友の会読書サークルBooks

本の紹介「森のねずみの生態学」

「森のねずみの生態学 個体数変動の謎を探る」齊藤隆著、京都大学学術出版会、ISBN4-87698-320-8、2300円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
 もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。

[トップページ][本の紹介][会合の記録]


【和田岳 20020221】【公開用】
●「森のねずみの生態学」齊藤隆著、京都大学学術出版会

 日本の個体群生態学の、そしてエゾヤチネズミ研究の第一人者である著者による、エゾヤチネズミの個体群動態についての本。学生時代から現在までの著者の研究史にもなっており、個体群生態学の入門書としても使える。
 金鉱とまで称され、世界に冠たる50年以上にわたる北海道のエゾヤチネズミのデータの分析結果は圧巻。残念なのは、エゾヤチネズミのサイクル変動についての著者自身の考えが示されなかったこと。それが、この本を未完のように思わせている。

 お薦め度:★★★  対象:個体群生態学に興味のある人、一線級の研究者のでき方に興味のある人

【河上康子 20030220】
●「森のねずみの生態学」齊藤隆著、京都大学学術出版会

 著者の大学時代からのフィールドである北海道のエゾヤチネズミの研究記録を、年代を追い紹介している。著者の研究史でもあり、近年の生態学の流れをとく解説書としても比較的わかりやすく読める。具体的なデータや図表の掲載が多く、解説も丁寧。また、著者の研究者としての姿勢、考察の過程、研究対象へのアプローチ法などが、随所に盛り込まれており、楽しめる。長く地道なフィールドワークと、記録の解析に不可欠な他分野の共同研究者の協力を土台に、これまで未知の知見や推論を慎重にくみたててゆく、研究者の情熱と楽しさが伝わってくる。

 お薦め度:★★★  対象:将来研究者やハイアマチュアを目指す大学生以上

【瀧端真理子 20020811】
●「森のねずみの生態学」齊藤隆著、京都大学学術出版会

 「博士論文に値する研究とはどんなものだろうか。」筆者は、自分にとって生態学とは何かは、歩きながら考えるしかない、と北大苫小牧演習林での調査に取り組む。エゾヤチネズミの繁殖の抑制・失敗現象を個体や遺伝子の視点で理解すること、個体群生態学の中に位置付けることが筆者の課題となった。
 これまで常識とされてきた「エゾヤチネズミ個体群は、3〜5年周期でサイクル変動する」という経験知の十分な検討がないことに気づいた筆者は、林業試験場北海道支部が1950年代から蓄積してきた「発生予察調査」に目をつける。のちに多くの生態学者が「金鉱」と呼ぶことになる世界に誇るデータは、鳥獣研究室の古びた本棚や木箱に、変色して乱雑に押し込まれていた。
 ノルウェーの数理生態学者ニルスを北大集中講義に招聘、講義の合間にデータ分析の方法を夢中で議論する。1998年、個体群生態学会誌の誌上シンポジウム編集担当となった筆者は、ニルスらと共同で、半年間に11本の論文を仕上げ、「エゾヤチネズミ個体群生態学」特集を組んだ。個体数変動パターンを大筋で把握した筆者らは、DNAを用いた野外調査でエゾヤチネズミの生活史を解明し、さらに密度依存性のメカニズム解明のために、22の仮説を浮上させる・・・現在の筆者の研究課題が紹介された第6章は難解である。それでも、筆者が綴る共同研究の魅力は、分野の違いを超えて学問を志す者に勇気を与えてくれる。

 お薦め度:★★★★  対象:中級以上・研究を志す人

[トップページ][本の紹介][会合の記録]