友の会読書サークルBooks
本の紹介「右利きのヘビ仮説」
「右利きのヘビ仮説 追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化」細将貴著、東海大学出版会、2012年2月、ISBN978-4-486-01845-2、2000円+税
【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。
[トップページ][本の紹介][会合の記録]
【和田岳 20120628】【公開用】
●「右利きのヘビ仮説」細将貴著、東海大学出版会
カタツムリを食べるヘビと、カタツムリの研究を志した変人が、数々の謎を解き明かし、めでたく研究者になる。というストーリー。最初に注意しておくが、これを読んで研究者を志すのはお薦めできない。このやり方は極めて無謀。うまくいったから研究者になれたが、挫折する可能性も高かった。
それにしても、学部生の時に思いついたアイデアで、博士論文を書き上げたのはすごい。運もあるだろうが、著者の研究者としてのセンスの高さをうかがわせる。
カタツムリばかり食べて暮らすイワサキセダカヘビというヘビは顎が左右非対称。それはどうやら右利きだからで、右巻きのカタツムリは上手に食べれるが、左巻きはうまく食べれない。じゃあこのヘビの存在が、左巻きのカタツムリの進化をうながした? といった流れで、次々と謎が解き明かされていく。謎の提示と謎の解明の繰り返しで続くストーリーは楽しく読みやすい。
お薦め度:★★★★ 対象:自然のミステリーの解明に興味のある人
【加納康嗣 20120629】
●「右利きのヘビ仮説」細将貴著、東海大学出版会
若手フィールド生物学者の研究活動を紹介する本シリーズの中で屈指の名著である。生き物の左右性に関する進化の物語である。琉球列島の多数派である右巻きカタツムリの中に左巻きカタツムリがいる。右巻きを食べるのに特化した捕食者が居れば、左巻きが進化しやすくなる。こんなふとした発想から、イワサキセダカヘビとカタツムリの生態と進化のなぞを解明していく。イワサキセダカヘビの下あご骨格をしらべ、左右の歯並びと数の違いを解明するくだりは、小説より面白く、思わずバンザイと言いたいた気分になってしまう。文章は読みやすく明快で最後まで飽きさせない。
蛇の下あご骨が外れることをどこかで聞いたことがあったが左右で外れるとは不覚にも初めて知った。アオダイショウが大きなモグラを飲み込むところを観察したことがあったが、飲み込み方がも一つ納得できなかったがこれで解明できた。それを知ることが出来ただけでも良い。
お薦め度:★★★★ 対象:カタツムリとヘビが嫌いな人と、多くの生物好きの方
【萩野哲 20120618】
●「右利きのヘビ仮説」細将貴著、東海大学出版会
カタツムリはなぜ右巻きが多いのか?左巻きは多数派の右巻きと生殖行動できない等、不利な点が多いからである。それではなぜ左巻きが存在するのか、新たな疑問が生じる。右巻きには強力な捕食者がいるのでは?著者はイワサキセダカヘビというカタツムリ食のヘビに着目し、これが形態的、行動的に右利きであり、右巻きのカタツムリは大変うまく食べるのに対し、左巻きのカタツムリは食べるのに失敗することが多いことを発見した。本書はこの仮説を検証する過程を記しており、ひとつの研究の仮説と検証が明確で楽しい。もちろん、この研究過程は平坦な道ではなく、失敗や苦労についても余すところなく語られている。更に、それらの間にはさまれた多くのコラムで基礎的事項や周辺事項も解説されており、理解を助ける。
お薦め度:★★★★ 対象:謎解きの興奮を共有したい人
【六車恭子 20120629】
●「右利きのヘビ仮説」細将貴著、東海大学出版会
生き物の右と左に関する進化の物語は古くて新しい謎に満ちているようだ。この若い学徒がこの学説に着目出来たのは、偶然のような顏をしながらの必然だったのでしょう。彼は小さな過去の出会いを重ねて、点と点を結ぶようにこの仮説に導かれたのだ。進化の実験場としての古代湖の鱗食魚の右利き個体の発見にまつわる恩師堀道雄氏の話を聴講したのが三年生の頃、左巻きと右巻きのカタツムリが存在しその比率に着目できたこと。右利きのカタツムリが圧倒的に多いのは、右利きのカタツムリを食べる熟練した捕食者がいるだろう!西表にはイワサキセダカヘビというカタツムリ食のヘビがいるのだ。手探りながら彼は自らの仮説の検証を粘り強く実行してゆく。その手順がこの書のコラムで語られてゆく。ひとりの研究者のサクセスストーリーとも思えるが、「人に歴史あり。科学とは世代を継ぎながら人間が主役を張るドラマなのだとしみじみ思う。」ジョナサン・ワイナーの言葉を引くあたり、ただ者ではなさそうだ。
お薦め度:★★★★ 対象:研究に行き詰まっている学徒
[トップページ][本の紹介][会合の記録]