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本の紹介「これが見納め」

「これが見納め 絶滅危惧種の生きものたちに会いに行く」ダグラス・アダムス&マーク・カーワディン著、河出文庫、2022年11月、ISBN978-4-309-46768-9、1300円+税


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【森住奈穂 20230427】【公開用】
●「これが見納め」ダグラス・アダムス&マーク・カーワディン著、河出文庫

 時は1985年から1989年、「世界一珍しくて世界一絶滅の危機に瀕している動物を見に行く」という新聞やラジオの企画にのっかって、SF作家と動物学者が旅に出た。全7章、全てが瀬戸際。本邦初訳は2011年みすず書房から。原著出版から約20年を経て、その後の状況が付記されていた。そして更に10年経ったこの河出文庫版にも「いまみんなどうなっているのか」が付録で読める。まるで同窓会のように。ダグラス・アダムスの視点はシニカルでありながらもユーモアが散りばめられていて、動物に対しても、彼らを取り巻く人間(時に情けなく、時に頼もしい)に対しても、平等で愛に溢れている!!世界の片隅で、今この瞬間にも消えそうな命がある。自分にもできることがあるはず。と強く強く、思わせてくれる。

 お薦め度:★★★★  対象:地球に暮らすひと全員
【里井敬 20230426】
●「これが見納め」ダグラス・アダムス&マーク・カーワディン著、河出文庫

 1980年代に、SF作家と鳥類学者が珍しく絶滅しそうな動物を求めて新聞の企画でマダガスカルへ行ったり、BBCのラジオ番組のため世界各地へカセットレコーダーを持って旅をしたノンフィクションである。
 マダガスカルではアイアイをチラッと見、ニュージーランドの島でカカボも奇跡的に見ることができたが、ヨウスコウカワイルカは結局見ることができなかった。
 巻末の付録の最新情報によると、保護の成果で増えている種もあるが、キタシロサイは野生では絶滅、ヨウスコウカワイルカは飼育も含めて生存が確認されていない。
 なぜ動植物の絶滅を心配せねばならないか。生態系のバランスを保つ必要があるから。それより、もっと単純な理由、彼らがいなくなったら世界はそれだけ貧しく、暗く、寂しい場所になってしまうからなのだ。
 著者のイギリス的ユーモア(毒舌)に、滅びようとしている動物への愛情を感じる。

 お薦め度:★★★★  対象:世界各地の絶滅危惧種の動物に興味のある人
【西本由佳 20230423】
●「これが見納め」ダグラス・アダムス&マーク・カーワディン著、河出文庫

 とくに生きものに詳しいわけでもない普通の作家から見た野生生物とその保護の現場。とても数を減らしている生きものの生きている場所に行ってみて、そこが一体どんな場所なのか考えてみる。目に入るものや音やにおい、そこが世界の中で今どんな場所なのか。そして当の野生生物と出会ったとき、相手はどんな様子で、それを見て何を感じるのか。作家だけあって、素直に書いているわけではないけれど、感情移入できる人は多いのではないかと思う。地道な保護活動と、それに携わる個性的な人たち。
「これほど多くの人々が…保護に打ち込んでいるのは…きわめて単純な理由―かれらがいなくなったら、世界はそれだけ貧しく、暗く、寂しい場所になってしまうからなのである。」

 お薦め度:★★★★  対象:ヒト以外の生きものに関心があるなら
【萩野哲 20230308】
●「これが見納め」ダグラス・アダムス&マーク・カーワディン著、河出文庫

 本書は、ダグラスがBBCの依頼で動物学者のマークとともに絶滅危惧動物の生息地に赴き、レポートする趣向。コモドオオトカゲ=これぐらい近づくと走って逃げたいという衝動はやはり強い;マウンテンゴリラ=擬人化せずに書くのはとんでもなくむずかしい;カカポ=くちばしはまるで角で覆った大きな缶切りが顔に溶接されているようだった;などなど。この結構暗い話題に対して普通の著者なら短調の音楽みたいな(悲しく、美しい)文章を書くだろうが、ダグラスは違う。これらの動物たちに会うまで、または会ってから後の、動物とは関係ない道中の苦労話=例えば、宣教師たちと同乗した飛行機が離陸するときに操縦士が「おお主よ、私たちの生命を御手にゆだねます」とお祈りしたような怖い経験や、話の通じない人間のアホさを笑いに代えてしまう彼の才能は、素晴らしいに尽きるだろう。そして2人の著者は時々言い合うのである。“くたばっちまえ!”

