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本の紹介「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」
「恐竜はなぜ鳥に進化したのか 絶滅も進化も酸素濃度が決めた」ピーター・D・ウォード著、文芸春秋、2008年2月、ISBN978-4-16-369960-8、2239円+税
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【萩野哲 20080812】【公開用】
●「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」ピーター・D・ウォード著、文芸春秋
副題の方が内容をよく表している。ロバート・バーナーらの研究により、地質年代の酸素濃度の推移がわかってきた。その結果と生物の歴史とを照合すると、生物の大量絶滅は酸素濃度が低下した時期と一致し、大量絶滅の後、すなわち酸素濃度低下時に新しい体制をもつ生物が出現し、酸素濃度の上昇に伴い適応放散が起こる、と要約できよう。その典型的な例が恐竜と鳥である。著者は、酸素濃度の変化を説明した章の後、カンブリア紀から哺乳類時代まで、数多くの仮説を提示しながら持論を展開する。進化要因に興味を持つ読者はきっとこの新しい切り口にワクワクするに違いない。
お薦め度:★★★★ 対象:進化要因に興味を持つ人
【中条武司 20180817】【公開用】
●「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」ピーター・D・ウォード著、文芸春秋
過去の地球の大気組成、特に酸素と二酸化炭素の濃度がコンピューターモデルなどによってかなり変動してきたことが明らかとなってきた。その酸素濃度の変化に、呼吸器・ボディプランが適応した生物が繁栄し、逆に適応できなかったものが絶滅をするという、生物進化はきわめてシンプルな理論に基づいていると著者は主張する。なるほどと納得する話もあれば、ちょっと強引と違うという話まで、すべて酸素濃度で片を付ける。すべて鵜呑みせず、一説として読むにはとても刺激的だ。
お薦め度:★★★ 対象:進化のきっかけを考えるきっかけを探したい人に
【西本由佳 20180624】
●「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」ピーター・D・ウォード著、文芸春秋
古生代から現代まで、酸素濃度は10数%から30%近くの間を大きく変動してきた。そして、酸素濃度の低下してきた時期と、地球上で大きな絶滅が起こった時期は対応するという。薄い酸素の下でいかに効率的に呼吸するかが生きものたちの課題だったとして、化石に残された形態や現生の生物の解剖などから、生きものたちの「ボディ・プラン」にどれだけ酸素が影響を与えたかが語られる。現代に生きる人間として、酸素と生きものの形をそこまで結びつけたことはなかったけれど、これまでの地球では、酸素が進化の一番の決定要因だったことが何度もあった。現在だけしか見ていないと、生きものの形の本当の理由は見えてこないと思えた。
お薦め度:★★★ 対象:進化を少し違った視点から見てみたい人
【加納康嗣 20080815】
●「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」ピーター・D・ウォード著、文芸春秋
酸素と二酸化炭素レベルの地質年代的変化を推定するために導かれたコンピュータモデルであるゲオカーブサーフ・モデルを縦糸にして、酸素濃度が生物進化に与えた大きな影響について壮大な仮説で語る。地質年代を画するような新しいタイプの生物の出現は、すべて酸素濃度の変動によって生まれた。地史上の大量絶滅はことごとく酸素濃度が急落した時期に一致する。そうした時期に低酸素を乗り切る新しい器官や新しい体制を持つ生物が出現し(体制の変更を伴う異質性の出現、すなわち体制の多様化)、高濃度の時期に異質性を獲得した新しい生物の多様性(適応放散)が高まっていったという仮説である。仮説の展開が錯綜して読解力を試され、その上素養のないものには理解困難なことも多いが、著者の仮説に引き込まれる。カンブリア紀に大爆発した体節化した生物、内温性、四室心臓、鼻甲介、恐竜の2足歩行、気嚢肺を持った鳥類の先祖になった一部の恐竜など、飛躍した体制を獲得した出来事(生き物)は、すべて酸素条件への適応として語られている。訳文は適切であり、専門書としては読みやすい。
お薦め度:★★★★ 対象:生物進化に関心のある方
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