齢を重ねることの意味を問いかける本。
今西進化論の失敗を「科学は非情なものだ」と記す筆者は、社会生物学(行動生態学)の考え方を紹介しつつ、ほぼあらゆる動物の中で人間のメスだけが、発情期を失い一年中交尾できる生物として進化してきたこと、子孫を作れなくなる年齢を過ぎてもなお生きているようになったこと、などを指摘する。愛と性、家族や死の問題を進化論の上から追及した本書は、産む性としてこの世に生まれた筆者が、生きる上での物思いを、生物の進化という大局的見地から、距離を取りつつ見極めようとしたものと言えよう。
お薦め度:★ 対象:谷村さんより若い女性
進化論を随筆風にくだいて楽しく読める本にしている。
シンカロンなんてものは占いと同じで、誰にとっても時にはちくりといたく、時にははっとするようなお楽しみをもたらしてくれるものなんだからと。著者は独身であり、繁殖しないことの寂しさは進化に関与しないことにあると言っている。
ダーウィンは確かにラジカルだった。神を裏切り、人類とサルを結びつけた。ドーキンスはあらゆる生命は遺伝子を運ぶ舟であると。
生物学者として、進化論を通して生命、性、愛、神、死を論じつつ、また小説家として世間一般的な思考に反発したり、愛と性等を進化論で考えエッセイ風に仕上げている。
お薦め度:★★★ 対象:一般向け
「進化」「性」「遺伝子」などのキーワードを軸に、これらにまつわる諸学説・研究をやさしく、比較的公正に、時には下世話(すぎるぐらい)に紹介した本。各章ごとのテーマに対して複数の学説を示しつつ、(掲載当時の)生物学の趨勢を紹介している。
本書の後半部分に遺伝子治療の話などがあり、他の部分との違和感を感じる。また、作者の志向もしくは一般誌に連載していたせいもあり、人間の恋愛や生活に結びつけすぎるきらいがある。しかし、私のような生物学の素人でもわかるように、専門用語や文章構成がよく整理されており、
気軽に読むことができる。ただし、上述したように人間の恋愛論などに結びつけてる部分が多々あるので、「神聖な(?)生物学をこのような紹介の仕方をするのはゆるさん!」という人(がいるのかどうか知りませんが)にはお薦めしません。
お薦め度:★★★ 対象:普段生物の話に接しない人向き
「人の愛について、家族についてを進化の上から追い詰めていきたい」というのが、この連載エッセイの始まりだったようです。その時の作者の興味のおもむくままに、内容はダーウィンから、男女の愛情、親子関係、遺伝子治療へと広がっていきます。連載エッセイの性質上からか、物足りなさを感じることもありましたが、一つ一つの事柄に対して、そのときの作者の素直な感じ方・考え方がさっぱりと述べられており、好感が持てます。読んだ後、掘り下げてみたい事柄については、巻末にある参考文献のリストも役立ちます。自分を取り巻く「進化」について、考えるきっかけになるかもしれません。
お薦め度:★★ 対象:「人の進化」に興味のある女性向け入門書
原題「ヒールを履いたかぐや姫」を改題して「恋して進化論」は生まれた。現代のかぐや姫は「ダーウィンも知らずに恋もできない」と考えた。本当に愛する人が死んだなら解剖したい、と夢想する彼女は現代科学の最先端への危なげない案内人のようだ。かって動物生態学を専攻した彼女が作家へと転身した経緯はいっさい語られず、本書は進化論の普及書であり、伝道書である。それは十分に楽しめる。しかしその案内人を「ヒールを履いたかぐや姫」としたところに作者の若さが露呈した。谷村氏はかぐや姫の資質は十分ありと推察したが確信犯として用いたか、不用意に用いたかで、その意味あいは自ずと異なるものになるだろう。
彼女の悩みのスケールを測る一点にも関わる要因ではないだろうか。
お薦め度:★★ 対象:恋する世代にお薦め
青年ダーウィンが進化論を予感したのは、5年間にも及ぶピーグル号での航海(1831〜36)の時でした。それは人が恋して、歌い踊り過ごす時間にあたる。
動物生態学を修めた著者は颯爽とヒールを履き時にはシャネルのスーツを着込んで闊歩する、まさにそういう時間の中にあり、時に襲ってくる物思いが彼女に書かせたのが進化論指南書となった。19世紀を席捲した進化論もここ150年の間に、科学的に誤りが証明された学説は次々と消え、最先端の生物学の行方は進化を先取りする領域に達しようとしている。
結婚を猶予する著者の愛の寿命4年説を説くフィッシャー女史への敬愛、産まないことを選択することに伴う寂寥感、産む性からの若い女性の証言は、進化論の過程で動物の♀たちが辿ってきた闘争や共存の道程をあぶりだしており評価できるだろう。医学の進歩で寿命はのびる一方、「死を全うできない」老いの問題は若い彼女にはまだ少し荷が重すぎるようだ。
お薦め度:★★ 対象:ヤングアダルトから恋する世代の女性
大学で動物生態学を専攻し、ダーウィンファンを自認する著者が、小難しい科学関係の本なんか普段は手に取らない読者に、正しい進化の考え方(および日常会話での使い方)を普及させようともくろんだ本。
日常会話での進化という語の間違った使い方をあげつらいつつ、現代生物学の進化の考え方を解説してくれる。自然選択、性の起源、性選択、ハンディキャップ理論、子殺しなんかを、わかりやすく正確に説明してくれる。
文庫では著者の他の小説と一緒に並んでいて、装丁も同じ。著者の小説のファン層に”間違って”手に取らせようという意図が見えます。まあ、それで少しでも進化の正確な考え方が普及されるなら、この本は成功したと言えるでしょう。
お薦め度:★★★ 対象:進化に興味があるけど難しい本は読みたくない人、中学生以上