【萩野哲 20180809】【公開用】
●「昆虫学者はやめられない」小松貴氏、新潮社
昆虫学者がやめられない著者は、本を書くのもやめられなくなってきたようで、いろんな裏山を回った奇人としての経験があまり脈絡なしに語られる。しかし、昆虫好きにとってはそのような断片であってもすごく参考になるので楽しく読める。例えば、ムラサキシャチホコという蛾の持つ、枯れ葉がカールしたような模様は擬態の典型と考えるのが通説であるが、著者はその無頓着な止まり場所や、枯れ葉の少ない初夏に発生するのを観察した経験から反論している。トノサマガエルやカラスの話は余計な気がするが、やはりこの人の本を読むのはやめられない。
お薦め度:★★★ 対象:虫好きの人
【西村寿雄 20180812】
●「昆虫学者はやめられない」小松貴氏、新潮社
小見出しに「裏山の奇人、徘徊の記」とあるように,中味もちょっと徘徊ぎみである。初めに,カエルやカラス,ヘビにクモの話が延々と続くかと思えば,後半にはリスやヤマネの話も登場する。さしづめ昆虫学者の目で見た里山記であろうか。読み応えのあるのは,中程から出てくる小さな昆虫の話。清流のヒメドロムシとか,石灰岩洞窟にいるメクラチビゴミムシ,ビロード色に輝くカメムシ,オスメス同種とはとても思えないチャバネフユエダシャク,〈ゴミ〉虫とは思えないゴミ虫の美しい姿,と多様な虫が登場する。そのほか天敵からの攻撃をかわすよう変身している尺取虫やオツネントンボの話,地衣類と寸分違わないミドリシジミの話と続く。ハッとさせられるのは「地底の叫び」だ。都市開発によって地底に棲むたくさんの生き物の命も奪われているという。総じて言えば,昆虫学者から見た地球環境の姿を写し出した本といえようか。
お薦め度:★★★ 対象:珍奇な虫研究を目ざす人
【六車恭子 20180817】
●「昆虫学者はやめられない」小松貴氏、新潮社
「裏山の奇人」刊行以来、著者の生き物を追跡する熱意は止まらない!今では奇人のマントを脱ぎ去り、昆虫学者の王道を歩み始めている。
小さな虫の世界を感じる筋道は人の世界を認識することにもつうじる!我々よりも先にこの地上に登場し、進化を遂げた昆虫たち、「ダマしたい虫、ダマされたい人」の章のホソミオツネントンボを森での越冬個体を見いだす著者の執念は人も虫も同じ地平で知恵の限りを尽くす姿があっぱれ!
お薦め度:★★★★ 対象:小さい生き物の企みを感じてみたい人
【和田岳 20180817】
●「昆虫学者はやめられない」小松貴氏、新潮社
「裏山の奇人」の著者の単著4冊目。最初は意表をついて、カエル、カラス、ヘビの話から。以降は虫にもどって、アズマキシダグモ、トビケラ類、ヒメドロムシ、洞穴生のチビゴミムシ、ガ類、フユシャク、ゴミムシ類、ハチ擬態とカムフラージュと興味の赴くままに書いてる感じ。
とくに力を入れているのは、洞穴生・地中生の虫の危機の話。このままでは日本各地の固有な種がどんどん絶滅してしまう。と、とても心配になる。あと印象に残ったのは、著者のオタク度の高さ。昆虫オタクなだけでなく、アニメなどのオタクでもあるらしい。カミングアウトの一冊。
お薦め度:★★★ 対象:虫が好きな人、あるいは奇人ファン