アジア、アフリカ、アメリカと世界中の熱帯雨林を見てきた著者が、熱帯雨林を解説した本。
第1章は林冠へのさまざまなアプローチ、第2章は熱帯雨林の概要、第3章は植物によって形作られる熱帯雨林の立体構造、第4章は熱帯雨林にいる生物の種数、第5章はアリ植物・送粉・種子散布といった生物間相互作用、第6章は一斉開花の謎と、章ごとに違ったテーマが紹介されていく。最後の章では、人によって失われゆく熱帯雨林と、それをくい止めようとする動きが描かれる。
熱帯雨林の多様な側面をバランスよくコンパクトにまとめているという意味では、これ以上はなかなか望めないだろう。
お薦め度:★★★ 対象:熱帯林及び生物多様性に関心のある人
まるでおもちゃ箱のように、つぎからつぎへ、ポンポンと、熱帯雨林での動植物の話がとびだして来ます。その一つ一つに「へぇーこんなかわった共生関係があるんだ」と納得したりしながら読み進めていくと、最後には、やはり「多様性」という言葉こそが熱帯雨林そのものだと考えさせられてしまいました。
ただ、南アメリカ、東南アジア、アフリカ大陸の三つのブロックの熱帯雨林の地域について、環境、様子がどのように同じなのか、また違うのかという点について、もうすこし詳しく書いてあればと思います。
お薦め度:★★★ 対象:熱帯雨林が好きな人、高校生以上
‘熱帯雨林’には、なぜあれほど多様で奇抜な形態や、あるいは毒をもつ植物や生物が豊かに棲息しているのか?その‘理由’を、熱帯雨林のあふれる魅力を語りながら、解きほぐすように紹介している。熱帯雨林に挑む調査の歴史に始まり、気候区としての熱帯雨林の定義、生き物の共進化と地球の歴史との関りを導入部的に解説し、第3章からは、熱帯雨林の植物の多様性と、膨大な昆虫の多様性を、そしてこれらの生き物たちの多彩な相互作用を紹介する。第6章では、著者らにより研究されたマレーシア・サラワク州一斉開花のフェノロジーと、花粉運粉者である生き物達の記録を、そして最終章では、熱帯雨林の危機的な現状を、客観的・具体的に紹介しつつ、前向きな提言と希望で結ばれており、共感と好感が持てる。
お薦め度:★★★★ 対象:熱帯雨林にあこがれを持つ人
国際的な水準での先行研究やフィールド調査の紹介から、熱帯雨林の保全活動の方向性までを幅広く扱った概説書。「多彩な生物間相互作用」を扱った第5章は、パキシマアリが植物のボディーガードとして、他の植物の葉やつるを刈る理由を解明するプロセスや、ゾウの種子散布を調べるために森の民・レガの老人と新旧のゾウの糞を捜して歩いた調査の様子が語られ、特に興味深い。最終章では、熱帯雨林の保全のために民族生物学的な知識が注目されていること、熱帯雨林を再生・復元させるための熱帯雨林工学が求められていることなどが述べられている。
「持続可能なかたちでの利用」が生物多様性の保全のための唯一の方法であることを、日本で最も意欲的に文章化してきた一人である筆者の、研究活動の広さを知るための1冊だろう。
お薦め度:★★★ 対象:保全活動や熱帯での研究に興味のある人
動物達のコーラス、吠え声で夜明けになる熱帯雨林は、その中で植食者・送粉者・種子散布者・種子捕食者達と、展葉・開花・登熟する植物の競争と共生等のネットワークの展開を繰り返している。
植物・昆虫・動物の敵対・相利共生・片利共生の競争が多様性を造り出し、樹高の高い常緑広葉樹の森林を現出した。
専門的な面もあり難解な処もあるが、原住民の森に対する知識や智恵を体系的に記録する仕事も重要と位置づけているのに注目したい。
この宝庫が人間によって滅ぼされる現状を如何に防止するにはと、調査・研究する著者達の模索する姿が感じられる。
お薦め度:★★★ 対象:森林に関心のある人