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本の紹介「ネコ・かわいい殺し屋」

「ネコ・かわいい殺し屋 生態系への影響を科学する」ピーター・P・マラ&クリス・サンテラ著、築地書館、2019年4月、ISBN978-4-8067-1580-1、2400円+税

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【和田岳 20191218】【公開用】
●「ネコ・かわいい殺し屋」ピーター・P・マラ&クリス・サンテラ著、築地書館

 副題は「生態系への影響を科学する」。ネコの在来生態系への影響の話から始まって、アメリカ合衆国のネコが、年間どのくらいの鳥を中心とする小動物を捕っているか、野外のネコを擁護する強硬な人々との対立。日本とは少し違う実態も見えてくる。
 ニュージーランドのスチーフンイワサザイは、島にネコが持ち込まれて数年で絶滅した。アメリカ合衆国では鳥が年間1.3億〜40億羽、哺乳類が年間6.3億〜223億頭、爬虫類が2.58億〜8.22億頭、両生類が9500万〜2.99億頭も喰われている。とにかく野外に出たネコは強力な捕食者で、たくさんの動物を殺すことを、数字で示してくれる。そして、意外と怖い野放しネコが媒介する人獣共通感染症。日本でもトキソプラズマは注意した方がよさそう。といった事を考えると、やはりネコは室内で飼うのが、ネコにも飼い主にも生態系にも優しい。
 ネコが在来生態系にもたらす影響が深刻なのは、日本もアメリカも一緒だけど、ネコを野外でウロウロさせたがる一部のネコ派(決してネコ好きとは言えないと思う)は、アメリカの方が面倒そう。TNR(Trap-Neuter-Return)の有効性や、自然環境へのネコの入り込み具合などは、日本とアメリカで少し状況が違うようで興味深い。アメリカ合衆国には推定1億匹もの野放しネコがいるらしいし。

 お薦め度:★★★★  対象:ネコを好きな人
【萩野哲 20190813】
●「ネコ・かわいい殺し屋」ピーター・P・マラ&クリス・サンテラ著、築地書館

 冒頭、灯台守の猫の話はあまりにも有名なネコの能力と脅威を示す逸話である。本書にはネコの起源、人間との付き合いの歴史、野生生物へのネコの影響、ネコとヒトの共通感染症、愛鳥家と愛猫家の闘い、駆除と愛護の議論など、ネコにまつわる多岐にわたる話題が満載されている。
 TNR (捕獲、不妊去勢、再放逐)という言葉は初めて聞いたが、その問題点についても詳しく論じている。そして、猫(および鳥と人)にとって望ましい将来像についても自説を展開している。猫は最も自由を満喫しているペットであるが、今後もそれでよいのか、猫を飼っている人の責任を考えさせられる一冊である。

 お薦め度:★★★  対象:全ての猫好き人間
【森住奈穂 20190830】
●「ネコ・かわいい殺し屋」ピーター・P・マラ&クリス・サンテラ著、築地書館

 原題はCat Wars、愛猫家と野生動物擁護者の間で続くネコ戦争を描く。ネコは本能で狩りを行う。野生動物に与える影響は計り知れない。特に希少種、絶滅危惧種への関心が高い人びとは、野良ネコを侵略的外来生物として排除を訴えるが、飼ネコと野良ネコの区別は曖昧で、野良ネコへの給餌も広く行われている現状がある。オーストラリアやニュージーランドでは、外来種は人間が持ち込んだもの、そのために在来種が脅かされているという意識が高く、排・野良ネコ運動が官民で行われている。が、それでも反発(国の内外から!)があり、いわんやアメリカ(やその他の国々)をや。科学的な調査が行われデータが公表されても、飼ネコ・野良ネコの区別がつきにくい現状では、愛ネコ派、排ネコ派、各々の立ち位置によって解釈も変わってしまう。書かれていることは正論だと頭では理解するものの、モヤモヤを感じることは否めない。ただ、イヌは登録義務化が定着した。イヌにできたことはネコにもできるはず。明るい未来を信じたい。「飼ネコを外に出さない」は、今日から始められる。

 お薦め度:★★★★  対象:外ネコを目にするひと
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