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本の紹介「カタツムリから見た世界」

「カタツムリから見た世界 絶滅へむかう小さき生き物たち」トム・ヴァン・ドゥーレン著、青土社、2024年9月、ISBN978-4-7917-7673-3、2200円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。

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【萩野哲 20250206】【公開用】
●「カタツムリから見た世界」トム・ヴァン・ドゥーレン著、青土社

 ハワイでは約750種のカタツムリが確認されており、その大部分が固有種であった。しかし、過去100年の間に約450種が絶滅し、残りも非常に厳しい状況に置かれている。ハワイにとって激動の18世紀後半はハワイのカタツムリの運命を変えてしまった。ジェイムズ・クックのハワイ諸島(彼にとってはサンドウィッチ諸島)発見、カメハメハ大王のハワイ王国統一、アフリカマイマイ(これも人が導入した)駆除のために導入した貝食性のヤマヒタチオビ、過剰なカタツムリ収集、ハワイの伝統的文化の衰退、気候変動などが複雑に絡み合ってこの状況をつくっている。やや遅ればせながら設置された野外のエクスクロージャーや施設内の環境室が、これ以上の状況悪化を食い止めるわずかな希望となるのだろうか。

 お薦め度:★★★  対象:ハワイのカタツムリの現状とその原因を知りたい人
【里井敬 20250213】
●「カタツムリから見た世界」トム・ヴァン・ドゥーレン著、青土社

 ハワイには昔、樹上性の美しいカタツムリがたくさん住んでいました。急激に数を減らしたので、フェンスに囲まれたエクスクロージャーの中で保護されています。外来の肉食性のヤマヒタチオビというカタツムリが在来種を絶滅に追いやったからです。エクスクロージャーは厳重に外からの侵入を防ぐ工夫がされています。
 ハワイにどれほどたくさんのカタツムリが居たかは、博物館や個人の膨大なコレクションで知ることができます。コレクターたちの乱獲により数を減らしたという側面はあるが、博物館に残されている標本により種の研究が出来、絶滅した種を含めて新種の発見ができている。
 発見と同時に絶滅、カタツムリだけではない。多くの無脊椎動物の無数の種が知られることなく絶滅している。生物の保全は人気のある少数の哺乳類や鳥類に集中しすぎている。
 ハワイには軍用地が多く、その自然破壊も問題だ。軍による保全活動が行われているので、軍はカタツムリに好影響を与えているかもしれないが、理想的状況とは言えない。その他、気候の変動による生息地の移動も個体数の減少に関与している。
 ラボでの飼育も行われているが、そこで育ったカタツムリが帰る元の世界はあるのか。エクスクロージャーやラボで守りつつ、気候変動や森林保全に関する活動を広範囲に推し進めていく必要がある。

 お薦め度:★★★  対象:今まで、陸に住む貝って地味。と思っていた人
【西本由佳 20250209】
●「カタツムリから見た世界」トム・ヴァン・ドゥーレン著、青土社

 かつてハワイ諸島には何百もの種のカタツムリが生息していた。しかしそれらの3分の2はすでに絶滅したとされている。ポリネシア人の到来による農耕の開始とネズミの侵入、ヨーロッパ人の持ち込んだヤギやウシとプランテーション農業、19世紀のカタツムリの殻のコレクションブーム、天敵であるヤマヒタチオビの導入、軍事訓練による森の破壊。残っている種も未来は明るくない。特に深刻なヤマヒタチオビの捕食から守るため、軍の環境破壊の補償となる取り組みでなんとか保護しているような状況だ。小さな目立たない生きものの保護のために大した予算はさかれない。そして、種として記載されないまま消えていく生きものも多い。それでも、ここ数十年ほどでカタツムリ保護の状況は改善しているという。また、ヨーロッパ人到来以前にハワイに住み、この土地の自然とそれなりに持続的な関係を築いてきた人々や、その文化に関心をもつ人々によるカタツムリの文化的な価値の掘り起こしも進んでいる。ハワイのカタツムリは物語を必要としているという。それは、ただ消費して終わるだけの美談ではなく、土地で暮らしてきた人々が土地との関係性を再構築するものであり、カタツムリの生態系のなかでの存在を位置づけるものである必要がある。

 お薦め度:★★★★  対象:殻を背負った小さな生きものが気になったら
【和田岳 20250214】
●「カタツムリから見た世界」トム・ヴァン・ドゥーレン著、青土社

 大部分の種がすでに絶滅し、現存する種のほとんど全てが絶滅の危機にあるハワイ諸島の陸貝。その危機的状況に至る歴史と現状、そして保全のための取り組みを、ハワイ諸島のカナカ・マオリの文化と受難の歴史とからめて紹介した一冊。
 有名なハワイマイマイにはいくつもの種が含まれる。それ以外にもハワイ諸島にはさまざまな陸貝が生息し、その多くが固有種だった。しかし、人々による採集、生息地の破壊、肉食性巻貝ヤマヒタチオビなど外来生物による捕食によって、その個体数は激減。記載もされないまま絶滅した種も多くいる様子。かろうじて外来の捕食者を排除したエクスクロージャーで生き残る個体群。最初の数ページを読むだけで暗い気持ちになる。
 近年でこそ軍が陸貝の保全に手を出すようになり、カナカ・マオリの文化の復興の動きとともに、ハワイ固有の陸貝を守ろうとする運動も進められているが、その未来は明るいとは言えない。

 お薦め度:★★★  対象:ハワイの自然について興味のある人、陸貝の生態と危機を知りたい人
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