【西本由佳 20180624】【公開用】
●「ミツバチの世界へ旅する」原野健一著、東海大学出版部
ミツバチが社会性昆虫であること、ダンスをして餌場の情報を伝えることは、よく知られている。前半では、社会を築くために、ミツバチが自分の巣の仲間をどうやって認識するか、女王バチが複数育ったときに、どのような手段で巣という資源を勝ち取るかが紹介されている。後半では、ダンスと、それによって得られる情報をもとに、個々のハチがどう動くかが明らかにされる。得られる資源とそのために必要な燃料としての蜜の量をハチが微調整しているという。あんな小さな虫がそれだけの機構を備えているというのは驚きだった。
お薦め度:★★★ 対象:生きものの社会に興味がある人
【萩野哲 20180514】
●「ミツバチの世界へ旅する」原野健一著、東海大学出版部
ミツバチは遠い昔から人間に利用され。現代もその利用はより多様となっている。ミツバチの研究誌も長く、一般対象の本も多数出版されている。ならば、なぜ今この本なのか?著者は、ミツバチに関しては”燃料調節”について主要なテーマとして研究している。残念ながら、というか、採蜜目的地までの距離に応じて燃料の蜜を取り込んでいくというメインの課題は既に8の字ダンスの発見で有名なフリッシュが解決していたので、著者はダンス蜂と追従蜂との間の差といった、更に細かい課題を追及していくことになる。しかし、一般読者にこのような細かい課題をいきなり説明しても難しいので、勢いミツバチの概要についても説明しなければならず、もちろんその他に自分がやった研究についてもちりばめているものの、他人がやった研究成果や直接ミツバチとは関わりのないバッタやケブカの話も本のボリュームを膨らませている。研究者の人生という意味では、それぞれの話は興味深いが、ミツバチの世界の本という意味ではまとまりをとることができたのだろうか?
お薦め度:★★★ 対象:研究者の人生またはミツバチを深く知りたい人
【森住奈穂 20180629】
●「ミツバチの世界へ旅する」原野健一著、東海大学出版部
「フィールドの生物学」シリーズの1冊。若手研究者が、自身の研究のみならず人生の来し方を語ってくれるところが面白いシリーズで、Booksの課題本としてもたびたび登場している。本書でも、予定通り希望通りでなかったミツバチとの出会いから試行錯誤の研究生活を経ていまに至るまでが描かれている。が、大きな特徴がひとつ。著者の研究フィールドは飼育室、研究内容は実験の繰返し、海外行きは学会発表のため、というこのシリーズにあるまじき地味さなのだ!協力隊員時代にフィリピンで多数のミツバチに刺され、指が剣山のようになったというのが唯一命にかかわるエピソード。研究対象がミツバチだから、しょうがないのかなぁ。有名なダンスコミュニケーションにまつわるあれこれが紹介される7章と、それに関連する未知の知見を解き明かす8章は面白かったんだけどなぁ。
お薦め度:★★ 対象:ミツバチ研究に興味があるひと
【和田岳 20180628】
●「ミツバチの世界へ旅する」原野健一著、東海大学出版部
フィールドの生態学シリーズの一冊。脊椎動物をなんとなく研究したかった玉川大学の学生が、青年海外協力隊や農環研でのポスドクなどを経て、ミツバチ研究者になるまで。このシリーズで近頃多い半生記パターン。
ミツバチを紹介する第1章と、ミツバチのダンスの真実を教えてくれる第7章はとても勉強になる。あとは、自分のミツバチ研究のテーマである、巣仲間認識、王台破壊、脳内物質、出巣時積載蜜量の話が順に紹介される。研究成果の紹介が細かくて、よほど興味がないと眠くなる。
お薦め度:★★ 対象:ミツバチの研究を志すかもしれない人、あるいはよほどのミツバチ好き