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本の紹介「未完の天才 南方熊楠」
「未完の天才 南方熊楠」志村真幸著、講談社現代新書、2023年6月、ISBN978-4-06-532636-7、940円+税
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【萩野哲 20241123】【公開用】
●「未完の天才 南方熊楠」志村真幸著、講談社現代新書
記憶力、転身、未完など、南方熊楠の“謎”について、本書は論考している。熊楠が手に染めた事項は、植物などのフィールドワーク、各国語の習得、Natureなどへの寄稿(東洋の情報提供)、自然保護、妖怪や夢研究など多岐にわたるが、膨大な抜書を基礎とした博覧強記に根差したものが多く、特に独創的なものは少ないように思われた。卓越した記憶力は、人類史上最も文字を書いたとも言われる抜書などの量(=インプット)の莫大さがいくらかは寄与したのではなかろうか?数々の転身は、権威嫌い、強いプライドに加え、その時々の致し方ない事情によるものも多いようだ。未完について、本人はそう考えていなかったフシがある。“未完の天才”はまだしも、“完成を嫌った”とまで言うのはいかがなものか?謎とはしているものの、それらのいくつかを組み合わせると腑に落ちてくるような事項も多いように感じた。
お薦め度:★★★ 対象:熊楠のことをより深く知りたい人
【里井敬 20241219】
●「未完の天才 南方熊楠」志村真幸著、講談社現代新書
南方熊楠って何をした人?
粘菌やキノコを調べていた人。くらいの知識で読んでいくと、生物学以外に、語学・民俗学・睡眠中に見る夢、他色々なものに興味を持ち国内外の雑誌などに寄稿していることに驚く。フィールドワークでは住んでいた和歌山や留学先のアメリカで植物採集に精を出すが、イギリス留学ではほとんどの時間を図書館での抜書に当てている。書く、写すは子供のころから好きで、その記憶力はすごかったらしい。
それだけ様々な分野に手を出しているが、完成させた仕事はない。未完のままというか、あえて未完になるテーマを選んでいるようにも思われる。生物学の分野でも、キノコは未だに未知の種類の多い生き物だ。夢の研究も民俗学もまだまだ研究が進んでいく余地がある。
神社合祀反対運動にもかかわっているが、自然保護の観点から見ている。守ろうとするものを「稀少なもの」だけでなく「普通のもの」も含めているのは熊楠の彗眼である。が、残念ながら数年でエコロジーから手を引いてしまう。父祖の地の大山神社を守れなかったのが原因らしい。
ゴールのない仕事に興味を持った熊楠の研究が、膨大な抜書や日記の細かく判じにくい文字もあってまだまだ未完であるのが面白い。
お薦め度:★★★ 対象:熊楠って何をした人?の疑問を持った人
【冨永則子 20241218】
●「未完の天才 南方熊楠」志村真幸著、講談社現代新書
明治という日本が大きく舵を切った時代を生きた熊楠。驚くほどの多方面で才能を発揮し、国際的にも活躍したのに、完成された仕事が無い。多才すぎる故なのか?なにか一つに集中するには才能が有り余り過ぎたのか?
なんとなく“粘菌”の研究者というイメージだったが、彼の興味は生物研究だけに留まらず、人類学、民俗学、比較文化、江戸文芸、説話学、語源学といった人文科学系の分野にも業績を残しているとは知らなかった。キノコを巧みにスケッチし,十数ヵ国語を解し、環境保護にも取り組んだ。とてつもない記憶力を誇り、ノートに数万ページに及ぶ筆写を行い、人類史上もっとも字を書いたといわれる。
しかし、熊楠の活動を特徴づけるのは“未完性”。熊楠研究者は、熊楠の未完の仕事を追いかけ、熊楠の興味は一体どこに向かっていたのか、それらを分析するだけでなく、熊楠の仕事を引き継ぐ責務もある…という気概をもって挑み、今こそ熊楠の残した“未完”から世界を見つめ直すタイミングなのではないか?と感じているようだ。
お薦め度:★★★★ 対象:南方熊楠って誰?って人にも
【森住奈穂 20241219】
●「未完の天才 南方熊楠」志村真幸著、講談社現代新書
南方熊楠氏は1867年、紀伊国生まれ。何かと逸話の多い人物で、「天才」の反面「奇人」と呼ばれる事もしばしば。生物学、民俗学、比較文化など多方面で才能を発揮したが、ほとんどの仕事が未完に終わっている。それが無限の可能性を感じさせる熊楠の魅力であると研究20年の著者は言う。熊楠の勉強方法は筆写で、多言語でも何でもマスターしたそう。ただし「人類史上もっとも文字を書いた」と呼ばれるくらいだから、簡単に真似などできないのだけど。在野の研究者として、結果を求めず自分の興味関心の赴くままに生きた熊楠。あふれ出すエネルギーは本当にすごい。
お薦め度:★★★ 対象:熊楠という名前を聞いたことがあるひと
【和田岳 20241220】
●「未完の天才 南方熊楠」志村真幸著、講談社現代新書
南方熊楠といえば、牧野富太郎と並び称される、明治から大正にかけての日本の生物学のスター。和歌山県を舞台に菌類をはじめいろんな対象を研究し、博覧強記。論文もたくさん書いて、海外でも認知された研究者。
でも実際は、大店のボンボンで、働きもせず、東京行ったり、留学したり、好き勝手にいろんなことに手を出して、そのどれも中途半端で投げ出した。ネイチャーにたくさん投稿してる聞くとスゴイけど、書いてる内容は、自然科学の論文ではなく、東洋文化のご意見番のコメントといった感じ。変形菌の研究も目録は発表しているものの、記載はせず。イギリスのリスター父娘に採集して送ってるだけ。
「同君は大いなる文学者でこそあったが、決して大いなる植物学者ではなかった」という牧野富太郎の言葉に頷かざるを得ない。文献を手書きで抜き書きしまくった人で、記憶力がかなり良かったのは事実らしい。
お薦め度:★★ 対象:南方熊楠ってなんか知らんけど、すごい人なんでしょ?って思ってる人
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