 お薦め度:★★★★  対象:絶滅危惧種とそれらをめぐる人間模様を秀逸な文章で読みたい人
【六車恭子 20230428】
●「これが見納め」ダグラス・アダムス&マーク・カーワディン著、河出文庫

 彼らがいなくなったら、世界はそれだけ貧しく、暗く、寂しい場所になってしまう!この一念がこの本の著者たちをこの過酷な旅に駆り立てたのだ。動植物の保護は人類自身の生き残りのためにも大いに望ましいことだ。
 マ一ク・カーワディンと共に、マダガスカル島へ。アイアイとキツネザルを探す旅。三年後にはコモドオオトカゲを。ニュ一ジ一ランドには世界一太って飛べないインコ、「カカポ」を求めて。
 すべての動植物は環境を構成する必須要素である。その保護は人類自身の生き残りに望ましいことだろう!そして彼らがいなくなったら、世界はそれだけまずしく、暗く、寂しい場所になってしまうからだ。そこにその生き物がいるということは、紛れもなく、独特の風景が形成されていく。
 マダガスカルのアイアイは虫をとるために中指が長い。コモド島のツカツクリの盛り土は卵のう化にちょうどいい温度に保つ。ザィ一ルにはキタシロサイを見に。そして、雄のシルバーバックのゴジラに、人の原始的な遺伝子は恐るべき生き物に出くわせば飛び出そうとするだろう!シルバーバックの信頼を勝ち取れば群れもうけいれてくれる。ひとつのゴリラの群れに観光は一回のみ、時間は一時間。サイは匂いで世界を見る。彼らは夜でもサインを残せるのだ。
 1987年にはフィヨルドランドではケアオウムの夜の鼓動が響き渡っていた。カカポの声だ!メスは2年に一回しか実らないリムノキの実を食べる。三年か四年に一回しか実らない。生んだ卵はたちまちオゴジョに食べられてしまう。木に死んだペンギンを吊るしハエがよりつかなくする。様々な人の知恵で生き残りが試されている。
 上海のヨウスコウカワイルカを守る戦いも始まっている。濁った川を世界でもっとも珍しいカワイルカを守る試みが中国でもようやく始まっているようだ。

 お薦め度:★★★  対象:そこに何故その生き物が棲息しているかを知りたい人
【和田岳 20230428】
●「これが見納め」ダグラス・アダムス&マーク・カーワディン著、河出文庫

 『銀河ヒッチハイクガイド』で有名なSF作家ダグラス・アダムズが、イギリスBBCの企画で、動物学者とカメラマンの3人連れで、おもに1988年〜1989年に、世界各地の希少野生動物に会いに行った紀行文。旅をしたのが30年以上前なので、時代を感じる部分が懐かしい。登場動物たちの状況も変わっているので、2022年時点の状況が、巻末付録に付いている。
 会いに行ったのは、アイアイ、コモドオオトカゲ、マウンテンゴリラ、キタシロサイ、カカポ、ヨウスコウカワイルカ、ロドリゲスオオコウモリ、モーリシャスチョウゲンボウ。ヨウスコウカワイルカ以外にはちゃんと出会えている。間近にゴリラやキタシロサイに遭遇したシーンは印象的。
 増殖事業が成功したカカポやモーリシャスチョウゲンボウ。観光の糧になっているコモドオオトカゲとマウンテンゴリラ。努力の甲斐無く生き残れなかったキタシロサイ。充分な保全対策もとられず絶滅したヨウスコウカワイルカ。“水中のパンダ”は三峡ダムを止められなかったのか…。

 お薦め度:★★★  対象:絶滅に瀕してる動物が気になる人、あるいは『銀河ヒッチハイクガイド』読んで楽しんだ人
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