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本の紹介「旅する巨人」
「旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三」佐野真一著、文芸春秋社、1996年11月、ISBN4-16-352310-3、1748円+税
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【六車恭子 20070427】
●「旅する巨人」佐野真一著、文芸春秋社
周防大島の百姓の倅が戦前戦後の日本をくまなく歩き、近代化によって忘れられたその土地の古老たちの暮らしぶりに積極的な意味を見いだしそれを記録した。73年の生涯に合計16万キロ、それは地球4周ぶんに匹敵する。その記録する天分を見いだした師匠渋沢敬三との出会いと強い絆、渋沢家三代の履歴から起し、戦争を挟む日本の庶民の暮らしが印画紙のように写し取られている。経済界の祖とたたえられた渋沢栄一を祖父に持ち、日銀総裁をへて、敗戦直後は大蔵大臣を務め、私財で「アチック・ミュージアム」、後に「常民文化研究所」を起こし、常に30人の食客を抱えていた敬三にとって、なお宮本は唯一無二の人だった。彼が職を得たのは敬三の死後である。民俗学者・宮本常一は無名時代の尋常一様でない友人知人援護者、そして古老たちの人脈の海から誕生した、とうなづかされる。19歳の宮本は26歳の大宅壮一に出会い、戦後ヤミの食料を拒否して栄養失調死した松本繁一郎判事は5円で下宿させ、裁判調書まで読ませて人生勉強をさせている。単なる学問としてでなく彼は生きていく生活の現場でその出会いを果たしてきたのだ。この評伝では宮本の仕事とともの彼のその頃のつぶやきまで聞こえてきそうな丹念な追体験と資料から編まれており、宮本を知る入門書として圧巻である。
お薦め度:★★★★ 対象:ときには歴史から学ぶことも忘れない人に
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