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本の紹介「鳴く虫文化誌」
「鳴く虫文化誌 虫聴き名所と虫売り」加納康嗣著、エッチエスケー、2011年9月、ISBN978-4-902424-10-2、2000円+税
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【中条武司 20111221】【公開用】
●「鳴く虫文化誌」加納康嗣著、エッチエスケー
鳴く虫を楽しむという文化は、世界でもめずらしいんだそうな。本書は江戸〜明治時代を中心に、鳴く虫の文化や産業を各種文献から丁寧に読み解いていく。日本では古くは平安時代から現在にいたるまで、虫の音は聴かれ、人々の娯楽として栄えてきた。時には産業として武士や農家の副業として、それなりに重要な位置付けであったらしい。現在の鳴く虫に造詣が深い著者が古書に書かれている虫の名前がどの種類にあたるかを推定したり、江戸と大坂の生活の違いから鳴く虫文化の違いを論じたりと、内容も多岐にわたる。王道の自然史からちょっと脇道にそれて、一服しているような感じの本である。
お薦め度:★★★ 対象:自然と文化の関わりを学ぶ人へ
【西村寿雄 20111219】
●「鳴く虫文化誌」加納康嗣著、エッチエスケー
長年、鳴く虫(直翅類)の研究をしてこられた著者がまとめられた「鳴く虫の文化誌」。古来から豊かな自然に育まれた日本人の感性で親しまれてきた〈鳴く虫〉の姿が浮かび上がってくる。世界各国の鳴く虫趣味の様子も紹介されているが、日本の鳴く虫文化の記述が豊富である。なかでも、町人文化が栄えた江戸中期からの話がおもしろい。今もある東京のいくつもの地名は、鳴く虫名所の名残だったということなど興味深く書かれている。この本では〈虫かご作り〉や〈虫売り〉など庶民のしたたかな生活も見えてくる。少しは書かれているが日本人の虫好きは万葉の頃からあったに違いない。また、江戸以外でも広く鳴く虫を楽しむ文化が根付いていた様子も紹介されている。古典をひもといた労作である。
お薦め度:★★★ 対象:鳴く虫好きの大人
【萩野哲 20111221】
●「鳴く虫文化誌」加納康嗣著、エッチエスケー
鳴く虫を楽しむ文化を持った国はそう多くはないらしい。本書には、まず過去の文献にあらわれる鳴く虫について紹介している。日本では万葉の昔からその記録が残っている。江戸時代には経済構造の転換による経済力の余裕が出てきたものの、反面自由を拘束された庶民により、日常と異なる環境に身を置く「行動文化」として行楽の流行が生み出された。行楽地の一形態として虫聴き名所が現れ、そして虫聴きの流行は虫売りの文化を導いた。特に、消費都市江戸では大いに商売繁盛したらしい。虫屋の屋台、虫籠のいろいろも大変興味深い。そして今は往時の華やかさを失ってはいるものの、この世界でも特異な文化はこれからも連綿と続いていくだろうとの著者の願いはかなうに違いない。
お薦め度:★★★ 対象:文化史にも興味を持つ生物屋さんたち
【六車恭子 20111223】
●「鳴く虫文化誌」加納康嗣著、エッチエスケー
鳴く虫を愛好する伝統文化はその国の奥深い情緒面を反映する。昆虫文化史の研究の遅れを著者は本書を著すことで一石を投じてくれた。正史からこぼれ落ちた裏面史に庶民の生きる活力がうかがえるものだ。「江戸の虫売り」などは著者の案内で、江戸の街を流して歩いているような気分である。職にあぶれた御家人たちの内職の一つに虫籠作りが上げっている。わざわざ虫聴き名所をつくって人々の楽しみを誘導するお江戸の文化の成熟を知っていたのがモースやゴードン・スミスなど西洋の目であったことも皮肉と言えば皮肉である。万葉の昔から日本人が鳴く虫を楽しんでいた、この文化の重みを今こそ大切にと認識を深めた次第です。
お薦め度:★★★★ 対象:父母を知りそのまた父母を知る道程に
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