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本の紹介「寄生生物の果てしなき進化」

「寄生生物の果てしなき進化」トゥオマス・アイヴェロ著、草思社文庫、2021年12月、ISBN978-4-7942-2745-4、1600円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。

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【萩野哲 20250614】
●「寄生生物の果てしなき進化」トゥオマス・アイヴェロ著、草思社文庫

 マダガスカルのネズミキツネザルの寄生虫を研究する著者がフィンランドのTiede誌に執筆しているブログ「全ての背後にはパラサイトがいる」を元にまとめた著作。この本に登場する寄生虫は眼に見えるヤツからウイルスまでを含んでいる。ヘタな紹介文は不要である。なぜなら、1~8章までの目次:「なぜ感染症があるのか」、「どこから感染症はやってくるのか」、「なぜ人間はこれほど多くの感染症を持つのか」、「なぜ危険な感染症とそうでないものがあるのか」、「いかに感染症から逃れるか」、「なぜ特定の感染症は撲滅できないのか」、「なぜ感染症は次から次に生まれるのか」、「環境はどのように感染症拡大に影響するのか」、がその内容を示しているからだ。各々、世界を震撼させた感染症や寄生虫の歴史、生態に加え、“なぜ”が語られ、内容を深くしている。9章の「コロナウイルス大流行が世界を大混乱に陥れた」はパンデミックの最中、2020年秋に追加で書かれた。スーパースプレッダーやウイルスの変異はもちろん、各国の対応や弱者たちの問題にも触れており、今後来るべき次のパンデミックの際の有用な情報となるだろう。最後の10章「人間は感染症なしに存在しうるのか」では“行き過ぎた清潔さ”の問題を取り上げている。まだまだわからないことも多いが、「アンナ・カレーニナ」の家族の比喩は人間の細菌叢には当てはまらない。

 お薦め度:★★★  対象:パラサイトに対する考えをリセットしたい人
【和田岳 20250626】
●「寄生生物の果てしなき進化」トゥオマス・アイヴェロ著、草思社文庫

 マダガスカルでネズミキツネザルの糞を採集して、その寄生虫を研究しているフィンランド人研究者。そんな著者が、パラサイト(寄生生物)の進化、とくにヒトの感染症について語った一冊。
 第1章は、寄生の普遍性、ヒトの体の中の多様なバイオーム(連れ合い種)の存在、パラサイトとの終わりなき軍拡競争、あるいは共生者への道。この本の基本であり、ある意味すべてが書かれている。以降、感染経路、ヒトが多くの感染症を持つこと、感染症を撲滅するのが困難な訳、増加する感染症といった具合に紹介されていく。
 農業が始まって、定住し、止水が増え、生産力が高まり、都市ができ、人口密度が高まり、パラサイト天国が生まれた。1800年代になって、感染症の原因である微生物の存在が認知され、感染を防ぐためには衛生状態の改善が必要であることが知られ、ワクチンも開発され始めた。現在までにほぼ撲滅できた感染症は、天然痘やポリオ等ごく一部のみ。気候変動や野生動物との接触機会の増加とともに、次々と現れる新たな感染症。そしてCovid-19感染症。
 マダガスカルでの調査エピソードが各章でコラム的に差し込まれる。熱帯雨林での調査の様子が垣間見え、ネズミキツネザルがとても可愛い。

 お薦め度:★★★★  対象:人の感染症の歴史と、感染症の原因となる寄生生物の生態に興味がある人
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