友の会読書サークルBooks

本の紹介「きっかけはコイの歯から」

「きっかけはコイの歯から 魚と米と人のかかわり」中島経夫著、サンライズ出版、2024年1月、ISBN978-4-88325-805-5、2800円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
 もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。
[トップページ][本の紹介][会合の記録]

【森住奈穂 20240919】【公開用有】
●「きっかけはコイの歯から」中島経夫著、サンライズ出版

 コイ科魚類の咽頭歯に関する形態学的研究を専門とする著者。コイ科はこの歯以外に歯がなく、種類毎に形や本数が違っているそう。歯科大学に就職し、走査型電子顕微鏡を使って咽頭歯の形態形成を調べまくり類型化した事。咽頭歯化石研究も並行、そこから見えてきた日本列島の淡水魚類相の発達史や琵琶湖の自然史について。琵琶湖博物館準備室に席を移し、博物館サポーターとの共同研究や、縄文遺跡から出土した咽頭歯が40万年前に絶滅したと考えていたクセノキプリスのものだったことから考古学にも研究対象が広がった事。あんな事こんな事、あったでしょう、と盛りだくさんな半生記。1960年代まで普通にあった水田漁撈。フナやコイが自由に出入りする水田、そんな景色がまた見られるといいなぁ。

 お薦め度:★★★  対象:コイの歯からいったい何が見えたのか、気になる人
【萩野哲 20240813】
●「きっかけはコイの歯から」中島経夫著、サンライズ出版

 顎に歯がないコイ科の魚は咽頭骨とそこから生える歯が発達している。著者は、何の規則性もないように見える、小さいものではミリ以下のサイズのコイ科魚類の咽頭歯の発生・発達段階や類型化を研究し、そこからコイ科の系統進化をも類推した。化石として発見される咽頭歯から、地史的な魚類相の変遷のみならず、当時の河川環境をも推定できる。貝塚などの遺跡から発見される魚類遺存体からは、当時の人がどのような漁労を行い、どのような魚をどのように保存加工していたかも想像できる。水田がコイやフナの生活環境や産卵場所を拡げ、一方で姿を消した種もいた。漁労も効率化され、コメの収量も増えた。1960年代から圃場整備事業が始まり米の収量のみが重視されるようになると、水田と魚の距離は離れていったが、今世紀になって本来の姿を取り戻しつつあるようだ。

 お薦め度:★★★  対象:微小な咽頭歯から何が判るか知りたい人
【和田岳 20240918】
●「きっかけはコイの歯から」中島経夫著、サンライズ出版

 琵琶湖博物館の名誉学芸員が、魚類学から古生物学・考古学へ、大学院以降の研究史を紹介した一冊。イントロによると、コイの歯からさまざまな事が判ることを伝えるのが目的とのこと。
 最初は魚類学。第1章は、咽頭歯研究のきっかけ。ワタカを調べようとして失敗。で、第2章は、ホンモロコの咽頭歯研究。第3章、歯科大学に就職して、コイ科の咽頭歯研究を本格化させる。
 第3章の途中から化石に手を出す。ワタカ化石にはじまり、さまざまな咽頭歯化石を研究し、対象は古琵琶湖から東アジアに発展。
 第4章で琵琶湖博物館での考古学的展開。咽頭歯研究から、日本の魚類相、そして縄文文化・弥生文化を語りはじめる。イネと同時に魚を育てる場としての水田という視点は面白い 。

 お薦め度:★★  対象:咽頭歯について詳しく知りたければ
[トップページ][本の紹介][会合の記録]