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本の紹介「熱帯アジア動物記」

「熱帯アジア動物記 フィールド野生動物学入門」松林尚志著、東海大学出版会、2009年11月、ISBN978-4-486-01840-7、2000円+税


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【和田岳 20100423】【公開用】
●「熱帯アジア動物記」松林尚志著、東海大学出版会

 フィールドの生物学の第1弾。「研究者が自身の体験談をふまえ、その楽しさ、苦労、醍醐味など研究者でしか得られない自然界やフィールドの魅力を伝えていくシリーズ」らしく、熱帯アジア、とくにマレーシアに飛び込んでいって、マメジカの生態や哺乳類の塩場利用を研究した著者の体験がつづられる。
 とにかく調査結果よりも、調査前後のエピソードに満ちている。マレーシアからインドネシア、フィリピンを含む東南アジア一帯における経験を紹介しつつ、ジャワサイ、スマトラサイ、バンテン、タマラオ、マレーバクなどなど、このエリアの森林生の大型哺乳類の危機を強く訴えている。エコと称しているヤシの実洗剤が生物多様性の減少に貢献している実態もよくわかるだろう。

 お薦め度:★★  対象:東南アジアの森林とそこにすむ哺乳類の現状に関心のある人、あるいはヤシの実洗剤はエコだと思っている人

【加納康嗣 20100423】
●「熱帯アジア動物記」松林尚志著、東海大学出版会

 ボルネオ島をフィールドにしてマメジカを主とした野生動物の生態を研究している著者自身の体験談をふまえた興味深いフィールド報告である。
 ボルネオ島は古い地質のため大量の降雨により溶脱されて土壌栄養塩が少なく、光合成による一時生産量が少なく、それを反映した食物資源量の制約があり、大型捕食者という高次消費者の減少、体サイズの小型化、そして個体群密度の低下などに反映されているという研究者もいる。
 夜行性と思われていたマメジカが、昼間、攪乱された林冠ギャップのパイオニア植物を食べ、夜は風通しのよい、見通しの良い尾根で眠ることを始めて明らかにした。人も利用している塩場を植食性、肉食性両方の多くの動物が利用し、人里近いところでも利用していることなど興味深い観察が語られる。熱帯雨林が破壊されたミンドロ島でのタマラオ(ミンドロスイギュウ)の調査では、チガヤ草原になった生息地で、原住民の村落近くに多くの痕跡を見つけている。熱帯の自然の破壊を如実に示すフィールド報告であった。

 お薦め度:★★★  対象:野外観察者を目指す人

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