問題の専門家と目されるており、マスコミや行政双方のパイプ役もこなしつつカラス問題、カラス事情の最前線を伝える優れた読み物にしあがっている。本のタイトルと中身の微妙なずれにむしろ好感が持てる。科学読み物をよそおいながら、隣人カラスたちの物語をドクメンタリータッチで描いてしまったのだ。
2001年から始まった東京都のカラス捕獲事業で2003年までに累計4万羽が駆除された。著者の調査地、文京区六義園周辺もその限りではなく、その経緯の中での観察であった。本来森林性のハシブトガラスが都会の建造物の谷間を飛び交い、見事に適応して子孫を残す。人々の廃棄するゴミがかれらに子育てを容易にする餌を豊富にもたらしてくれるのだ。しかしたくさん生まれても死ぬ定めを生きる野生を見つめる視点はライフワークとしてのこれまでの試みから獲得してきたのだろうか。まず隣人カラスを知ろう!それからもカラスが教えてくれそうだ。
お薦め度:★★★★ 対象:どんなことも明日は我が身、と思える人に
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